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章と雪

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「痛っ、、、。」
針で指を突いた。
蒙浅雪は、突いた自分の指を見ていた。大したことは無いと思っていたのだが、突いた左の人差し指に、じわじわと小さな血の玉が出来てゆく。
「世子妃?、大丈夫ですか?。」
浅雪付きの侍女が心配気に声をかけた。
「うふふふふ、、、、。」
浅雪は、痛い指を口にして、嬉しそうに笑っていた。
「世子妃??、どうされましたので?、、。」
「うふふふふふふふふ、、、、、、。」
浅雪は満面の笑みになり、ふにゃけてしまっている。
先月、婚礼を挙げ、長林王府での生活が始まった。何かと儀礼的な雑事も多く、忙しく暮らしていたが、やっと落ち着いた。
浅雪は簫平章の妻となったが、留守がちな平章せいか、夫婦になった実感が乏しい。
世子妃とか、若奥様と呼ばれる事で、ようやく実感を持てている。侍女にそう呼ばれる度に、体の力が抜けるほど、嬉しく、恥づかしくなる。
留守がちな夫ではあるが、大好きな平章哥哥と、晴れて夫婦となり、この世が終わっても浅雪だけは幸せに違いない。
妻としての浅雪は、料理はそこそこ出来るものの、座りっぱなしの、針仕事の様な細かい作業は、どうにも苦手で、ずっと避けて来たのだが、遂に平章の妻となり、避けられぬ事となった。腰を据えて、取り掛かる事に、、、。
婚礼前にも、何度か平章の衣を縫おうとしたのだが、とうとう一着も渡せぬまま、輿入れとなったのである。渡せぬと言うより、縫い上がっていなかったのだが、、、。
「長林王妃です。」
部屋の外にいる侍女が、浅雪に声を掛けた。
浅雪が外を見ると、長林王妃が、浅雪の居る東院へと、向かって来ているのが見えた。
急いで針仕事を止めて、義母を迎える為に立ち上がり、部屋の入口へと向った。
「お義母様。」
浅雪は恭しく義母を迎える。王妃は穏やかに、浅雪に声をかけた。
「慌ただしかったけれど、長林王府での暮らしも、だいぶ慣れたわね。」
はい、と明るく浅雪は答える。
「あら、、、。」
長林王妃が奥に目を止める。
「針仕事、、、。」
にっこりと笑って長林王妃が、広げられた絹布の側へと歩みを進めた。
そして、さっきまで浅雪が縫っていた、布を手に取る。
「見事な刺繍だわ、小雪。縫い物が苦手だなんて、嘘ね。」
長林王府は、布を広げて視線を走らせていた。
「、、、あの、、、それは、、、私じゃ、、、ナインデス。」
「、、、あら。」
恥ずかしそうにする浅雪と、呆気に取られた長林王妃の目が合った。
「、、、、実家にいる、刺繍の得意な者にして貰って、、私は縫い合わせてるだけなんです、、、。」
「まぁ、、、。」
「精一杯がんばってるんですけど、、、、針目が、、酷くて、、。
ああ、私って馬鹿。、、肌着にしておけば良かったわ、、。そうしたら、人目に触れることもなくて、楽に縫えたでしょうに、、。
立派な衣を縫ってあげたくて、、、私には無理だったのに、、。」
肌着だって、楽ではないのだろうが、、。
裁断されてはいたが、まだ衣は縫い始めたばかりの様子だった。
糸を抜いては、何度も同じ所を縫い合わせている様子で、そこだけ生地が傷んでいた。
余程、上手く縫いたいのか、いや、浅雪はただ、平章に格好良くいて欲しいだけなのかもしれない。
何せ自分の命よりも、大切な人なのだから。
平章を守りたい一心で、いつの間にか剣の腕は、平章を抜いてしまった。
「小雪の侍女に、縫わせれば良いでは無いの。得意な者はいるでしょう?。誰が縫ったかなんて、分からないわ。」
「えーっと、、それはそうなんですけど、、、他の人が縫ったのを着せたくないっていうか、、、、、あっ、お義母様は別です。
私って、嫉妬深いのかしら、、、新婚早々、平章に嫌われて、蒙府に帰されちゃうかも、、。」
本気で心配している浅雪を見て、王妃は嫁を、可愛らしいと思った。
「うふふふふふ、、、あなたは正直ね。小雪の、取り繕ったり、嘘をついたりしない所が、私は大好きだわ。」
浅雪は恥ずかしげに、下を向いて笑っている。その様子は、新妻らしく可愛らしい。
「うふふ、、、嫌だわ、私まで浅雪からうつって、恥ずかしくなっちゃうわ。」
「やだ〜、お義母様〜。」
更に恥ずかしがる浅雪。
意外な浅雪の一面に、長林王妃は目を細めて笑っていた。
いくら宮廷での地位が高くとも、お堅い文人の家門から、気位の高い嫁を選ぶ気は、更々無かったが、まさか、梁の武門として誉高い、蒙家から嫁を迎えようとは。しかも若くして、女だてらに剣の達人であり、更には今では、我が子平章より、その腕は上なのだという。
王妃は、てっきり、平章は真面目で、浮ついた事など一切無いのだと思っていたら、蒙家の娘を嫁にしたい、と言い出した。何とそれは十四の時。
生真面目な子だと、ずっと思っていた平章から、突然言われて、誰もが面食らった。
少し時間が経てば、平章も我に返るだろうと、父長林王は、暫くこの話を放っておいた。何せ話を進めるには、あまりに若すぎる。
長林王夫妻に言っても、埒が明かないと思ったか、平章は陛下に申し出た。
それはそれは大騒動だった。
まさか皇太子でもあるまいに、二人の情が通じていようが、そのまま婚儀という訳にはいかない。どう見ても、子供二人なのだ。皇帝は、数年棚上げにするよう、二人と両家に言い渡した。周囲の人々は、これで二人の気持ちも、幾らかは冷めるだろうと思っていた。
一時の気まぐれではなく、二人とも、本気だったのだ。後々色々と、二人は証明している。

