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サツキヒスイ
サツキヒスイ
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続・軍師姫、一計を案じる

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はぁー、パルヴィンで採れた麦から作った麦茶美味しい。
そうやっていくつか考えが思い浮かぶが、状況を整理するとすぐに打ち消されていってしまう。何時間もこの調子だ。
シャロンに直接話を訊くにしても、もう少し確信めいたものがほしいなあ。
うーん……と唸りながら頬杖をついた瞬間、子供の頃の記憶と共に、ある考えが閃いた。
頬を摩りながらさらに記憶を掘り返す。
ボクが物心ついた頃、当時世話役の人が早期に『それ』を見つけてくれたので、あまり苦い思い出はないけれど。
ひょっとしてシャロン……虫歯なのでは? しかも、かなり重症な。
そう考えて状況を整理してみると、全てが噛み合う。
もう少し情報がほしいかも。そう思った瞬間には部屋を飛び出していた。

向かった先はコトの部屋。
飴が好物なコトは、虫歯でかなりひどい目にあったと聞いている。
そんな出来事を根掘り葉掘り尋ねるのは申し訳ないが、どうしてもコトの体験談を聞いておきたい。
後で埋め合わせはちゃんとしよう、と心に誓いながらコトの部屋のドアをノックする。
「はい? どうしたのプリシラ、こんな時間に」
扉の間からひょこっと顔だけ覗かせたコトの表情は、半目で既に眠たそうだった。
「ごめん、コト。いくつか話訊かせてもらえない? 飴ちゃんあげる」
ポケットに入っていた飴玉を一包み、コトの掌に強引に渡す。
「うぇ……絶対面倒なヤツだよ……もう寝るんだから手短かにね。で、なに?」
「虫歯になった時の事、訊きたいんだけど」
「あぁ……」
露骨に嫌そうな顔をされてたじろいでしまうが、もう後には引けないので左手で拳を作って力を込めて平常心を保とうとする。
「虫歯ひどくするとどんな感じだった?」
「どうって……メチャクチャ痛くて刀も握れなかったから、あの時刺客に襲われてたら、もうこの世にはいないね」
「あとは?」
「……歯医者に行くのが嫌で、逃げ回ってたら余計にひどくしたとか」
「あとは?」
「そうだなあ……自然と頬を抑えちゃうし、痛くて頭はぼーっとしてくるし」
今朝のシャロンがまさにそんな感じだった。
「お腹は空くけど食べられないから、飲み物飲んで空腹を誤魔化したりとか」
お酒だけ呑んでるシャロンと一致する。
「あと、何かあったかなあ……」
「もういいよ。ごめんね、嫌な事色々訊いちゃって。お礼にもう一個飴ちゃんあげる」
「え、プリシラ、今虫歯なの?」
「ううん、ボクじゃないけど……その人の名誉のために誰とは言えないけど、ボクが何とかしてみるから」
「ふーん……まあ、がんばってね」
頭に疑問符を浮かべたコトを別れ、自室に足を向けた。
状況証拠だけなら、シャロンは今、虫歯で苦しんでいて、しかも、それを他の人に知られまいと振舞っている。
虫歯である事を隠したい気持ちは何となくわかるが、シャロンは《アイリス》たちの中でも1、2位を争う実力者だ。
有事の際に力を発揮出来ないのは、作戦を立案する軍師としてはかなり困る。
後は直接本人に話を訊いて、場合によっては歯医者に連れて行かないと。
ただし、慎重に話を進める必要がありそうなので、ある程度の話の流れを作るために作戦を練る事にした。
部屋に戻って筆記用具を広げ、作戦をあれこれ考え、これでいこうって感じの作戦が出来上がったのは、日付を大きく跨いだ時間だった。

