BLUE MOMENT4
BLUE MOMENT 4
「シロウ、お前、エミヤのこと、どう思ってる?」
不意に腕を掴まれ、キャスターのランサーに訊かれた。
「な……んだよ、いきなり?」
食堂の後片付けをして、テーブルを拭いていた俺を捕まえて、キャスターのランサーは椅子に座れって示唆する。
食堂にはもう誰もいない。あとは俺がテーブルを拭いて消灯するだけだった。
アーチャーも、もちろんいない。今日はなんだか知らないけど、いつのまにか厨房からいなくなっていた。もう部屋に戻ったみたいだ。
一応、気配を探してから椅子に座る。誰かといるところをアーチャーには見られたくない。仲間であるサーヴァントたちに俺を近づけたくないって気持ちからの厭味なんて、やっぱり堪える。
「おれ以外は誰もいねえよ。ほら、素直に答えろ」
キャスターのランサーは答えを急かす。
「好きか嫌いか、どっちなんだ?」
「そ…………んなこと、なんであんたに、」
「エミヤが不安そうだからな」
「不安って……?」
何が不安だっていうんだろう?
アーチャーには今のところ不安要素なんてなさそうだけど。
「お前さんの態度が悪いんじゃねえのか? 奴のこと、なんとも思わねえんなら、早いとこ引導を渡してやれ。ズルズルなんざ、どっちのためにもならねえんだから」
俺の、態度……?
俺は、アイツにどんな態度で……?
動けなかった時は世話になりっぱなしで、そのうちに、またアイツと意味のないセックスをするようになって、少し前に、なんだか知らないけどアーチャーを怒らせて、一週間ほどアーチャーのためだと思って強引なセックスに付き合ってみたけど、それも終わって、ここんとこ触れても来ないし……、最近はよそよそしい感じだし、話もロクにしない……。
(ズルズルって……、俺、そんな感じだったのか……)
そんなつもりはなかったのに、他人の目には、そういうふうに映っているんだな……。
それは、そうか。
もう関わりたくないと思っているアーチャーの部屋にずっと居座っているんだし、ズルズルってことになるか……。
(言ってくれればよかったのに……)
迷惑だって言われれば、俺だってごねたりしない。厄介になっているのは俺の方なんだし、部屋を出てくれと言われたら従う。いくら俺の顔を見るのも嫌だからって、他人に頼むとか……、ちょっとそれは、どうかと思う。
(いや……、責めるべきは、アーチャーじゃないか……)
やっぱり俺は、間違っていたんだ。セックスなんてしない方がよかったんだ。
アーチャーがやりたいんならいいのかと思ったけど、ダメだったのか……。
でも、怒ってた時は、なんか恐かったし、拒める感じじゃなかったから……。
あれ? だけど、俺がどんな反応をしたってアーチャーには関係がないのに、どうして俺の態度が悪いってことに……?
「……アイツが、言ったのか?」
わからないから訊いてみた。
「は?」
「俺の態度が悪いって、アイツが言ったのか?」
「いや、そうじゃねえよ、でもな、嫌いなら嫌いって言ってやれ」
「嫌い……?」
そんなわけないじゃないか。俺は、アーチャーが好きで好きでたまらない。
「違うのか? なら、好きってきちんと言わねえと」
「…………」
それが言えたら、苦労しないよ。
「なあ、シロウ。お前はエミヤに何を求めてるんだ?」
「何も」
求めるものなんてない。それ以前に、俺が何かを求めること自体おかしいんだ。そんなこと許されない。
「じゃあなんで一緒にいるんだ?」
「一緒にいるわけじゃ……。部屋は、他にないし……、厨房の仕事は俺も好きだし……」
「仕方なくいるだけかよ? なら、早いとこケジメをつけた方がいいぞ。お前、エミヤとうまくやってく自信、ないんだろ? だったらなおさらだ」
「…………」
キャスターのランサーはなんでもお見通しみたいだ……。反論も浮かばない。
「身体は?」
「え?」
「ガキじゃねえんだ、わかんだろ。肉体関係は、って訊いてんだよ。どうなんだ?」
「そ、れは……、あったにはあったけど……」
「あるんだな?」
「っ……、い、今はない」
なんでこんなこと言わされてるんだ、俺……。
「ふーん。じゃあよ、気持ちは確かめたのか?」
「えっ? 気持ち?」
「お前自身も、エミヤのも、確かめ合ったのか?」
「アーチャ、っ、エミヤのは……、知らないよ。訊いたこともない」
「なんで訊かねえんだよ」
「訊けるかよ」
「じゃあ、お前さんの気持ち」
「…………」
なんだって、こんな尋問みたいな……。
「なあ、もういいだろ。まだテーブル拭き終わってな――」
「大事なことだ。どうなんだ、シロウ。エミヤとは身体だけか? まあ、サーヴァントなんてもんは、一時的に召喚されて現界してるだけの期間限定品だ。刹那的に遊ぶのも悪いとは言わねえよ。でもなぁ、お前はそれでいいかもしれねえけど、あいつは嫌かもしれないぞ?」
俺だってよくない。だけど、どうしようもないじゃないか。期間限定だっていっても、俺には憎まれる他に何ができるわけでもない。
(そんなことより……)
なんでキャスターのランサーは、アーチャーのこと、いろいろ知ってるんだろう。
「…………」
ぐらぐらしてきて眩暈がする。
まずい、これ、六体目が離れそうな感じだ……。
「嫌いじゃないけど好きでもない、その程度なら、やめとけ」
なんでそんなこと言われなきゃならないんだ?
