冥界カイーナ新年会
二人でお茶を
「だから、お前はどうしていつもいつも私の家に来るのだ!お前の家は花畑を挟んで向いなのだから、わざわざ私の家に来る事ないだろう!」
「先日コーヒーサイフォンを壊してしまってね。まだ買い替えてないんだ。コーヒーなんて一杯入れても二杯入れても差程変わらないのだから、そうケチケチしないでよ。地上から帰った時、いつもお土産渡しているじゃないか」
「自分で食べたくて買ってくるのだろうが!そういうのを世間一般では『おもたせ』と言うのだ!」
「あ、そういえばこの前僕が買ってきてあげたゴディバのチョコ、まだあったでしょ?チョコレートならバレンタインが実家に戻った時に持ってきてくれるのが美味しいんだけどね。あいつの実家はパティシエだから」
「人の話を聞け!茶菓子まで指定するな!!貴様にはナビスコ・リッツクラッカーで十分だ!ゴディバなんて勿体無い」
「なんだ、やっぱりお茶菓子用意してくれていたんじゃないか」
「・・・・くっ!不覚・・・・」
「お前、地上に帰る気はないのか?」
「ないよ。ファラオだって、冥闘士辞める気はある?」
「ないな。だがそれとこれとは関係ないだろう!お前のような極楽とんぼの考えはわからん」
「でも僕が聖闘士として活動するには、今の形態が一番合ってるのさ。好きなだけ音楽に携わる、それをバックアップしてくれるパトロンもいる。でも、聖闘士としての最低の義理も果たす。そしてそんな人生を心底楽しむ。いい人生はいい音楽を生み、僕はますます幸せになれる、と」
「つくづくなめた男だ!」
「そのなめた男に完全敗北したのは、どこのどなた?」
「その完全敗北した男にたかってコーヒーと菓子を食ってるのはどこの誰だ?」
「僕でーす。レイジマイハンド!」
「・・・皮肉の通じない奴だな」
「皮肉程度で凹んでたら、冥界から聖域に帰るなんて真似はできないよ」
「冥界では肩身の狭い思いはしなかったのか?」
「そんなに。パンドラは僕にすごくよくしてくれたし、それにユリティースがいれば僕はどうでもよかった。色々あって冥界に長く留まる事になったけど、僕はそれでよかったと思ってる」
「皮肉か?」
「そう聞こえたのならすまない。でも、色々な事があって今があるのなら、それでもいいんじゃないかな」
「・・・やけに前向きだな」
「昔の事を振り返ってうじうじやるのにも飽きたからね。ある意味君には感謝してるよ。僕の目を覚まさせてくれたからね」
「・・・皮肉なのか褒められているのか、判断に困るな」
「僕も何こんな事話しているのだか。そうだ、ファラオがゴディバ出してくれないのが悪いんだ。
ゴディバを始めから出していれば、こんな事にはならなかったんだ!チョコレートトークができたのに!」
「ちょっと待て!それは話が飛躍し過ぎていないか?」
「ん?そうだ!確か昨日、マルキーノがクイーンから地上土産のザッハトルテもらっていたな。
ファラオ、ルネハウス行こう!ザッハトルテ食べよう!」
「お前の話の飛躍の仕方が全くわからん!何故ゴディバからザッハトルテに行くのだ!
しかもそのザッハトルテはルネ(正確に言えばマルキーノである)のものだろうが!」
「一人で食べてもルネつまらないと思うんだ。一緒に食べてあげて、楽しいティータイムを演出しよう。あ、パンドラにハロッズのフルーツティもらったのがあったから、ルネにお裾分けしてあげよう」
「・・・私がお前に勝てなかった理由が、よくわかった。しかし、もういい。お前に勝てなくてもいい・・・お前みたいなプッツンに勝ってしまったら、私はお前以上のプッツンになってしまう。一芸に秀でた人間はどこか壊れていると言うが、全くもってそれは正しいよ」
相変わらず無茶苦茶な、冥界のティータイムの話。