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数日後。
祝日と土日が上手く重なったため、日本では金土日の三連休となる。
シオンはその連休を利用し、星矢と出掛けることにした。
星矢には既に、この連休中に出掛けることは通達してあるので、城戸邸を訪れると少年は興奮と期待で頬を上気させてシオンを待っていた。
「シオン!今回は本当にありがとうな!!」
「あまり気にせずともよい。たまにはよかろう」
豪奢な髪に、何処からどう見ても高そうなスーツに、ネクタイにシャツにコートに靴に鞄。腕時計はよく見るとロレックス。
その迫力ある佇まい、カリスマ性を強く感じさせるオーラは、どう見てもタダモノではない。
世の大会社のCEOでさえ、シオン並みの存在感を誇る者は皆無であろう。
230年以上聖域を統べてきた教皇シオン。
青銅聖闘士の星矢にとっては、本来雲の上の存在なのだが。
「さてと、参ろうか。何処が良い?」
「あー、俺、横浜行きたい!中華街行こうぜ!中華街!!中華食べよう!」
「ああ、構わぬよ。では」
と、テレポーテーションで一気に横浜まで飛ぼうとしたシオンだが、星矢に腕をつかまれ止められる。
いきなりの制止に、長い睫毛に縁取られた瞳を瞬かせるシオン。その整った顔には、驚きが浮かんでいる。
「どうした、星矢。参るのではないか?」
「そりゃー、行くけどさ……」
星矢はポリポリと頭をかく。何と話を切り出したらよいのか、思案しているような様子だった。
「あんたもムウも、すぐにテレポートでどっかに行く癖、止めようぜ?」
「何故だ?時間の短縮になってよかろうに」
「違うんだよ!『お出かけ』って奴は、そこに行くまでの『過程』も楽しむもんなんだよ!」
顔を真っ赤にして、星矢はそう強い口調で告げる。
シオンは一瞬きょとんと目を丸くしたが、すぐに親しい者のみに見せる笑顔を浮かべると、白い優美な手でペガサスの聖闘士の頭を撫でた。
「左様か。よかろう。ならば京浜東北線だな」
「なんだよ、シオンも電車の路線知ってんじゃん」
笑顔になるのは星矢も同様。星矢は初めてだったのだ。大人の男性と共に、どこかに行楽や買い物に出掛けるというのは。
『おじいちゃんや親父と一緒に出掛けるとしたら、こんな感じなんだろうか』
シオンと色々喋りながら、星矢はそんなことを考える。
初対面が初対面だっただけに、相当おっかない印象のあるシオンだが、付き合いが深くなるにつれ、本当は情に厚く、優しい人物だと知った。
貴鬼が懐く理由もよくわかる。
『こんな人がじいちゃんなら、大好きになっちまうよなぁ……』
強くて賢くて、綺麗で優しい自慢のおじいちゃん。連休中はそのおじいちゃんが、星矢に付き合ってくれるという。
『……悪いな、貴鬼』
心の中で小さく舌を出した星矢は、見た目は二十歳前後の教皇の隣に並び、どこか弾むような足取りで駅への道を闊歩していった。

一方聖域。金曜日の朝。
ムウが起きると、シオンは既に日本に出掛けた後だった。
日本とギリシャでは7時間の時差があるので、日本で10時に待ち合わせする場合、シオンは午前3時にギリシャからテレポートしなければならない。
「……漁師さん並の起床時間ですね」
師の小宇宙を感じない二階への階段を眺めながら、ムウは小さく息を吐く。
シオンは日曜日まで戻ってこない。
執務はアイオロスとサガに任せてあるから大丈夫だと、木曜の夜に話していたが。
「貴鬼も、今日はアルデバランとキャンプに行っているのですよねぇ」
あの豪放磊落な同僚は子供好きで、貴鬼のこともまるで自分の弟子のように面倒を見てくれている。
貴鬼は色々な人間に愛されて育っていると思う。
アルデバランだけではない。
アフロディーテはシオンの頼みとはいえ、貴鬼に英会話を教えている。
シュラはよくF1を見に連れていってくれる。
そこら辺にいる気のいい兄ちゃんな性格のミロは、貴鬼をからかいつつも可愛がっている。
「私とは大違いですねぇ」
思わず浮かぶ苦笑い。
自分が貴鬼くらいの年齢の頃は、どうだっただろうか?
