オペラ座の廃人
ある日の三巨頭会議にて、パンドラが突然こんな事を言い出した。
「オペラを見に行きたい故、チケットを取った」
「・・・オペラですか」
ラダマンティスはやや怯えた目でパンドラの整った顔を眺めたが、パンドラは至って平然と、
「うむ。いつもはオルフェに演奏を頼んでおるが、たまには変わったものを見たくなってな。私1人で行くのは少々危険故、護衛をつけたいと思う」
ラダマンティスは背中に冷たい汗が流れるのを自覚した。
イヤだ、自分だけは、自分だけは担当したくない…。
どうやらロック好きのアイアコスも似たような事を考えているらしく、明らかに挙動不審であった。
テーブルの上で激しく「のの字」を書いている。
もう1人の三巨頭・ミーノスはクラシックをよく嗜む。
彼の部屋にはカラヤン、クライバー、ベーム、レヴァイン、ムーティ等の有名指揮者のタクトによるベルリン・フィルやウィーン・フィル、スカラ座のCDがずらりと並んでおり、ピアノ曲やヴァイオリン曲にもかなり造詣が深い(ラダマンティス比)らしいので、今回の任務にはもってこいの人材と思われたが。
「パンドラ様、日時は何時でしょうか?」
「来週の日曜日じゃ」
「ああ、残念ですね。その日はルネが休暇なので、私が司法を勤めなくてはなりません。申し訳ございませんが、任務を外させていただけないでしょうか?」
「うむ、そういえばそうであるな。では、ミーノスの代わりの護衛を誰が勤めるか、よく話し合えい」
「ミーノスの、代わり?」
ラダマンティスの第六感が警鐘を鳴らしている。パンドラはにこりともせずに、
「うむ。お前達全員に共をさせる気だった故、チケットは全部で4枚とってあるのだ。格式高いウィーン国立オペラ座のボックス席故、居眠り、鼾等は一切赦さぬぞ。よいな。これがプログラム故、よく目を通しておけ」
パンドラの白い手がチラシをテーブルの上に置く。
ラダマンティスは泣きたかった。これならオルフェの演奏会の方が居眠りできるだけまだマシだ。
「しかし本当に残念ですねぇ。ウィーン国立は人気ですからなかなか取れないんですよ」
ミーノスは心底無念そうにこう言うが、前髪に隠された目はニヤニヤと笑っていた。
同僚の不幸が嬉しくて仕方ないらしい。
パンドラの退席後、ラダマンティスとアイアコスは同時に頭を抱えた。
「イヤだ、行きたくない・・・」
「アイアコス、お前音楽は好きじゃなかったのか?」
「オペラは…昔付き合ってた女のせいで嫌いなんだよ」
「貴様、彼女がいたのか!?」
驚愕するラダマンティスを無視し、アイアコスは話を続ける。
「オペラ歌手の卵でさ。喧嘩すると、あの声で怒鳴るんだぞ?おかげでオペラ聴くと、あの女の事を思い出して憂鬱になるのだ……」
と、アイアコスは思い出したかのように、
「いいよな・・・お前の所には代わりを頼める音楽家連中がいるからな・・・」
「ああ!」
途端にラダマンティスの顔に血の気が戻る。「いい事を教えてくれたな」と、ポンとアイアコスの肩を叩くと、第二獄の部下の元へ急いだ。
部屋に取り残されたアイアコスは、タバコを吸うミーノスに縋るように、
「お前、俺の代わりに行かないか?」
ミーノスは細く煙を吹き出すと、春の日射しに似たもの柔らかな笑顔で応えた。
「お断りします」
「オペラを見に行きたい故、チケットを取った」
「・・・オペラですか」
ラダマンティスはやや怯えた目でパンドラの整った顔を眺めたが、パンドラは至って平然と、
「うむ。いつもはオルフェに演奏を頼んでおるが、たまには変わったものを見たくなってな。私1人で行くのは少々危険故、護衛をつけたいと思う」
ラダマンティスは背中に冷たい汗が流れるのを自覚した。
イヤだ、自分だけは、自分だけは担当したくない…。
どうやらロック好きのアイアコスも似たような事を考えているらしく、明らかに挙動不審であった。
テーブルの上で激しく「のの字」を書いている。
もう1人の三巨頭・ミーノスはクラシックをよく嗜む。
彼の部屋にはカラヤン、クライバー、ベーム、レヴァイン、ムーティ等の有名指揮者のタクトによるベルリン・フィルやウィーン・フィル、スカラ座のCDがずらりと並んでおり、ピアノ曲やヴァイオリン曲にもかなり造詣が深い(ラダマンティス比)らしいので、今回の任務にはもってこいの人材と思われたが。
「パンドラ様、日時は何時でしょうか?」
「来週の日曜日じゃ」
「ああ、残念ですね。その日はルネが休暇なので、私が司法を勤めなくてはなりません。申し訳ございませんが、任務を外させていただけないでしょうか?」
「うむ、そういえばそうであるな。では、ミーノスの代わりの護衛を誰が勤めるか、よく話し合えい」
「ミーノスの、代わり?」
ラダマンティスの第六感が警鐘を鳴らしている。パンドラはにこりともせずに、
「うむ。お前達全員に共をさせる気だった故、チケットは全部で4枚とってあるのだ。格式高いウィーン国立オペラ座のボックス席故、居眠り、鼾等は一切赦さぬぞ。よいな。これがプログラム故、よく目を通しておけ」
パンドラの白い手がチラシをテーブルの上に置く。
ラダマンティスは泣きたかった。これならオルフェの演奏会の方が居眠りできるだけまだマシだ。
「しかし本当に残念ですねぇ。ウィーン国立は人気ですからなかなか取れないんですよ」
ミーノスは心底無念そうにこう言うが、前髪に隠された目はニヤニヤと笑っていた。
同僚の不幸が嬉しくて仕方ないらしい。
パンドラの退席後、ラダマンティスとアイアコスは同時に頭を抱えた。
「イヤだ、行きたくない・・・」
「アイアコス、お前音楽は好きじゃなかったのか?」
「オペラは…昔付き合ってた女のせいで嫌いなんだよ」
「貴様、彼女がいたのか!?」
驚愕するラダマンティスを無視し、アイアコスは話を続ける。
「オペラ歌手の卵でさ。喧嘩すると、あの声で怒鳴るんだぞ?おかげでオペラ聴くと、あの女の事を思い出して憂鬱になるのだ……」
と、アイアコスは思い出したかのように、
「いいよな・・・お前の所には代わりを頼める音楽家連中がいるからな・・・」
「ああ!」
途端にラダマンティスの顔に血の気が戻る。「いい事を教えてくれたな」と、ポンとアイアコスの肩を叩くと、第二獄の部下の元へ急いだ。
部屋に取り残されたアイアコスは、タバコを吸うミーノスに縋るように、
「お前、俺の代わりに行かないか?」
ミーノスは細く煙を吹き出すと、春の日射しに似たもの柔らかな笑顔で応えた。
「お断りします」