好きじゃないなんて、あんたにどうしてわかるんだ……。
「……っ…………」
悔しいのか、腹立たしいのか、なんだかよくわからないけど、膝に置いた拳を握る。
キャスターのランサーは、俺の何を知ってるんだ。
それに、アーチャーのことも、なんでもかんでも知ってるふうで、なんで、アーチャーと俺のことに口を出してきたりするんだ。
いくら頼まれたからって、やめろってなんでだよ!
セックスするのに気持ちが必要だっていうなら、俺が好きだから問題ないだろ!
「なあ、シロウ。身体だけなんか、やめておけよ。そんなのお前が、」
「好きじゃない奴とセックスなんかするかよ! 反吐が出そうでもアイツが望むんならって、ちゃんと俺は――」
「それだ」
キャスターのランサーに人差し指を突き付けられる。他人を指さすのはあんまりいいマナーとは言えないんだぞ。そんなこと指摘しても、きっと英霊のほとんどは鼻で嗤うだけだろうけど……。
「な、なに、が、だよ?」
余計なことを考えながら、どうにか答える。
「義務でセックスなんかしてたから、キツいんだろ?」
「そ……なこと、言っても……、アイツが……」
「あいつが言ったから? あいつがヤろうって言えば、お前はなんでも同意するのか?」
「…………」
「じゃあ、あいつがお前に死を望むなら、お前、死んでやるつもりか」
「っ……それ、は……」
「まんざらでもねえみたいだな」
何もかも見透かされてる……。何を言っても墓穴を掘る気がする。
「あのな、シロウ。んなこと本気で思ってる奴はな、狂ってるって言うんだぞ?」
狂ってる……?
そうかもしれない。俺は、未来を変えようとして、何もかもかなぐり捨てて……。
「シロウ、お前、エミヤのこと、どう思ってる?」
不意に腕を掴まれ、キャスターのランサーに訊かれた。
「な……んだよ、いきなり?」
食堂の後片付けをして、テーブルを拭いていた俺を捕まえて、キャスターのランサーは椅子に座れって示唆する。
食堂にはもう誰もいない。あとは俺がテーブルを拭いて消灯するだけだった。
アーチャーも、もちろんいない。今日はなんだか知らないけど、いつのまにか厨房からいなくなっていた。もう部屋に戻ったみたいだ。
一応、気配を探してから椅子に座る。誰かといるところをアーチャーには見られたくない。仲間であるサーヴァントたちに俺を近づけたくないって気持ちからの厭味なんて、やっぱり堪える。
「おれ以外は誰もいねえよ。ほら、素直に答えろ」
キャスターのランサーは答えを急かす。
「好きか嫌いか、どっちなんだ?」
「そ…………んなこと、なんであんたに、」
「エミヤが不安そうだからな」
「不安って……?」
何が不安だっていうんだろう?
アーチャーには今のところ不安要素なんてなさそうだけど。
「お前さんの態度が悪いんじゃねえのか? 奴のこと、なんとも思わねえんなら、早いとこ引導を渡してやれ。ズルズルなんざ、どっちのためにもならねえんだから」
俺の、態度……?
俺は、アイツにどんな態度で……?
動けなかった時は世話になりっぱなしで、そのうちに、またアイツと意味のないセックスをするようになって、少し前に、なんだか知らないけどアーチャーを怒らせて、一週間ほどアーチャーのためだと思って強引なセックスに付き合ってみたけど、それも終わって、ここんとこ触れても来ないし……、最近はよそよそしい感じだし、話もロクにしない……。
(ズルズルって……、俺、そんな感じだったのか……)
そんなつもりはなかったのに、他人の目には、そういうふうに映っているんだな……。
それは、そうか。
もう関わりたくないと思っているアーチャーの部屋にずっと居座っているんだし、ズルズルってことになるか……。
(言ってくれればよかったのに……)
迷惑だって言われれば、俺だってごねたりしない。厄介になっているのは俺の方なんだし、部屋を出てくれと言われたら従う。いくら俺の顔を見るのも嫌だからって、他人に頼むとか……、ちょっとそれは、どうかと思う。
(いや……、責めるべきは、アーチャーじゃないか……)
やっぱり俺は、間違っていたんだ。セックスなんてしない方がよかったんだ。
アーチャーがやりたいんならいいのかと思ったけど、ダメだったのか……。
でも、怒ってた時は、なんか恐かったし、拒める感じじゃなかったから……。
あれ? だけど、俺がどんな反応をしたってアーチャーには関係がないのに、どうして俺の態度が悪いってことに……?
