Lovin’ you ~If~ 〈未来へ〉3
ネオ・ジオン紛争後も、エゥーゴが地球連邦軍に属する事なく、独自の組織として存続し続けたのは、地球連邦政府の腐敗しきった内情を目にしたシャアが、連邦上層部を改革するよりも、エゥーゴを連邦に対抗できる組織へと成長させる道を選んだからだ。
同等の組織の存在は、その均衡を保つ為、公正な関係を築く事が出来る。
エゥーゴは、シャアの手腕とカリスマ性によって多くのスペースノイドを味方に付け、また、旧ジオンの人間も、シャアのその出自から、傘下に入る者が後を絶えなかった。
その為、今では充分に地球連邦政府と対等に渡り合える組織へと成長していた。
そしてそれは、連邦政府からアムロを守る為でもあった事は言うまでもない。
アムロが懸念していた様に、連邦軍に吸収されてしまえば、アムロは脱走兵として囚われる危険があった。
そして、カイルやお腹の子供もニュータイプ研究所へ送られてしまっただろう。
アムロや子供達を連邦の好きにさせるなど、シャアが許すはずも無く、総帥である自身の伴侶としてアムロに相応の立場を与え、連邦の介入を阻止したのだ。
「ごめん、お待たせ」
ブルーのドレスに身を包んだアムロが、扉を開けて入って来る。
シンプルなデザインのドレスが、アムロの白い肌と、ふんわり結われ、片方に纏められた赤い髪を引き立たせていた。
「ああ、綺麗だ」
シャアは立ち上がり、両手を広げてアムロを迎え入れる。
「なんだか、いつまで経ってもこういうのって慣れないなぁ。あんまり似合わないし…」
スカートを少し持ち上げ、ゆっくりとシャアに歩み寄りながら、くるりと回って自身の姿を見る。
「そんな事は無い、似合っている。いつもの制服やノーマスーツ姿も良いが、ドレス姿も私は好きだ」
「そ、そう?シャアがそう言うなら良いや」
少し顔を赤らめながら、上目遣いで見上げるアムロに愛しさが込み上げる。
しかし、隣で腕時計を見ながら少し焦っているナナイの姿に、抱き締めようと出し掛けた手を引っ込めた。
「さぁ、そろそろ時間だ。行こうか」
「うん、ナナイ大尉も、遅くなってしまって本当にすみません」
ぺこりと謝るアムロに、ナナイも毒気を抜かれ、肩の力を抜く。
「大丈夫です。さぁ、参りましょう」
「はい」
総帥夫人でありながらも、偉ぶる事なく皆に接するアムロは、元ジオン兵にも徐々に受け入れられ始めていた。
密かにシャアへと想いを寄せていたナナイも、アムロを相手に張り合おうとは思えず、今ではアムロに好意さえ抱いている。
それに、普段は物腰の柔らかいアムロが、ひと度モビルスーツに乗れば、軍人としての顔になり、無敵を誇るその姿に感動を覚えた。
「お母さん、いってらっしゃい」
シャアのそばで遊んでいたライラがアムロへと声を掛ける。
「ライラ、ごめん。行ってくるね」
まだ小さな我が子を置いて出掛ける事に、不安と申し訳なさを感じて、小さな身体をギュッと抱き締める。
「うん、大丈夫。(ララァも居るから)」
最後の言葉は、アムロにだけ聞こえるように囁く。
カミーユと並ぶ程の高いニュータイプ能力を持つライラは、ララァを感じる事が出来るらしい。
「そっか。(ララァ、よろしくね)」
『ふふふ…』
そんな二人の脳裏に、鈴を転がすような優しい声が響き渡った。
「どうした?アムロ」
「あっううん、何でもない。行こうか」
「…?ああ…」
「じゃあね、ライラ」
「うん」
最後にギュッと抱き締め、部屋を後にした。
会場へ向かうエレカの中で、シャアがそっとアムロの手を握る。
「シャア?」
「君にも苦労を掛けるな。疲れたらいつでもパーティを抜けていい」
元々こういった事があまり得意でないアムロは、パーティが終わるといつもぐったりしている。
しかし、こう行った場ではパートナーが同伴するのは礼儀であり、スペースノイドの繋がりを深め、スポンサーとなる出資者を募るためには必要な事だった。
「何、言ってるんだ。これだって大事な総帥の仕事だろう?それに私の仕事でもある」
「ああ…そうだが…」
しかしこういったパーティでは、ファーストニュータイプであるアムロに、興味本位で近付いてくる者もいれば、恨みを持ち、命を狙ってくる者もいる。
アムロにかなり負担を掛けているのは事実だ。
「ふふ、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」
「アムロ…」
にっこりと微笑んでくれるアムロに、胸が熱くなる。
そして、この愛しい存在が側にいてくれる事に喜びが込み上げる。
「何がっても君と子供達は守ってみせる。…だから…ずっと私の傍にいてくれ」
少し不安げな、でも優しい瞳に、アムロがシャアの手をギュッと握り返し、笑顔で応える。
「私も貴方を守ってみせる。ずっと一緒にいよう」
真っ直ぐに見つめてくる琥珀色の瞳は、力強い光を宿し、その意思の強さを感じさせる。
それはシャアが求めて止まなかった輝き。
その瞳に応えるように、シャアも自信を込めた瞳で見つめ返した。
「ふふ、君といれば、私はどこまでも強くなれる気がする」
「そうだね、私も貴方と一緒なら何でも出来る様な気がする。私達ってなかなかコンビだと思わないか?」
ウィンクして見上げるアムロに、当然だと言わんばかりの顔で応える。
「当然だろう?君は私の唯一であり、私は君の唯一なのだから」
end
久々のLovin’you 【if】シリーズ。ライラ誕生編でした。
2019.4.28
koyuho
作品名:Lovin’ you ~If~ 〈未来へ〉3 作家名:koyuho