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部屋の乱れは心の乱れ

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「オルフェ、ちょっといいか?」
ベッドの上で寝そべっていたオルフェに、ダイダロスはドアを細く開けて訊ねる。
「いいけど、何」
「何か一曲弾いてくれないか?」
そういう方面に興味がなさそうなダイダロスがそんなことを頼むものだから、流石のオルフェも目を見開いた。
「何だって?」
「何か一曲弾いてくれないか?と頼んだのだ」
同じ言葉を繰り返すダイダロス。
オルフェはむくりと半身を起すと、目を丸くしたままで人格者で知られるケフェウスの聖闘士を眺める。
「珍しいな、君がそんなオーダーを出すなんて。てっきり、音楽に興味がないものだと思っていた」
「ハーデスが愛する琴の音を聴いてみたいと思っただけだ」
「そう」
オルフェはやや目を細める。
そしてダイダロスに向かってちょいちょいと、室内に入るよう手招きした。
「わかった。一曲披露するから、中に入るといい」
ギターを引き寄せると、ポロンと調弦する。するとダイダロスは首を横に振り、
「いや、大部屋で弾いてくれないか?皆、お前のギターならば聴きたいだろう」
それを言われた途端、オルフェの顔つきがあからさまに変わる。不愉快と不機嫌をありありと浮かべると、
「あんな汚いところで演奏をするなんて、断る」
ダイダロスは少々困った顔で、
「お前の言いたいことは解るが、まぁ外に出てみろ」
「いやだ。汚い部屋を見せられては、創作意欲に響く」
不機嫌の言語化というべきオルフェの語調だ。けれども、ダイダロスは引かない。
「そう言ってくれるな。騙されたと思って外に出ろ」
ほとんど子供を窘めるような物言いである。そこまで言われては、オルフェも動くしかない。
「騙されたとわかったら、僕キレるからな」
「あーあー、好きなだけキレてくれ」
面倒な性格の音楽家を外に引っ張り出す。
オルフェの左手にギターがつかまれてるのは、何かあった時にダイダロスをぶっちめるためか。
争い事は好まない癖に、妙な所は好戦的である。
渋々といった様子のオルフェをリビングに連れ出すと、音楽家の表情が劇的に変化した。
オルフェの目に飛び込んで来たのは、それはそれは綺麗に磨き込まれた大部屋の光景だった。
床も壁も窓も、光を放っているのでは?と錯覚するほどに輝いていて、フローリングの床など鏡のように家具や人の影を映し出している。
ゴミ溜のようだったソファの上も、ぐちゃぐちゃだった本棚も、きちんと片付き整頓されていて、オルフェとしてはポカーンと口を開ける他なかった。
「……いつの間にこんなに綺麗に片付けたの?」
呆然とオルフェが問うと、どこか疲れた様子のアステリオンが答えた。
「お前が曲作りしている時」
「ああ、そうなのか」
全然気付かなかった。
曲作りの最中は全く外のことがわからなくなるので、この時敵に襲われたら防ぎようがない。現実を忘れるために曲作りに集中していた際の名残だ。
ダイダロスはポンッとオルフェの肩を叩くと、
「これなら、1曲聴かせてくれるだろう?」
厳ついその口元には、笑みが浮かんでいる。どこか悪戯っぽさを感じさせる笑みが。
しょうがないな……と観念したオルフェは、スツールに腰掛けるとギターのストラップをかけた。
そして、ポロンと一音鳴らす。
「一曲だけ弾こうかな」
コードを押さえ、もう一度弦を弾く。
この時点で彼の同輩たちは、胸の高鳴りを抑え切れなかった。
オルフェはフィンガーピッキングでアルペジオを奏で始める。
今度ハーデスに聴かせようと思っていた曲をギターアレンジしたものだ。
流れ始める極上のメロディ。
神が愛する、神が引き止めたがったその音楽。
それが今、この部屋に響いている。
誰も何も言わなかった。言えなかった。
あまりにも美しく、あまりにも現世離れしているので、言葉が出なかった。
ため息だけが、部屋の空気を乱す。
……あの男が戻ってくるまでは。
「ああ、ようやく機嫌が直ったのか」
バスローブ姿で大部屋にやって来たのは、ミスティだ。
彼は自慢の美しい体が掃除で汚れてしまったので、シャワーを浴びに行っていたのだ。
そして戻ったら、『美しい』音楽が流れていた、と。
「なんという美しい音楽!このミスティにぴったりではないか!」
うっとりとそう嘯いたミスティはトコトコとギター演奏中のオルフェの横に歩み寄ると、バスローブの紐を解きながらこう叫んだ。
「そう、この音楽に引けを取らないのが、この私の美貌!音楽と共に、このミスティの美しい姿も堪能するといい!」
勢いよく脱ぎ捨てられる、タオル地のバスローブ。
演奏も、皆の時間も、部屋の空気も、全てが、凍った。

次の瞬間、全員の拳がミスティの顔面にしこたまヒットしたのだが、私闘扱いになることを皆恐れたため、この事実は隠蔽されたという。
作品名:部屋の乱れは心の乱れ 作家名:あまみ