「……アイツが、言ったのか?」
わからないから訊いてみた。
「は?」
「俺の態度が悪いって、アイツが言ったのか?」
「いや、そうじゃねえよ、でもな、嫌いなら嫌いって言ってやれ」
「嫌い……?」
そんなわけないじゃないか。俺は、アーチャーが好きで好きでたまらない。
「違うのか? なら、好きってきちんと言わねえと」
「…………」
それが言えたら、苦労しないよ。
「なあ、シロウ。お前はエミヤに何を求めてるんだ?」
「何も」
求めるものなんてない。それ以前に、俺が何かを求めること自体おかしいんだ。そんなこと許されない。
「じゃあなんで一緒にいるんだ?」
「一緒にいるわけじゃ……。部屋は、他にないし……、厨房の仕事は俺も好きだし……」
「仕方なくいるだけかよ? なら、早いとこケジメをつけた方がいいぞ。お前、エミヤとうまくやってく自信、ないんだろ? だったらなおさらだ」
「…………」
キャスターのランサーはなんでもお見通しみたいだ……。反論も浮かばない。
「身体は?」
「え?」
「ガキじゃねえんだ、わかんだろ。肉体関係は、って訊いてんだよ。どうなんだ?」
「そ、れは……、あったにはあったけど……」
「あるんだな?」
「っ……、い、今はない」
なんでこんなこと言わされてるんだ、俺……。
「ふーん。じゃあよ、気持ちは確かめたのか?」
「えっ? 気持ち?」
「お前自身も、エミヤのも、確かめ合ったのか?」
「アーチャ、っ、エミヤのは……、知らないよ。訊いたこともない」
「なんで訊かねえんだよ」
「訊けるかよ」
「じゃあ、お前さんの気持ち」
「…………」
なんだって、こんな尋問みたいな……。
「なあ、もういいだろ。まだテーブル拭き終わってな――」
「大事なことだ。どうなんだ、シロウ。エミヤとは身体だけか? まあ、サーヴァントなんてもんは、一時的に召喚されて現界してるだけの期間限定品だ。刹那的に遊ぶのも悪いとは言わねえよ。でもなぁ、お前はそれでいいかもしれねえけど、あいつは嫌かもしれないぞ?」
俺だってよくない。だけど、どうしようもないじゃないか。期間限定だっていっても、俺には憎まれる他に何ができるわけでもない。
(そんなことより……)
なんでキャスターのランサーは、アーチャーのこと、いろいろ知ってるんだろう。
「…………」
ぐらぐらしてきて眩暈がする。
まずい、これ、六体目が離れそうな感じだ……。
「嫌いじゃないけど好きでもない、その程度なら、やめとけ」
なんでそんなこと言われなきゃならないんだ?
好きじゃないなんて、あんたにどうしてわかるんだ……。
「……っ…………」
悔しいのか、腹立たしいのか、なんだかよくわからないけど、膝に置いた拳を握る。
キャスターのランサーは、俺の何を知ってるんだ。
それに、アーチャーのことも、なんでもかんでも知ってるふうで、なんで、アーチャーと俺のことに口を出してきたりするんだ。
いくら頼まれたからって、やめろってなんでだよ!
セックスするのに気持ちが必要だっていうなら、俺が好きだから問題ないだろ!
「なあ、シロウ。身体だけなんか、やめておけよ。そんなのお前が、」
「好きじゃない奴とセックスなんかするかよ! 反吐が出そうでもアイツが望むんならって、ちゃんと俺は――」
「それだ」
キャスターのランサーに人差し指を突き付けられる。他人を指さすのはあんまりいいマナーとは言えないんだぞ。そんなこと指摘しても、きっと英霊のほとんどは鼻で嗤うだけだろうけど……。
「な、なに、が、だよ?」
余計なことを考えながら、どうにか答える。
「義務でセックスなんかしてたから、キツいんだろ?」
「そ……なこと、言っても……、アイツが……」
「あいつが言ったから? あいつがヤろうって言えば、お前はなんでも同意するのか?」
「…………」
「じゃあ、あいつがお前に死を望むなら、お前、死んでやるつもりか」
「っ……それ、は……」
「まんざらでもねえみたいだな」
何もかも見透かされてる……。何を言っても墓穴を掘る気がする。
「あのな、シロウ。んなこと本気で思ってる奴はな、狂ってるって言うんだぞ?」
狂ってる……?
そうかもしれない。俺は、未来を変えようとして、何もかもかなぐり捨てて……。
作品名:BLUE MOMENT4 作家名:さやけ