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BLUE MOMENT5

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BLUE MOMENT 5


 アーチャーを俺の中から弾き出したあと、アーチャーとダ・ヴィンチはすぐに部屋を出ていった。
 助かる……。
 正直、どんな顔したらいいか……。
「…………」
 どうすればいいんだ……。
 六体目が分離することまでアーチャーに知られた。
 やっぱりアーチャーに面倒をかけてしまった。俺の中にまで来て、アイツは俺のために……。
(それを、俺は……っ!)
 追い出してしまった。
 それに、ここはアーチャーの部屋だっていうのに、この部屋からも追い出したみたいになって、俺はいったい何をしているんだ……。
 反省のし通しでベッドに座ったまま、どのくらい時間が経ったかもわからない。
「まだ……、起きていたのか……」
 不意に聞こえた声に驚いた。
「…………ああ」
 アーチャーを見ることなく答えれば、俺の背後、ベッドの反対側に腰を下ろしたのがわかる。マットレスが少しだけ揺れた。
「所長代理に頼んでおいた」
「……なに、を?」
 静かな声に少し緊張しながら訊けば、
「空き部屋を頼むと。すぐには無理だが、わかり次第知らせてくれることになった」
「…………」
 空き……部屋…………。
「いつまでもここにいるのは、どうかと思ってな。それから、厨房の手伝いも、もうしなくていい」
「え? でも、」
「お前が動けなかった時もなんとか回っていたのだ、どうにかなる」
「…………そうか」
「部屋の方はできるだけ急いでくれと言っておいた。そう待つこともなく知らせは来るだろう」
「……わかった」
 アーチャーは横になったみたいだ。マットレスがまた揺れた。
 膝に置いた拳を握りしめる。
 俺は何に衝撃を受けているんだろう?
 アーチャーが俺を追い出すとは、思いもよらなかったか?
 そんなわけがない。
 俺はアーチャーを追い出したんだ、当然、アーチャーだって……。
 ぽつ、と拳に雫が落ちた。
 どうして俺は、泣いてなんかいるんだろう?
 今までがおかしかったんだ。アーチャーが俺と一緒の部屋で過ごしていること自体、はじめからありえないことだったんだ。
「……っ…………」
 嗚咽を必死に噛み殺して、シャワールームへ逃げ込んだ。水音でしゃくりあげる音をかき消す。こんなの、アーチャーに気づかれてはいけない。
「は……」
 ため息ばかりが落ちていく。
 傍にいられるだけで、守護者じゃないアーチャーを見ていられるだけで、と思っていた。
 そんなこともできなくなるなんて……。
(俺はこれから、カルデアでどうやって……?)
 何も浮かばない。
 この先のことなんか、一寸先すら見えなかった。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 あれ以来……、士郎の深層心理から弾き出されて以来、士郎は私を見ることがない。そして、私も士郎を見ることがない。
 怒らせた。
 いくら六体目が分離する現象をどうにかするためと謂えど、その深層にまで踏み込んでは、誰だっていい気はしない。
 何しろあそこには、士郎の記憶が蓄積されていた。誰もがあのような内面を持ち合わせているかなど知らないが、とにかくあの場所は、士郎の一番大事な部分。
 誰にも触れられたくない場所のはず。
(そこへ私は、土足でズカズカと乗り込んで……)
 非は完全に私にある。
 だが、謝ろうにも、話しかけることすらできず、そのままズルズルと引き延ばしているというか、見て見ぬフリというか……。
「くそ……っ」
 士郎が部屋を移る前に謝って、どうにか繋がりを保っていたいと未練がましく思う。だが、この現状をどうにかしなければと焦るばかりで、時間だけが無為に過ぎていった。

「はぁ……」
 これは、拷問というやつではないのか……。
 いまだ、士郎と同じ部屋で過ごしているというのに触れられないし、士郎とはまともに顔を見合わせることもない。
 必要最低限の会話をするにしても、どんな顔をして応対すればいいというのだろう……?
 わからないので、いつも私は不機嫌な顔になっている。一方的に敬遠しているようで、士郎は不快だろう。
 決して不機嫌なのではない。そう思われるのはとても心外なのだが、なす術がなく、このような態度になってしまっているのだ。
 そう言い訳をしたいが、それが許される状況に私はない。
 こんな経験は、ない。
 拗れた相手と仲良くするような術など、私は持ち合わせてはいない。だが、士郎は平気なようだ。一日中言葉を交わさずとも、居心地は悪そうではあるものの、同室であることに文句を言わない。
 存在の長さでいえば、私の方が圧倒的に長いというのに、士郎の方がその点においては私よりも長けている……。
 いや、それとも、ただ単に私を受け入れているだけ、ということなのだろうか。ただ時間が過ぎるのを待っているとか、そういう……。
 では、やはり、士郎は私のことをどうとも思っていない、ということなのだろうか……。
 考えれば考えるほど気持ちは下がっていく。今日も今日とて、士郎の眠る隣で悶々としなければならないのかと思うと気が滅入る。
(士郎はどういうつもりなのだろうか……)
 好きな者でなければセックスなどできないと言い、深層では私のものだと言っていた。
 それは、今もなのだろうか?
 士郎の深層から弾き出された私は、まだ士郎に……?
 ありえないだろう。
 あの瞬間までは微かな望みはあったかもしれないが、今となってはもう、完全に望みは断たれた。
「おーい、エミヤー、なんか暗ぇぞー」
「…………」
 調理の手を止めることなくその声の主、クー・フーリン(槍男の方だ)を上目で睨めばたじろいでいる。
 あれから三日、士郎とは顔を見合わすこともできないまま、触れることもできないまま、熱は溜まる一方で、それでも士郎には背を向けて……。
 これが暗くならずに、いや、不機嫌にならずにいられようか。
「えーっと……、シロウとは、あのあと……」
「おかげさまで、士郎とは、さらに難儀なことになった」
「はあ? どういうこったよ! おれたちが協力してやったろうがよ!」
「協力? よく言う。私は士郎の気持ちが知りたいと言っただけで、説教をしろとは言っていないぞ」
 キャスターのクー・フーリンは、士郎の気持ちを確かめるだけだと言っていたというのに、なんだかんだと士郎を諭していた。まあ、当初の目的通り、士郎の気持ちは知ることができたが、さらに難解になったことは言うまでもない。
 士郎は好きではない者とセックスはできないと言った。だが、セックスは好きではない。その上、私には憎まれていると思っている。ということは、士郎は私が好きではあるが、セックスは私に付き合っていただけ、ということになる。
(あんなに熱く求めていたのに……、なぜ士郎にはわからないのか……)
 恨みがましく思っても仕方がないか。経験の浅さからなのか、なんなのか、士郎の鈍さは筋金入りだ。
 それがわかっていたというのに、私は、はっきりとは何も言葉にしなかった。
 結局、我々は何も育むことができず、士郎の行為は、すべてが私に応えるという、ただの気遣いでしかなかったということが、私には二重どころか、もう何重ものショックだ。
「まあ、キャスターのヤローは、説教臭かったよなぁ」
作品名:BLUE MOMENT5 作家名:さやけ