BAD COMMUNICATION
デスマスクはシュラがアフロディーテに抑えられているのを眺めると、そのまま頼むわと言い残し、アルファロメオに乗ってさっさとそこから去ろうとした。壊れた箇所は、実家で板金に出すつもりなようだ。
逃げられてしまうと一瞬のうちにさとったアフロディーテは、最後の手段に出る。
素早く白薔薇をくわえると、アルファロメオのタイヤ目掛けてプッと吹き出した。
一直線に飛んでいった白薔薇は、見事にリヤタイヤを撃ち抜く。
パンクのお陰で、スピンして止まるデスマスクのアルファロメオ。
これにはデスマスクの方がキレ、荒々しい足取りでアフロディーテに詰め寄ろうとしたが、アフロディーテは自分に対して殺意満々のシュラを抑えている。
「……どうすればいいと思う、アフロディーテ」
少々手に余る様子でデスマスクが訊ねると、アフロディーテは冷静に、
「修理代は君が全額出すんだな、デスマスク」
「俺のパンク代もか?」
「君が逃げようとしたからだろう?私は出さないよ」
しれっと言ってのける麗人。デスマスクは物言いたそうに口元をもぞもぞさせたが、半ばやけっぱちな様子で、
「わかったよ!!出せばいいんだろう、出せば!!」
「……ということだけど、シュラ。どうする?」
アフロディーテに問われたシュラは、まだ怒りが収まらぬ様子ではあったが、ほのかに漂う薔薇の芳香のせいだろうか。徐々に落ち着きを取り戻していく。
「で、どうする?」
再度問われたシュラは、一言。
「こいつをぶん殴らなくては、気が済まん」
斬るのではなく、殴るときたもんだ。アフロディーテはシュラから体を離すと、
「けれど、殴ったら私闘になるよ?」
するとシュラは十二宮方面に歩き出しながら、低い声で答えた。
「相手を大っぴらに殴っても、罪にならん場合が、ある」
「?」
デスマスクは訝しそうに顔を顰める。
この聖域に、掟に、そんなことが許される場合があるというのか。
そんな『特例』があるのなら、是非とも自分が活用したい。
「そのうちわかる」
そうシュラは言い残し、二人の前から姿を消した。
そして話は冒頭に戻る。
アフロディーテは一気にそれだけのことを回想すると、蒼金の髪をかきあげた。薔薇の芳香が風に乗ってミロの鼻孔をくすぐる。
「勝負つきそうにないな、あの二人」
「黄金聖闘士同士だからね。後30分やっても引く気配がない場合、レフェリーストップで止めに入るよ」
「了解」
ミロは目を細めて笑った。
あのシュラの表情とデスマスクのやり返し方を見ている限り、絶対に残り30分では終わらない。
「まぁ、人の殴り合いって、見てる分には面白いよなー」
「君は格闘技好きだったかい?」
「それなりにな」
二人の黄金聖闘士の視線の先で、二人の黄金聖闘士の殴り合いが未だに続いている。
作品名:BAD COMMUNICATION 作家名:あまみ