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BAD COMMUNICATION

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「斯様に改まった顔をして、何用だ」

執務中のシオンは、酷くシリアスな顔をして教皇の間にやってきたシュラに訊ねた。
その言葉尻に少々うんざりとしたニュアンスが含まれているのは、現在シオンの机の上に15センチ程の高さに積まれた未処理案件のファイルのせいだろうが、シュラは自分の頼み事のせいだろうと刹那考えた。
だがこれから教皇に陳情するのを、止める気はまずない。
こればかりはどうにも我慢できなかったからだ。
「教皇、黄金聖闘士同士の模範試合の開催をお願いしたいのですが」
「ほぉ」
それを聞き、シオンの整った唇が、三日月の形に曲がる。
面白そうな『何か』の匂いを、シオンはシュラの言葉から嗅ぎ取ったのだ。
だが彼は表面上は教皇の威厳を崩さずに、再びシュラに訊ねる。
「誰が行う?」
「俺とデスマスクで行いたいと存じます」
真顔でシュラは答える。
シオンは一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに元の笑みを浮かべる。
「よかろう、これから日程を調整する故、磨羯宮で待て。こちらから連絡する」
「御意」
シュラは恭しく頭を下げた後、殺気を隠さない様子で教皇の間を辞した。
その足取りで、シオンはシュラの本当の目的に気付いたようだが、
「まぁ、良かろう」
と一言で済ますと、模範試合開催のための事務処理を始める。
目の前には書類が山と積まれており、仕事を増やしたシュラに対し苛立たしい気持ちがないわけではなかったが、妙に心は弾んでいた。

数日後。拳と拳、小宇宙と小宇宙を激しく打ち合う音が、闘技場内に響く。
放たれた小宇宙がぶつかる度に火花が散り、観客席でこの様を見物していた雑兵たちは、その一瞬の輝きに歓声を上げた。
「凄まじい小宇宙のぶつかり合いだな」
「黄金聖闘士同士の戦いとは、これほどまでに激しいものなのか」
固唾を飲む者、興奮して大声を上げる者。
まるで格闘技の試合会場のようである。
再び花火のように弾け散る小宇宙。場内の興奮も、最高潮に達していた。
「シュラ様、やっちまえ!」
「デスマスク様、本気を出せ!」
次第に飛ぶ野次。
そう。現在闘技場内で拳を打ち合わせているのは、蟹座のデスマスクと山羊座のシュラの両名だった。
何故黄金聖闘士二人が模範試合……という名の殴り合いをしているのか。
その理由を知っているアフロディーテは、半ば涙目でデスマスクに向かって手刀を繰り出しているシュラの姿を眺めながら、呆れたようにため息をつく。
「馬鹿馬鹿しい……」
吐き捨てに近い様子で呟く。
今アフロディーテが聖衣姿で闘技場に控えているのは、二人がヒートアップして模範試合であることを忘れた場合、止めに入るためであった。
「何がだ、アフロディーテ」
隣にいたミロがコーラを飲みつつ、顔の綺麗な同僚に尋ねる。無論、彼も聖衣姿だ。
「あの二人が模範試合をしている理由だよ」
「シュラが教皇に模範試合の開催を申し出たと聞いているが?」
不思議そうに目を瞬かせるミロ。
アフロディーテはどうやら、自分の知らないことを知っているようだ。
「……何か裏があるのか?」
「ああ」
エビアンのボトルに、美しい聖闘士は口を付ける。
聖衣姿でミネラルウォーターを飲むその姿はひどくシュールだったのだが、ここは聖域内なので誰も気にしていない。
「とても公表できないような理由だよ。子供の喧嘩レベルだ」
「ふーん」
ミロはそれ以上追求しようとはしない。
アフロディーテが恐ろしく口が堅いのを知っているからだ。
何せ、教皇の正体を知りつつも、それを13年間も隠し通してきたのだから。
だが、アフロディーテの口調から、あの二人の間でどうしようもない何かがあったのだけはわかる。
「あいつらも変なところで大人げないからな」
「まぁね。それは同感だ」
アフロディーテは頷くと、闘技場の外にある駐車場の方へ視線を向けた。
そこには各黄金聖闘士の愛車が停められているのだが、デスマスクのアルファロメオと、シュラの黒のロータス・エスプリは、修理上がりのような色艶のはずだ。
「本当に馬鹿だよね……」
長い睫毛に縁取られた目をやや伏せながら、アフロディーテは一週間程前の事を思い出していた。

その日アフロディーテは、愛車のフェラーリ360モデナで出掛けるために駐車場に足を向けた。
カバーを外し、所定のコンテナの中にしまい込んでいると、シュラとデスマスクも駐車場にやってきた。彼らは今日で駐留期間が終わりなので、車で実家に帰るらしい。
「スペインに帰るのかい?シュラ」
「まぁな。たまにはこれに乗ってやらないとな」
愛おしそうに愛車のロータス・エスプリを撫でるシュラ。
彼のエスプリが黒なのは、ロズマンズカラーのマシンを駆ったセナに憧れてのことだった。
つまりシュラがロータスを愛車にしているのは、セナを想ってのことだったりする。
アフロディーテがフェラーリに乗っているのは、別にフェラーリに格別な思い入れがあるからではなく、知り合いがプレゼントしてくれるからにすぎない。
そのため、いつの間にやら所有するフェラーリが数台になってしまい、聖域の駐車場に停められなくなってしまった。なのでレンタルガレージを借りて、フィーリングの合わなかった車はそちらに預けている。
「そうか、安全運転で帰国してくれ」
「ああ、じゃあな」
サングラスをかけ運転席に座り、イグニッションキーをひねるシュラ。
そしてそのまま、エスプリを発進させようとしたその時。
ゴン。
鈍い音がしたかと思ったら、ロータスの左フロントに赤いアルファロメオが突っ込んでいた。
「あちゃー……」
運転席のウィンドウが開き、やっちまったと言わんばかりのデスマスクが顔を出す。
どうやらデスマスクが車をバックさせたところ、前進してきたシュラのロータスとぶつかってしまったようだ。
アルファロメオが猛スピードで突っ込んできたものだから、黄金聖闘士の反応速度でも避けられず。
「……免許取りたて同士じゃないんだから……」
側で見ていたアフロディーテがこう呆れ返る結果となったのだが。
シュラは。
あまりの事態に、一瞬何が起こっているか理解できなかった。
数秒かけて自分のロータス・エスプリにアルファロメオが突っ込んでいることに気付くと。
「デスマスク!!!」
相手を叩き切る勢いでエスプリから降り、車外でバンパーの傷み具合を確認しているデスマスクに詰め寄った。
デスマスクはやや顔を上げると、悪ィ悪ィと彼にしては素直に謝る。
「あー、やっちまったぜ、シュラ。悪いな。でも、バンパーとフェンダへこんだだけで済んでるぜ。俺の方もバンパーやっちまってるし、痛み分けでどうだ?」
ぶつけたのはこっちなのに、そんな事を言う。
この時、シュラの中で何かが音を立てて切れた。
「エクスカリバー!!」
右手を構えて手刀を繰り出そうとするシュラを、アフロディーテはこれはマズいと慌てて止めに入る。
「シュラ、やめないか。落ちつけ!」
必死で後ろから羽交い締めにするが、今のシュラは怒りで我を忘れている状態なので、動きを抑えるのだけで精一杯である。
作品名:BAD COMMUNICATION 作家名:あまみ