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雫 1

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『貴方を捕まえる』

ただ、それだけを考えて生きてきた。
貴方を捕まえる為に手に入れた翼で、貴方だけを追いかけた。
何度か争いもしたけれど、それは全て永遠のため、未来の向こうに行くため。
そして、漸く貴方を捕まえた。
けれど、全てが遅かった。
僕たちはどこで、どう間違ってしまったのだろう。
解り合えたその時、僕たちは翼を失い、地へと堕ちた。
せめて、貴方だけでも救いたかった。


地球の重力に捕まり、落下するνガンダムの装甲が、摩擦熱で赤く染まる。
そんな中、νガンダムはサザビーの脱出ポッドを守る様に胸の中に抱え込む。
激しく振動するコックピットの中で、身体をシートやコンソールパネルに叩きつけられながらも、アムロはアームレイカーからは手を離さずに、必死に脱出ポッドを守った。
ミシミシと機体が軋む音がして、段々と摩擦熱でコックピット内も熱くなり、ノーマルスーツを着ていても熱を感じる。
意識すらも朦朧としてくる。
「…ここまでか…」
殆ど死んでしまったモニターの一部から見える赤い脱出ポッドを見つめ、聞こえないと分かっていながらも呟く。
「…シャア…貴方を止めたかった…」
アムロの瞳から、涙の雫が落ちていく。

『本当は、貴方と未来を見たかった…貴方を…愛していたんだ…』

それを最後に、アムロは意識を手放した。




『背中にあった翼は、君と共に無くした』

君が手に入らないならば、全てを壊そうと思った。
そうすれば、君は私を追いかけてくれるから。
君に追いかけて貰うために手に入れた翼は、君を失って意味を無くした。
君がいなくても地球は回り続ける。
しかし、君がいないなら、私の朝はもうやってこない。

落下するサザビーの脱出ポッドの中で、シャアはサイコフレームの共振が起こした光に包まれ、アムロの心を感じていた。
「このまま、君と共に死ぬのも悪くない。君が居ない世界に生きていても意味はないからな」
ずっと感じていたアムロの意識が、段々と薄れていくのが分かる。
シャアは目を閉じ、息を吐く。

『アムロ、君が欲しかった。何よりも君だけが欲しかった。これはもう恋だな。できる事ならば、君と共に未来を歩みたかった…』

アムロの思惟を完全に感じ取れなくなり、シャアもまた、それを最後に意識を手放した。


◇◇◇


その日、シャア・アズナブルが決行した地球寒冷化作戦を、ブライト・ノア率いる、地球連邦軍 外郭新興部隊ロンド・ベルが阻止しようと作戦を展開した。
内部からの爆破によって、アクシズを半分に割ることには成功したが、爆破の勢いが強すぎた為、アクシズの後方部は地球の引力に引かれ、落下を始めた。
作戦の失敗にブライト・ノアが唇を噛み締めたその時、アクシズは不思議な光と共にその軌道を変え地球の軌道を外れていった。
それは、アムロが、人々の心の共鳴が起こした奇跡。
しかし、そのアムロはラー・カイラムには還らなかった。



戦場の片隅で、一隻の戦艦のメインエンジンの光が一瞬大きく輝く。
《大佐、目標機、及び脱出ポッドを回収しました》
「パイロットは無事か?」
《先程から呼び掛けていますが、反応はありません》
「…分かった。そのまま本艦に収容せよ」
《了解》

識別不明の戦艦は、宇宙の闇に紛れ、目標物を回収してその空域を離脱した。


◇◇◇


真っ直ぐに続く長い回廊、中世ヨーロッパを思わせるその屋敷に仮面の男はいた。
シャア・アズナブルを彷彿とさせる金髪と、レトロな軍服。
シャア・アズナブルの再来と言われた男は、部下のアンジェロを伴い、屋敷の奥深くにある部屋へと向かって歩みを進める。

いくつものセキュリティゲートを通り抜け、目的の部屋へと辿り着く。
「様子はどうか?」
男の問いに、医師とみられる男が首を横に振る。
「変わらずです。二人とも、意識は戻っておりません」
部屋の中央には、二機の医療用カプセルが置かれていた。
それぞれにいくつものチューブや配線が繋がり、その周りを数人の医師や研究者が動き回る。
男はゆっくりとそのカプセルに近付き、片方の中を覗き込む。
そこには、自分によく似た金髪の男が、身体中に包帯を巻きつけた状態で眠っていた。
バイタルを示すモニターは、弱々しいながらも、はっきりとその心拍を伝えている。
「怪我の状態は?」
「骨折や火傷については大分良くなってきました。包帯も、もう少ししたら外せるでしょう」
「そうか…」
そして、隣にあるもう一機のカプセルを覗き込む。
そこには、赤茶色の癖の強い髪をした青年が眠っていた。
その彼もまた、全身に包帯を巻かれ、更に顔にも大きなガーゼが貼り付いている。
その下には痛々しい火傷の痕があった。
この二人を収容した際、その場に立ち会った男は、そのあまりの怪我や火傷の酷さに、思わず目を逸らしたくなった程だ。
素早い処置で、なんとか命を取り留めたが、一年経った今も、二人は目を覚まさない。
最近では、このまま目を覚まさないのでは?との懸念が医師団にも広がり始めていた。
「彼の方はどうか?」
「とにかく全身の火傷が酷いですからね。まだ何度か皮膚移植を繰り返さなければなりません」
「元どおりに動ける様にはなるか?」
「こちらの方が重症でしたからね。まだなんとも…。意識が戻れば希望はありますが…」
皮膚移植を繰り返せば、表面上はある程度元に戻る。しかし、意識が戻らない事にはどこまで動けるかは判断できない。
意識が戻り、リハビリを行えば、生活に不自由ない程度には回復するかもしれないが、パイロットとして復帰できる程になれるかまでは分からないと医師は言う。
その回答に、男が溜息交じりにじっと赤茶色の髪の青年を見つめる。
すると、微かに青年の瞼が動いた事に気づく。
もう一度、よく見ると、ピクピクと瞼が震えている。
「まさか…」
そのままじっと見つめていると、ゆっくりと瞼が上がっていく。そして、瞼の下から見えたのは、美しい琥珀。
焦点の合っていない視線が彷徨い、覗き込んでいた自分を捉える。
すると、その唇が小さく動き、何かを呟く。
殆ど声は出ていなかったが、それが何を紡ぎ出したか、男はハッキリと理解した。
『シャア』
確かに、青年はそう呟いた。
そして、ホッとしたような笑みを浮かべて一雫の涙を零した。
「アムロ・レイ…」
男は、思わず青年の名前を呼ぶ。
すると、その声に頷く様に青年が瞬きをする。
その様子に、側にいた医師が慌てて何やら喚いているが、それすら耳に入らぬ程、男はその琥珀色の瞳に魅入っていた。

◇◇◇

あれから数日後、意識を取り戻し、病状の安定したアムロは、別室へと移動され、火傷の治療を受けていた。
意識を取り戻したとはいえ、全身の約半分にも及ぶ火傷の痛みを和らげる為、常時麻酔を投与されており、ずっと朦朧とした状態だ。

薄っすらと開いた瞳で、ベッドに横になるアムロの元に、シャアの再来と言われた男、フル・フロンタルは毎日訪れる。
話し掛けても、チラリと視線を向けるだけで、何も答える事は無いが、自分の存在を認識している事にホッとする。
作品名:雫 1 作家名:koyuho