次の日。
目を擦りながら学園に向かったが、状況は良くない方向に進んでいた。
シャロンが丸一日学園を休んだのだ。しかも、体調が悪いから休むとソフィに言伝までして。
授業を早退して作戦を実行しようと思ったけれど、協力を仰いだ『ある人』に却下されたので、大人しく授業を受けて放課後まで待った。
冥界の街で美味しいと評判のケーキを何個か買って、寮のシャロンの部屋へと向かう。
甘いものが大好きなシャロンにこのケーキを渡して反応を窺う、というのが作戦。
当てが外れて喜んでケーキを受け取るならそれも良し。受け取るのを渋る様なら確実に虫歯のせい、と考えての事だ。
ドアを控えめにノックする。
「……誰じゃ?」
力ない声で返事をするシャロン。
「プリシラだけど、お見舞いに来たよ」
「鍵は開いてるから入ってきてくれ」
言われるまま部屋に入ると、シャロンはベッドに横たわっている。見るからにぐったりしていて調子が悪そうだ。
「すまんなあ、気を遣わせて。こんなに体調悪いのは何十年ぶりくらいかのう」
「ドラゴニアも病気と無縁ではいられないって事だよ。はい、これお見舞いのケーキ」
注意深くシャロンの顔色を見てみる。
「あぁ……うん、ありがとうな」
ケーキの箱から目線を逸らすシャロン。これはやはり『当たり』か。
「後で食べさせてもらうぞ」
「ボクに遠慮しないで今食べてもいいけど」
「えーっと、ほら……今は食欲がなくての」
ヤマを張ってみたが間違いない。後はどうにか本人の言質を取りたいところだ。
「体調悪い時こそ少しは食べないとダメだよ。お店の人も出来るだけ早く食べてって言ってたし」
「ぐっ……」
「シャロンの喜ぶところ見て皆を安心させたかったのに、残念だなあ。そんなに体調悪いなら、交代で看病しようか?」
そう言って少し大げさにリアクションを取ってみる。
「……わかった、わかったから。食べるからそこまでせんでくれ」
「素直に最初からそう言えばいいのに。どれ食べたい?」
「ショートケーキ」
「すぐ用意してあげる。ちょっと台所借りるね」
「……好きにするがよい」
何も知らないフリをしてケーキを用意する。
虫歯だとわかっててケーキを食べさせるとか良心が痛むが、後々を思えばシャロンのためだと自分に言い聞かせた。
ケーキをお皿に乗せフォークも用意して、シャロンの所へ戻る。
「はい、リクエストのショートケーキ。食べさせてあげようか?」
「こういうのは女同士でも恥ずかしいのう」
シャロンはそう言って顔を真っ赤にする。フリフリの寝巻と相まって、今すぐ抱きしめてお尻を撫でたいほど可愛い。
いや、落ち着けボク。
ケーキを一欠片フォークに刺して、シャロンの口元へ運ぶ。
「はい、あーん」
「あーん…………………………………………うっ!?」
ケーキを口に入れてひと噛みした瞬間、シャロンは呻き声を上げ頬を押さえた。
「やっぱり……シャロン、虫歯だったんだね」
ボクがそう言うと、シャロンは目元に涙を浮かべて恨めしそうにボクを睨んだ。
「プリシラ、お前わかってて……《アイリス》の軍師は伊達ではないな」
「どうして皆に黙ってたの?」
「それは……その……」
「ドラゴニアが虫歯だなんて恥ずかしい?」
「だから、そういう事は口にするなーーっ!!」
「別に恥ずかしい事じゃないよ。さっきも言ったでしょ? ドラゴニアも病気と無縁ではいられないんだよ」
シャロンはベッドから降りると、ボクを威圧する様に立つ。ボクも少しシャロンと距離をおいて、ドアを塞ぐ位置に移動した。
「それで、我が虫歯だとわかって、お前はどうするつもりじゃ?」
「歯医者に連れていくよ。早く治した方が良いって」
「そうか……」
シャロンは俯いてそのまましばらく動かなくなった。
「いっ……」
「い?」
「いやじゃーーーーっ!! うわーーーーーーんっ!!」
「っ!?」