適齢期よりも、早く、嫁入りが決まった上に、浅雪もまた、花嫁修行といった事には、全く興味がなく、蒙家では、嫁入りの修行が間に合わなかった様で。
幼い頃から軍営で過ごした浅雪は、剣術ならば実際に見なくても、何の事か分かるのに、嫁修行のあれこれは、何度聞いても覚えられずに、花嫁修行は難航した。
花嫁修行に、日に日にやつれていく浅雪を、見るに見兼ねて、平章がしなくて良い、と言ったらしい。

そして、花のような愛らしい新妻が、王府に嫁いできた。
男ばかりのむさ苦しい王府に、蝶が舞い降りた様だった。
林府か喜びに沸き立ったばかりか、剣振りばかりして、娘らしさが少ない浅雪を、この娘は嫁の行き手がないと、先行きを案じていた蒙家の人々も喜び、二人の婚礼を遮るものは何一つ無かった。
ただ、浅雪の両親と、一部の蒙家の親族では、あまりの浅雪の不出来さに、早々に実家に返されるのではないかと、はらはらとしていたが。

浅雪は家の雑事などは不得手だが、気性は真っ直ぐで、素直な娘だった。
長林王妃には、そこがまた可愛らしいく思えた。
その辺の知恵が回る女子(おなご)と違って、変な小理屈を並べたりせず、苦手な物は苦手だと、した事が無いので教えて欲しいと、真っ直ぐに王妃に頼むのだ。
娘が一人、出来たようだった。

「小雪、私の部屋へいらっしゃい。この布地に合う針と糸を、見繕ってあげるわ。この針と糸じゃ、慣れない者には大変でしょう。小雪より、まだ、私の方がマシかもしれない。私も得意じゃないけど、衣を縫う位ならば、教えてあげられるわ。」
「はい!。」
浅雪は、嬉しそうに満面の笑みで答える。
一層の可愛らしさに、姑の王妃も笑顔になった。
作品名:章と雪 作家名:古槍ノ標