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彼方から 第二部 第四話

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彼方から 第二部 第四話


 空を暗く、重く埋め尽くしている雨雲が、雷鳴を轟かせながら近づいてくる。
 やがて、大粒の雨が、窓を叩き始めた。

 ――降ってきた……
 ――ご丁寧に雷まで鳴って…… 
 ――陽はもう暮れかけて、逢魔が時
 ――人を陰々滅々たる気分にさせる、効果満点……

 ノリコは部屋で一人、音を立てて降る雨と稲光で所々光る雲を、窓から見詰めている。

 ――イザークはいない
 ――おばさんもいない

 そのせいか、マイナス要素しかないことばかりが、頭に浮かんでくる。

 ――お家は荒らされてメチャクチャ
 ――あたしなんかにはとても手に負えない、政治内乱問題まで絡んじゃって

 どんどん考えが、重く、暗くなってゆく。
 それに応じて、ノリコの肩もどんどん落ち、俯いてゆく。

 ――先行きどうなるのか、不安に押し潰されて
 ――このままいくと、奈落の底にどっぷんこ

 自分で自分を落ち込ませてゆく……
 それが分かっている。
 ノリコはとにかく、自分で考え得る限りの悪いことを考え、肩を落としながらも握り拳を作り、体を震わせる。

 ――こういう時は!
 ――何か自分に出来ることを見つけなきゃ!!

 そしていきなり顔を上げると、

 ――そうっ!
 ――大したことでなくてもいいのよっ!
 ――とにかく出来ることっ!!

 そう自分に言い聞かせ、自身を奮い立たせ、指を立てるとどこか上を見据えていた。

「…………」
 そんな彼女の様子を、アゴルは気づかれないように、開けっ放しの部屋の入り口から覗き見ている。
 ノリコは、立てた指をそのまま額に当て、何事かを考え始めた。

 ――えーと、状況を良く考えて
 ――イザークは行方が分からないから、追っかけても無駄よね
 ――おばさん達の消息も分からないけど
 ――もしかして、戻って来てくれる可能性もある訳だから……
 ――ここで待っているのが一番ね
 ――となると、ここであたしが出来ることは……

 考えが纏まったのか、ノリコは部屋の中をキョロキョロと見回し始めた。
「…………」
 そして気づく、その汚さに……

 ――やっぱりお掃除っ!
 ――うん、それなら出来る!!

 そして箒を手に、決意を新たに身構えていた。

   *************

 ――しばらく、しょげてたかと思ったら
 ――急に胸張って、腕組みして考え込んで……
 ――そして、徐に掃除を始めた……
 ――なんだか、彼女の心理が手に取るように分かるな……

 ずっと、ノリコの様子を窺っていたアゴルは、彼女の一連の行動を見て、そう思う。
 ノリコはそんな風にアゴルに見られていることにも気づかず、思い立った通り、掃除を始めていた。
 倒れた家具を片しながら、掃き進めてゆく。

 ――ほんとに普通の……
 ――女の子なんだよなァ……
 
 アゴルは額に手を当て、考えあぐねるように壁に体を預けてゆく。

 ――カルコの町で話を聞いた時は
 ――彼女こそ【天上鬼】を蘇らせる【目覚め】なのかと思ったが
 ――とても、そうは見えない……
 
 一心不乱に掃除をするノリコを見やりながら、アゴルは自問自答を始めた。

 ――さて、どうするアゴル
 ――これをリェンカに報告するのか
 ――命令を受けてから、道中ずっと……
 ――おれは迷って来たのだ
 ――この仕事について……

 薄暗い廊下に立ち、空を見詰める。
 脳裏には、ラチェフの姿と言葉が蘇ってくる。

『やがて、戦乱の世が始まるだろう
 国々がこぞって欲しがる【天上鬼】
 そのカギとなる【目覚め】
 これを我がリェンカが押さえれば
 彼らはどうするだろうな』

 冷ややかな瞳に、薄い笑みを浮かべるラチェフの顔が浮かぶ。
 ラチェフの館、庭園に設えられている東屋の中。
 そこでの、二人きりでの会話。
 
『我々は商人だ
 天下国家に興味はない
 どの国であろうと
 取引が成立すればそれでいい
 愚かな争いは彼らに任せ
 我々は裏でその恩恵に与るのだ』

 緑の美しいその場所で、ラチェフは甘言を口にしてくる。

『アゴル 
 この仕事での君の役目は大きい 
 成功すれば莫大な金が手に入る
 いつまでも傭兵など
 やっていたくはあるまい?
 娘の為にも
 安定した地位や
 高い身分が欲しくはないか?』

 それは……喉から手が出るほど欲しいもの……
 アゴルの脳裏に、泣き腫らした眼をした、ジーナハースの姿が浮かんでくる。

 ―― おとうさん…… ――

 悲しげに寂しげに、心許無げに――自分を見上げる娘……
 
 ――その頃……
 ――ずっと娘ジーナの面倒を見てくれていた、おれの母親が亡くなって
 ――ジーナの行く先を思案していた時だった

 ベッドに横たわる、母の遺体が思い返される。
 傍らに膝を着き、ジーナはいつまでも、泣いていた……

 ――仕事に必要なのは、ジーナの占いの力
 ――おれはその補佐役と言ったところか

 ――金も欲しい、身分も欲しい
 ――何より、娘と一緒にいてやれる仕事など、他にない……
 ――だから、引き受けた

 傭兵も今回の仕事も、とても安定しているとは言えない。
 どちらもアゴルの身に、危険が伴う……それは、ジーナの身にも及ぶ。
 親であれば――普通に子を想う心があれば、『安定』を求めるのは、至極当然のことだろう。
 
 ――だが……

 それでも、アゴルは考えずにはいられない。

 ――何故、みんな考えないのだろう
 ――【天上鬼】が目覚めた後のこの世の姿を
 ――そんなものを支配することの恐ろしさを……

 それは、『親』たればこそ――なのかもしれない。
 後の世、未来は、今を生きる自分たちよりも、『先』のある今の子どもたちの方に、多大な影響がある。

 ――闇の力を借りて制した世界は
 ――はたして平和になるのだろうか

 ――おれのジーナの力を
 ――そんなものの為に使わせていいのだろうか

 ――目先の欲のみに囚われて
 ――何か大きなものを
 ――見落としているような気がする……

 子の、娘の行く先を案じるからこそ、先に待つ未来の姿を思い描く。
 そこが平和であると、断言できる者は誰一人としていない。
 今の世の有様を見れば、安寧とは無縁の世界が待っているようにしか思えない。
 今が良ければ、それで良いのか……?
 その先は……? 

 アゴルの想いは、その思案は、未来を――そして行く先を、常に案じていた。

   ************

 ―― リェンカ ――

「なに? 数日前からアゴルが行方不明だった?」
「どういうことだ、それは!?」
「我々の付けた尾行班の報告では、エンデの街でしばらく連絡を断つという、書き置きを残してぷっつりと……」
 それは、各商会の代表者たちによる定例代表会議においての、話し合いの中で報告された内容だった。
 ラチェフの館の一室、恐らくこういう会議の為にある部屋なのだろう。
 簡素な造りだが上品さの漂う、観葉植物の置かれた部屋。
 皆、座椅子に腰を下ろし、ラチェフを上座に置き、十名近い代表者たちが顔を突き合わせている。