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冥界カイーナ新年会

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ちょっとアホな冥界の光景


第二獄のケルベロスの犬小屋前で、オルフェがフー○ズメ○ト、BU○RN!などを読みつつ、
愛犬を世話をするファラオと注目新譜に付いて議論していると、ローブ姿のルネが血相変えてこちらに駆け込んで来た。
「い、一体なんなのだーーーーッ!」
自分の服を勢いよく破きかねないあの勢いである。
モトリー・クルー、オリジナルメンバー復活のニュースを読み顔を綻ばせるオルフェは、この世の終わりのように騒ぎ立てるルネの事などどうでもいいような口調で、
「随分と騒々しいな。そっちこそ、『一体なんなのだーー』だよ」
彼はニュー・オーダーの新譜発売の方が重要らしい。
ケルベロスのブラッシングをしていたファラオもその手を止めて、
「あまり大きな声を出すな。ケルベロスが怯える。見ろ、尻尾が縮こまっているではないか」
「音楽や犬の方が私よりも大事なのですか!?」
泣きそうになりながら詰問するルネ。二人は同時に顔を見合わせると、唇を開きかけた。
「もち・・」
「もう結構です。あなた方に優しさを期待した私が馬鹿でした」
ふて腐れるルネ。ファラオはフッと鼻で笑うと、
「冗談だ。一体何事だ、ルネ。お前程の男がそこまで狼狽するのでは、相当な事があったのだろうな」
「それがですね・・・」
ルネは肺が空になるような深いため息を付くと、二人に耳を澄ますように告げた。
「?」
言われた通りにする音楽家連中。すると、第一獄の裁きの館(通称:ルネハウス)の辺りから、何やら音が聞こえる。
注意して聴いてみると何かの音楽のようだが、二人に言わせると、とてもではないが人様に聞かせられるレベルではない。
「すごいな・・・。裁きの館からここまで聴こえてくるのでは、かなりの音量だな。どんないいスピーカー使っているのだろう?」
「オルフェ、妙なところで感心しないで下さい」
ルネの眉間の皺が深い。と、ファラオは思い出したかのように、
「そういえば、昨日ミルズ達が機材を持って第二獄を通過したが、ひょっとしてそれと何か関連が・・・」
「大有りです。あの方々…よりにもよって静粛かつ厳粛であるべき法廷内で、騒音といって然るべき音を今朝からガンガンバキバキと…。これでは亡者を裁く事などできませんッ!うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルネが法衣の胸元に手をかけている。服をびりびりとやぶる一歩手前だ。
それを見たファラオは、再びケルベロスのブラッシングを始めると、冷淡に言ってのけた。
「ここで破いて脱ぐのは勝手だが、ケルベロスが餌と間違えて布地を食べると後々面倒なのでな。破いたらきちんと掃除をしておけよ」
オルフェも雑誌のページをめくりつつ、
「花畑やユリティースの所にゴミが飛んで来たら、ただではすまさないからな」
「・・・あなた方には優しさというものが全くないのですね・・・」
そんな冷たい音楽家二人であったが、さすがにルネが不憫になったのか、彼に付いて第一獄「裁きの館」(通称:ルネハウス)の様子を見に行く事にした。

黒き風の谷を抜け、裁きの館の重い扉を開くと、壮絶な光景が広がっていた。
石張りの床の上にはアンプやシールドが乱雑に広がっている。
所狭しと置かれたギターやベース、パーカッションにDJブース。
「・・・何だ、これ」
これではファラオでなくとも呟きたくなる。
冥闘士9名が裁きの館の一角に楽器や道具を持ち込み、何やらバンドごっこをやっているのである。
マルキーノがドラムをボコンボコン叩くスタンドに激しく抗議しているが、なにぶんマルキーノは平の雑兵。冥闘士にかなうはずがない。
スタンドの突き出すドラムスティックに鼻の穴を刺され、しげしげと退散していた。
オルフェは人数と冥闘士の扮装から、彼等が何をやろうとしているか察したらしい。
「ファラオ、覆面した人間が9人だよ。バンドだよ。何かを思い出さないか?」
「あ」
ファラオのおかっぱがかすかに揺れた。ぱちんと細い指を鳴らすと、
「スリップノットか!」
「だね」
「もうすぐ新年会だから、余興の特訓か…」
「バンドの練習ができる場所というと、裁きの館くらいしかないからね」
「そこの二人!納得しないで下さい!」
鞭を振り回さんばかりのルネ。艶やかな金髪がやや逆立っている。
楽器を抱えて激しくジャムっていた冥闘士の面々は、ルネの帰宅に気付くと、次々と、
「おい、ルネ。冷蔵庫の中に入っていたジュース、空になったぞ」
「ついでにピザ焼いておけよー。冷凍庫に入っていただろうー」
「シールド抜けたぞ、繋いでおけよー」(「ワイヤレス使えよ」とはファラオ)
一瞬ルネは何を言われたかわからなかった。
いや、あまりにも図々しい言い種なので、脳が理解を拒否したらしい。
「は?何か言いましたか?」
リーダー格のギガント(楽器から察するにショーン担当なのか?)は、
「冷蔵庫のジュースは空になったので、買い足しておけよ。それと、ピザを焼いておけ。9人分」
「・・・なぜ私が?」
「お前、その様子からすると暇なんだろう?それくらいできるだろうが」
ギガントはリズムもへったくれもない調子でパーカッションを叩いている。
ルネはフルフルと肩を震わせながら、怒りを押し殺した声で、
「・・・誰の所為で私の仕事が止まっているとお思いか?」
「あ?」
ギガントは気付いていなかったかも知れないが、キューブやオクスやミルズ、ニオベ辺りはルネの発する剣呑な気配を感じていた。
「ヤバくないか、ルネ」
「ヤバいな・・・」
と、小声でこそこそ囁き合っている。
ファラオはルネの近所に住んでいるだけあって、ルネがこういう態度を取り始めると一体どうなるか…よく知っている。
「おい、オルフェ。帰るぞ」
「・・・そうだね」
二人は小脇に楽器を抱え、ついでに壁に立て掛けてあったギターとベースも拝借し、裁きの館を後にした。
ドアを閉めたと同時にスイカが潰れるような音を聞いたような気がするが、あのフロアにはスイカらしきものはなかったので二人の幻聴であろう。
いや、幻聴だと思いたい、ファラオとオルフェだった。


さて、その後ルネが何をしたか。語ろうとするものは誰もいない。
マルキーノは後片付けが大変だったとぼやき、冥界一の野次馬野郎ゼーロスもその惨状に口を噤み、
そして当のギガントはルネにぞんざいな口をきかなくなったという・・・。

結論:普段大人しい人間ほど、ブチ切れると怖いというお話。
作品名:冥界カイーナ新年会 作家名:あまみ