Heterocalion
古い『世界観』は段階的に停止された。
莫大な数の世界とDNAを、メインフレームは鏡の如く、対面モニタへとコピーし続けている。
データは保管庫から溢れ、他を浸食し、消え失せる。
バグったシステムで人間を管理していたメインフレーム。そして自分だけの目的も持たずにエリスの駒として鏡を割り尽くしたアタシ。それは全てネメシスの掌の上だった。さっきの話はそういうことだったらしいが……全く理解できない。
グラーヴェ「……」
けれど、だとしたらアタシの存在意義はなんだ?
アストラル・クローン、という言葉が不意にアタシの中に湧き上がった。それはBOTに人格を持たせるためファクトリーが仕込んだ、感情、あるいは、魂。
アタシは……それを運ぶ、「容れ物」、なのか?
人間に創られた魂の器、アストラル・クローン。果たしてアタシは、余りにも痛々しい残酷なその身を手放してもなお———。
グラーヴェ「あれ……なんでアタシ……ここにいるんだっけ……」
ブリランテ「グラーヴェ、お前の気持ちは十分分かる。今すごくつらいだろう、苦しいだろう」
グラーヴェ「……同情なんていらない」
ブリランテ「でも私はお前のことを一番よく知っている。お前は昔からお人好しでいいやつだった、だがそれ故騙されやすい」
グラーヴェ「もう嫌なんだ、ほっといてくれ」
ブリランテ「グラーヴェ!」
グラーヴェ「……!」
ブリランテ「いつもの私なら『受け止めろ』と言っていただろう。だが今はそうは思わない。苦しいのなら逃げてしまえ、忘れてしまえ。メタヴァースのことも、今の奴の言葉も、ほかのことも全部だ」
グラーヴェ「……」
ブリランテ「お前一人幸せにできない世界なんか覚えておく必要はない」
グラーヴェ「……じゃあ、お前が忘れさせてみろよ、できるもんならな」
ブリランテ「なら今夜どこかに出かけよう。つらい過去を私が書き換えるんだ、お前の言う『より面白いもの』に」
ブリランテ「棄てられるのが怖いか?忘れられるのが怖いか?だったら私がずっと覚えている」
ブリランテ「私がいればいいだろ、お前が何度世界を壊しても必ず私が見つけ出してやる、だから……」
グラーヴェ「……『笑ってくれ』って言うんだろ?知ってるよ……バカ真面目」
どうしてだろう、こいつの言葉が温かく感じる。自然と涙が出てくる。
ブリランテ「私がお前を守ってやる、だから大丈夫だ、何も心配は要らない」
グラーヴェ「……うん、ありがとう、ブリランテ」
ここがどこかはまだアタシもブリランテも知らない。でも今日からここで2人で歩んでいく。
後続となる人々のため、ここに新たな扉を築く。
新たな世界の、次元ゲートとなる扉を。
作品名:Heterocalion 作家名:神崎 りね