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さて星矢。彼はシオンと横浜の中華街にやってきていた。
「シオン、アレ食おうぜ、アレ!」
「あっちの店、見てくる!」
「うわ、この肉まんでけぇぇぇ!!!」
沢山の中華料理店が軒を連ねるこの場所で、星矢ははしゃいでいた。

中華街は初めてというのもあるし、今日はシオンという頼りになるパトロンがいるので、食べたいと思ったものを我慢しないで済む。
シオンは店先を眺めながら星矢に、アレはどうだ?これはどうだ?と薦めている。
「こちらは豚肉、こちらは野菜、だそうだ」
「じゃ一個ずつ買って、半分こしようぜ。これでけーよ」
聖域の教皇に半分こをもちかけるなんて!と、今の星矢を見た他の聖闘士は腰を抜かすに違いない。
しかしシオンは目を細めて笑うと、よかろうと財布を取り出した。
昼食はそのまま中華街で食べた。
星矢は『食べログ掲載の店』とチラシの貼ってある店に行こうとしたが、店を物色していたシオンに、
「こちらの方がよい」
と手を引かれ、どちらかといえば地味な印象のある店へ連れていかれた。
店内は程よく空いており、厨房からは食欲をそそるよい香りが漂う。
星矢は席に案内された後、ギリシャ語でシオンに話しかける。日本語では店員に内容を聞かれてしまうではないか。
「なぁ、シオン」
「何だ?」
シオンはメニューを眺め、何を注文しようか考えている。できれば、野菜が沢山入ったものを食べたいが……。
星矢はついつい小声で、
「この店、空いてて並ばないで済むから選んだのか?」
「いや」
即答するシオン。その目は、中国語で書かれた文字列を追っている。
「童虎がたまに日本を訪問するであろう?」
「ああ」
「彼奴は来日の際、大抵中華街で食事をとるのだが……」
シオンはメニューをテーブルの上で広げ、店の名前が書かれた箇所を白く綺麗な指先で叩く。
「いつも、この店に寄る」
シオンの言葉に、驚いたように目を丸くする星矢。それは、知らなかった。
ていうか、あの人いつの間に横浜中華街に行っていたんだ!
「……何でこの店に寄るって分かったんだ?」
質問を受けたシオンは、なぁに簡単なことよと、目を細めて笑った。
「領収書、だ」
「ああああ~~!!」

納得したように声を上げる星矢。成る程、領収書になら店の名前はおろか、住所まで記載されている。
頬杖をついて再びメニューをめくり出したシオン。その姿は非常に絵になっている。
「毎回毎回童虎は、この店で食事をとっておるようなのでな。気になっただけだ」
「老師の行きつけの店かー」
友人の師の屈託ない表情を思い浮かべる星矢。あの中国出身の老師が気に入っているくらいなのだから、味は確かだろう。
「老師もちょくちょく白羊宮で飯食ってるよな」
「ムウの料理を美味い美味いと食しているよ。故に、彼奴の舌は信じてもよかろう」
ぱたんとメニューを閉じる。注文は決まった。
「星矢、ゆっくり選んで構わんぞ」
「大丈夫、俺も決まったから!」
笑顔を見せる星矢。値段を見ても、そんなに気兼ねするような額ではない。
店員を呼び、オーダーを出す。
「八宝菜とシュウマイ、それに烏龍茶を」
「俺は海老チャーハン大盛りと、チャーシューメン大盛りと、飲茶セット!」
これには流石のシオンも苦笑い。
「星矢よ、斯様に注文して食べ切れるのか?」
「平気平気!成長期の若者なめんなよー!」
星矢は鼻息を荒くして、胸を張る。
残したら承知せんぞとシオンは釘を刺すと鞄の中から地図を取り出し、この後どこに行くか星矢と話し合った。
地図はここに来る途中、駅で購入した。
