ファラジ
「因みに、私の勧誘にはいわゆる塩対応だったのが、何故彼らの来訪から好意的になったのかね」
ダイクン社のCEOの顧問相談者という肩書を有する様になったアムロに、シャアはそれまで気になっていて訊けなかった事を質問した。
その質問も、経営者肌と研究者肌の違いを痛感させる事になりシャアを落ち込ませたのだが、『知らぬは一生の恥』だったと考えを改める機会ともなった。
「だって、研究内容を深く理解してないだろうなぁって感じなのに『こちらの様な一流企業に参加すれば、研究は素晴らしいものとなる。
こんな片田舎で細々、ちまちまやってないで、最新設備で革新的な開発を見せてやろう。それが私には出来るんだ!』って態度で訪問されたって、腹が立ちはしても賛同する気になんてなりっこないよ」
「・・・・・・いや、君の信念は理解していたつもり・・・」
「貴方がカイさんからの話に商機を見出した上での勧誘だって判ったしね。
いい? 話を進めたいなら、相手の研究の大変さや内容を十分に理解していると解って貰ったたうえでやらなくちゃ。
貴方の態度の何処に俺の信念や研究への理解があると気づかせるものが? 儲け話に首を縦に振らないなんて理解できないって態度だったからね。
そんな態度は研究者に向けてしちゃ駄目だ。どれだけ言葉にしていたとしても」
「・・・・わかりました」
シャアはアムロに係わる事によって医療福祉の領域へも経営手腕を広げていったが、常に相手を詳細に調べて商談を進める様になった。
その事でウィンウィンの関係での統合合併や協賛が出来るようになって行き、ダイクン社はより一層の発展を収めたのだった。
了
*ファラジとは、オマーンの灌漑用水の名称で、「分ける」と言う意味を持つ。
水を平等に分ける事によってナツメヤシが育つ。