シオンをサガに殺され、ジャミールでたった一人暮らす生活。
心も感情も凍らせて生きていた少年時代。
聖域で唯一シオンの素顔を知るムウは、反逆者にとって邪魔者と脅威以外の何者でもない。それとなく聖域から刺客が送られてきた。
時には、聖域への召集を伝える書面を携えた使者に擬態して。
だが、皆ジャミールのムウの館に到着することは叶わなかった。
下級の白銀聖闘士程度では、このジャミールの館にまで辿り着くことはできなかったのだ。
恐らくサガは、黄金聖闘士をムウの元に派遣し、その首を獲ることも考えたこともあったろうが、シオンの唯一の弟子であるムウがやってきた黄金聖闘士に、
『今の教皇は偽物である』
と話してしまう可能性が高いので、やたらに送り込むこともできない。
それに、ムウが教皇の愛弟子であることを黄金聖闘士は皆知っているので、『教皇』がムウに刺客を送るのは、色々と辻褄合わせが大変なのである。
ミロ辺りなら、
「教皇が自分で行けばいいじゃないっすか」
とか言い出しかねない。
こんな事情もあり、ムウは貴鬼と出会うまで、シオンと過ごしたジャミールの館で独り生きてきた。
やる事なんて、日々の修業と、聖衣の墓場に眠った聖衣のサルベージ、および修復。
しかしサルベージをしても、何も知らない白銀聖闘士や青銅聖闘士をサガがせっせと送り込んでくるので、いつの間にやら増えていた。
そういえば修行中、シオンは時折ムウに、
「中国の廬山五老峰に、私の友の天秤座の童虎という男がおる」
と、しわくちゃになった顔を緩ませ、楽しそうに彼との思い出話を語っていた。
「彼奴はな、すぐに聖衣を脱ぎ捨ておるのだ。私が丹誠込めて磨いた聖衣をな」
「えー!」
幼いムウは、シオンの膝の上に乗って師の話を聞いた。
厳格な印象のあるシオンだが、実際ムウには厳しい師匠であったが、優しい師でもあった。
肉親以上の愛情をシオンから注がれていたと、当時のことを思い返す度、ムウは思う。
……まぁ、それは今でも変わらないのだが。
貴鬼も、当時のムウと同じようにシオンの膝の上で話を聞くこともある。
それどころか、シオンに耳かきをしてもらうこともある。
聖域の教皇が孫の耳かきをしている。これは冗談などではない。
祖父母や親が子供の耳かきを行うのはよくある話らしいのだが、シオンは聖域の教皇だ。
全ての聖闘士を統率する立場の人間がこんな事をやっていいのだろうかとムウは思ったのだが、シオンは物言いたげなムウの顔を見ると、まるでその深層心理を読んだかのようにニヤリと笑う。
「ムウよ」
「なんでしょう、シオン様」
「お前もやってやろうか?」
と、耳かきとティッシュを持って、ムウの目の前でピラピラと振る。真っ赤になったムウはらしくもなく上擦った声で、
「わ、私はもう子供ではありません!耳掃除くらい、自分でできます!」
師の顔を見ずに一気に捲し立てると、早足で作業場に入っていく。
……悔しい。
沈着冷静、常に優雅な笑みを絶やさないと評されている自分が、シオンの前では子供のようになってしまう。
不貞腐れたり、声を荒げて反論したりしてしまう。
まだ修行中だったあの頃の自分に戻ってしまう。
『シオン様はズルい方だ』