「横浜だろー。ここから少し足を伸ばして、鎌倉行ってみねぇ?で、あっちに一泊」
「それもよいな。鎌倉なら見るところも多々在ろうて」
「横須賀にも行ってみてーなー。米軍の軍艦停まってるかな」
「よかろう。折角来たのだ。行きたいところに連れていこう」
「わ、シオン。マジ太っ腹!」
目をキラキラさせながら、目の前の『見た目だけは年若い』教皇を見返す星矢。
「でも、本当にいいのかよ、シオン」
「何がだ」
間近で見ると、色が白くて睫毛が長い。星矢は小さく頷くと、怖ず怖ずと、
「なんだかさー、俺こんなの初めてだから、ここまでしてもらっていいのか、怖いんだよ。シオンに迷惑かけてるんじゃねーかとか、こんなにわがまま言っていいんかとか、色々考えちまうんだよ」
するとシオンは、愛おしげに目を細めると、やや口元を緩める。
大切な誰かを見つめている時の、情愛のこもった表情である。
手を伸ばし、ポンポンと頭を撫でてやると、
「斯様な考え方ができるお前だからこそ、私は今回お前を連れ出そうと思ったのだ」
「……シオン?」
大人の男性にそんなことをされた経験の無い星矢は、驚いたようにシオンを凝視している。
父親はいないし、師匠の魔鈴は父親というよりも姉だ。なので、この感触は新鮮だった。
「お前には甘えられる年上の男性がおらんのではと考えたのでな。アイオロスやアイオリアは頼りになる兄分だが、甘えたいとは思わぬであろう?」
「ああ、うん」
あの二人に甘えたら、笑顔で光速拳が飛んでくるか、真顔で説教されるような気がする。
老師は紫龍や春麗のことを考えたら、甘えるのはなんだか悪い気がするし……。
「でもさ、シオン」
「何だ」
自分を見返すシオンの瞳。ムウを少しきつくすると、シオンの顔になるような気はする。
星矢はどこか戸惑うような口調で、
「シオンが俺のことを目にかけてくれるのは嬉しいんだけどさ……」
「何か問題でもあるのか?」
口澱む星矢を促す、シオンの言葉。いつも思ったことを率直に口にする星矢が言い淀むこととは、一体何であろうか。
「……ムウや貴鬼がどう思うかなーって」
予想外の返答に、目を丸くするシオン。白羊宮の人間は眉が丸いので、目を丸くすると顔に丸が4つあるように見える。
星矢は口にしてしまったことで踏ん切りがついたのか、話を続ける。
「ムウも貴鬼も、あんたのことかなり大好きだぞ。だから、シオンが俺にこうしてくれるのを、どう思ってるのかなってのが凄く気になってさ」
星矢は白羊宮によく行くし、ムウもなんやかんや理由を付けて日本を訪れている。そのため牡羊座の聖闘士たちとは、それなりに付き合いがあるのだ。
貴鬼はよくシオンに遊んでもらったり、勉強を教えてもらった話を、子供らしい無邪気さで楽しそうに話す。
一見冷静に見えるムウも、師への思慕は相当深い。シオンの話をする時だけ、まるで子供が自慢の父親のことを語るような表情になる。
以前、からかうつもりで言ってやったことがある。
『あんた、本当にシオンのこと大好きなんだな』
いつもいつも落ち着いているムウが、どんな表情でそれに応えるか、見てみたかった。
するとムウは。幼い子供のような純粋な笑みを浮かべて、大きく頷いた。
『心から敬愛していますよ。大恩ある、私のたった一人の師ですから』
ここまでストレートな返答が返ってくるとは、星矢は思わなかった。
ムウのことだ。はぐらかすか、口先だけでも否定するかと予測していたが。
見事に、外れた。
「……まぁ、ムウも一応大人だから、あからさまに焼きもちとか焼かねーと思うけど。でも、あの人後で何するかわかんねーところがあるからぁ……」