ファラジ
序
目の前に悠然と座る貴族然とした男の存在が、アムロにとっては迷惑以外の何物でもなかった。
「いい加減、諦めてくれませんかねぇ」
アムロは腹立たしさを極力抑えつけ最小限の言葉を発したのだが、男にとっては何の変化も齎さなかった様だ。
「諦めるだなんて、天地がさかさまになってもあり得ない事だよ。君の技術の素晴らしさをもっと広く世界に発信すべきなんだと、何度告げれば納得してくれるのだろうね」
応接セットだなんて洒落たものはこの事務所には存在しない。閉校した学校からの払い下げである長テーブル(組み立て式)
とセットのパイプ椅子に座りながら、安物のカップに淹れられたティーパックの紅茶を口にしながらも、それがまるで最高級の品であるかのように見せる男に、アムロの不機嫌度合いは右肩上がりだ。
この男がアムロのもとに訪れてから、かれこれ半年になろうとしている。
その間、男は事業の拡大と合併をアムロに勧めているが、アムロはそれを辞退し続けているのだ。いい加減、見切りをつけて当然な期間なのだが、男は一向に諦める気配がない。
彼は世界的に有名な『ダイクン社』の社長職をしているのだから、アムロ相手に時間を割く余裕などない筈だ。それなのに半月に一度、多い時には一週間に2度、アムロのもとへ足を運んでくる。
運転手とボディガード付きの最高級車に乗って。
ダイクン社と言えば、ここ数年で急激に業績を上げてきている総合企業だ。
最初はこの男の父親が掃除機から事業を創め、空気清浄機にエアコンといった大物家電に手を広げていった。そして、この男が父親の病死を受けて事業を継ぐなり、IT産業を傘下に収め急速に業績を上げ、今や世界的な一流企業へと昇り詰めている。
当然の事ながら技術研究者は、軽く見積もっても三桁は在職している筈である。そんな企業が自分の技術を採用せずとも、困る事などありえないとアムロ自身は思っているのだ。
なのに、何故・・・
アムロは胸の中のモヤモヤを少しでも吐き出そうと、大きくため息を吐いた。
すると
「随分と疲れている様ではないか。だから前々から言っているのだよ。私の会社の傘下に入れば、君の負担は信じられない程に激減し、新たな研究にも着手できるようになると。何故、それほどに合併を辞退するのかね。君にとっても従業員にとっても損は一切ない話だと確信しているのだがねぇ」
男が長い脚を組み替えて、呆れを含んだ言葉を発する。
『その態度と物言いが腹立たしいって、なんっで解んないかなっ! この野郎わぁ』
アムロの決して長くはない堪忍袋の緒が、ピキピキと千切れる。
自分は、襟ぐりのよれたTシャツとジーパンの上に、所々薄汚れた白衣を纏っただけ。
片や、オーダーメイドのスーツに、頭の先から足の先まで高級ブランドで固めた金髪碧眼の8頭身の男。
女性に選ばせたら、間違いなく全員が男の方に駆け寄ると判断できるほどの落差を感じているアムロにとって、この男がこの研究所兼会社を、と言うより自分を引き抜こうとする事が、どうにも理解できない。いい加減この男への対応に限界を強く感じているアムロだった。
目の前に悠然と座る貴族然とした男の存在が、アムロにとっては迷惑以外の何物でもなかった。
「いい加減、諦めてくれませんかねぇ」
アムロは腹立たしさを極力抑えつけ最小限の言葉を発したのだが、男にとっては何の変化も齎さなかった様だ。
「諦めるだなんて、天地がさかさまになってもあり得ない事だよ。君の技術の素晴らしさをもっと広く世界に発信すべきなんだと、何度告げれば納得してくれるのだろうね」
応接セットだなんて洒落たものはこの事務所には存在しない。閉校した学校からの払い下げである長テーブル(組み立て式)
とセットのパイプ椅子に座りながら、安物のカップに淹れられたティーパックの紅茶を口にしながらも、それがまるで最高級の品であるかのように見せる男に、アムロの不機嫌度合いは右肩上がりだ。
この男がアムロのもとに訪れてから、かれこれ半年になろうとしている。
その間、男は事業の拡大と合併をアムロに勧めているが、アムロはそれを辞退し続けているのだ。いい加減、見切りをつけて当然な期間なのだが、男は一向に諦める気配がない。
彼は世界的に有名な『ダイクン社』の社長職をしているのだから、アムロ相手に時間を割く余裕などない筈だ。それなのに半月に一度、多い時には一週間に2度、アムロのもとへ足を運んでくる。
運転手とボディガード付きの最高級車に乗って。
ダイクン社と言えば、ここ数年で急激に業績を上げてきている総合企業だ。
最初はこの男の父親が掃除機から事業を創め、空気清浄機にエアコンといった大物家電に手を広げていった。そして、この男が父親の病死を受けて事業を継ぐなり、IT産業を傘下に収め急速に業績を上げ、今や世界的な一流企業へと昇り詰めている。
当然の事ながら技術研究者は、軽く見積もっても三桁は在職している筈である。そんな企業が自分の技術を採用せずとも、困る事などありえないとアムロ自身は思っているのだ。
なのに、何故・・・
アムロは胸の中のモヤモヤを少しでも吐き出そうと、大きくため息を吐いた。
すると
「随分と疲れている様ではないか。だから前々から言っているのだよ。私の会社の傘下に入れば、君の負担は信じられない程に激減し、新たな研究にも着手できるようになると。何故、それほどに合併を辞退するのかね。君にとっても従業員にとっても損は一切ない話だと確信しているのだがねぇ」
男が長い脚を組み替えて、呆れを含んだ言葉を発する。
『その態度と物言いが腹立たしいって、なんっで解んないかなっ! この野郎わぁ』
アムロの決して長くはない堪忍袋の緒が、ピキピキと千切れる。
自分は、襟ぐりのよれたTシャツとジーパンの上に、所々薄汚れた白衣を纏っただけ。
片や、オーダーメイドのスーツに、頭の先から足の先まで高級ブランドで固めた金髪碧眼の8頭身の男。
女性に選ばせたら、間違いなく全員が男の方に駆け寄ると判断できるほどの落差を感じているアムロにとって、この男がこの研究所兼会社を、と言うより自分を引き抜こうとする事が、どうにも理解できない。いい加減この男への対応に限界を強く感じているアムロだった。