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サツキヒスイ
サツキヒスイ
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続・軍師姫、一計を案じる

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━━━━━あいりすミスティリア! SS  続・軍師姫、一計を案じる━━━━━

今日も今日とて、ボクは遅刻ギリギリの時間に学園へ向かっている。
今回の夜更かしの理由は、軍学書片手に机上演習に耽り、気づいたらとんでもない時間でした……
それでも、朝の支度に122分掛けるのは怠らず、大きなあくびをしながら教室に入り着席する。
頭の重さが重力に逆らえず、眠気も相まって、結局身体を机に委ねてしまう。
仮にもパルヴィン王国第二王女が、こんなだらしない姿を晒すのはどうなのかなって思ったけど、もう今更である。
しかし、意識がはっきりしない中、朝の雑談に耳を傾けるとおもしろい。
さすがに内容まではわからないが、皆の調子を測るのにちょうど良い物差しだった。
クルチャは朝からハイテンションだなあ、とか、アシュリーとクレアは武術について熱心に語り合ってる様で真面目だなあ、とか。
逆に声がしない方がいつも通りだな、っていうのがコトで、どうやって教室まで来たのか不思議に思うくらい始業前なのにぐっすり寝ている。
見かねたクリスがコトを起こしにいくまでがワンセットだ。
皆、今日も普段通りだなと思って状態を起こそうとした瞬間、身体がピクッと震えた。
おかしい、朝から大きな声で談笑してるシャロンの声が聞こえない。
遅刻? それとも休み? そう思いながら身を起こし普段シャロンが座っている席を見ると、本人はちゃんといた。
けれど、アンニュイな表情で目はどこか遠くを見ており、頬杖して小さくため息を漏らす姿は、見た目通りの恋する女の子って感じだ。
昨日までは間違いなく豪快なドラゴニアだったのに、どうしたら一日で物憂げな少女の様になってしまったのか?
これはまた何かあるかも知れない。

シャロンの様子がおかしいとはっきり認識したのは、昼食の時だった。
シャロンはソフィ、クレア、エルミナの呑み仲間と一緒に同じテーブルで食事する事が多い。
ソフィ、クレアは《アイリス》の中でもよく食べる方だが、二人より輪を掛けて食べるのがシャロンだ。
そのシャロンの前のお皿には、少食のエルミナと同程度の量の料理しか乗っていない。
食欲がない程何か悩んでいるのか? 何にせよ今は情報が少な過ぎる。
「なーに考え込んでるの、プリシラ。眉間にシワ寄せてたら可愛い顔が台なしだよ?」
そう言って明るく声を掛けてきたのは、同じテーブルを囲っているヴァレリアだ。
「食事中に考え事してると、栄養が身体に行き渡らないんだよ。プリシラは私たちの中でも頭使ってる方なんだから、しっかり栄養摂らないと」
「それって経験談?」
「もちろん」
同じく同席のフランチェスカは、ボクの返しにおどけた感じでウィンクした。
「そうだね。食事の時はちゃんと食べる事に集中しないと」
「うんうん。でさ、そこのお店のお洋服がちょー可愛くて」
「あのお店はなあ……良いデザイン多いんだけど、ちょっと値段がねぇ。もっとリーズナブルな服でコーディネートする方が私は好みかなあ」
三人でお洒落談義に花を咲かながら昼食の時間を過ごしたが、シャロンの寂しそうな顔が頭から離れない。
何とかしてあげたいな、という気持ちが膨らんでいくのだった。

午後は鍛錬の時間だったので、合間を見てソフィ、クレア、エルミナに放課後少し付き合ってくれる様にお願いした。
訓練で汗を流し、机上で実践的な軍略などで議論を交わし、あっという間に放課後が訪れる。
学園の談話室へ三人には来てもらう事になっていたのだが、時間前なのはあるが今はまだクレアしかいない。
二人で世間話をしていると、時間通りにソフィがやって来た。
「あれ、ソフィだけ? エルミナは?」
「それが……ラディス様とファム様が居残りで魔術の特訓をするとかで、ウキウキしながらそちらを見学に行かれました……」
「あぁ、そう」
「ははは……」
まったくあのロリ画伯は……二人が顔を合わせて苦笑いをし、ボクも呆れて肩を竦めるしかなかった。
まあ、シャロンの様子を訊ねるのであれば、ソフィとクレアだけでも十分情報が得られるはず。
「ごめんね、二人とも時間取らせちゃって。二人に聞きたい事があって」
「シャロン様の事……ですよね?」
ソフィの言葉にボクは頷く。
「昨日まで確かにいつも通りだったのに、今日はしおらしいというか、雰囲気違ってたよね?」
「実は昨日も四人で呑んでたんだけど、やっぱりシャロンの様子おかしかったなあ」
クレアが顎に手を当てて思い出しながら言う。
「態度こそ普段と変わりませんでしたし、お酒を呑む量も相変わらずでしたが、ただ一つおかしなところがあって……」
「それは?」
「私が作ったおつまみにほとんど手をつけなかったんです」
ソフィの作ったおつまみを食べないなんて余程の事ではないのだろうか。
「さすがに気になって『どうかしたのか?』と訊いても『何でもない』の一点張りでね。酒の席だから私たちもそれ以上は訊けなくて」
「なるほど……」
「私たちに悩みを打ち明けられなくても、プリシラ様ならあるいは上手く聞き出せるかも知れませんね」
「うん、まあ……そうしたいと思ってるんだけどさ」
「最近、皆さんと積極的にお話されてますよね。どうかされたんですか?」
「いやぁ……思うところは色々あるけど、ボクが皆の事をより深く知れば、それだけ冥王さんと世界平和のためになる、って思ってるんだよね」
「そうですか」
適当な言葉で答えてしまったと内心悔やんだが、ソフィの顔は満面の笑みだった。
「それじゃ、シャロンの事は我らが軍師様に頼むとしますか!」
クレアはそう言うと、勢いよくボクのお尻を叩いた。
「ひゃあっ!? ちょっと、お尻はやめてよっ!」
「はははっ! いつもやられてばかりで悔しかったからね」
二人なりの激励を受けて、ボクはその場を後にした。
早速部屋に戻って情報を整理してみよう。

その日の夜。
寮の部屋の窓を開け、冥界の心地良い風を招き入れ、手元には冷たい麦茶を置いて、それをちびちび飲みながらシャロンの事を考えていた。
夕食をすませてからも結構な時間を費やしたが、どうにも考えがまとまらない。
今日一日のシャロンの様子を頭に浮かべながら、もう一度考えてみる。
まず真っ先に考えたのが恋煩いだった。年頃の女性が揃った《アイリス》たちならそういう事もあるかと。
けれど、やっぱりそれはない。《アイリス》全員の意中の相手はある男性だ。それはボクも例外ではない。
《アイリス》結成当時ならいざ知れず、随分時間が経過した今になって思い悩む事はないと思うのだ。
もし、全てが終わって世界樹が元通りになり、世界が平和になったならいざ知れず。
そこは同じ男性を想う一人の女として断言出来る。
次に考えたのがダイエットだ。
シャロンはゴスロリの可愛い服を揃えている。
端から見てもよく食べているので、食べ過ぎてウエストがアレしちゃって服が着れなくなってしまったら、思うところはあるかも知れない。
が、この線もない。
ソフィとクレアの話では、食べ物は食べていなくても、お酒は呑んでいるのだ。
ダイエットしてる人が、果たして糖質の高いお酒を呑むだろうか。
飲むなら今のボクの様にノンカフェイン、ノンカロリーの麦茶などがオススメだ。