二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Rira bien qui rira le dernier

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
白羊宮。
ここは十二宮第一宮・牡羊座のムウが守護する宮であるが、この宮の生活スペースの居間はどういうわけか黄金聖闘士たちのたまり場になっていた。
家主が聖衣修復の技術者であるため、常に誰かしら聖衣のメンテナンスのために白羊宮でお茶を飲んでいるのだが、それがふらっと立ち寄り、話をしていき易い雰囲気を醸し出しているらしい。
誰かが白羊宮でお茶を飲んでいると、自宮に帰るためにそこを通過しようとした他の黄金聖闘士が、掃き出し窓から『おう』と声をかけ、他愛無い世間話が始まる。
そうしているうちに聖衣のメンテナンスを終えたムウが顔を出し、折角だからおみかんでもどうぞと家の中へ誘う。
白羊宮の居間はいわば、黄金聖闘士たちの寄合場なのである。

故に、たまにこんな光景が見られたりもする。

カチンと、駒を盤に軽く打ち付ける音がする。
チェス盤上、ポーンの駒をc4に進めたカミュは、盤面を眺めながら独特の形の眉を軽く顰めていた。
しまった、今のは悪手だったか?
紅茶色の目が、そう語っている。
盤を挟んで向かいに座っていたアフロディーテは黒いルークのコマを手に取ると、b8にポンと動かした。
カミュの口元に皺が寄る。
「そうくるか……」
指で顎をつまみながらしばし考えた後、自分のポーンをc5へ。すると、アフロディーテの綺麗な顔が軽く歪む。
美術品のような白く綺麗な指が、トントンとテーブルを叩く。
「……困ったな。さて、どうしよう」
対照的にカミュは、心なしか余裕のある表情である。どうやらいい手が見つかったらしい。
クールさを標榜する割にはかなりエモーショナルな人間なんだよね……と、アフロディーテは心の中でカミュを評してやる。
そんなことを考えても、この局面を打開する一手は浮かばないが。
「……おやおや、随分とお悩みのようですね、アフロディーテ」
長考に入りつつあった美しい聖闘士の手元に、家主が新しい紅茶のカップを置く。
無論、カミュの前にも置くのを忘れない。
アフロディーテは盤面を眺めながら渋い表情のまま、
「まぁね」
と、短くぶっきらぼうに答えると、紅茶をすすった。
そして何度か瞬きした後、ビジョップの駒を移動させる。
カミュは袋小路に入ったかと小声で呟くと、ルークを進撃させb6へ。
ノータイムでの一手である。
アフロディーテの綺麗な顔が、人には分からない程度に引き攣る。
「……憎たらしい程、君は強いな」
うめくように告げるアフロディーテに、カミュはやや苦笑いしながら、
「シベリアで暇な時はネット対局しているからな。たまにチャンピオンが名前を隠して指している」
「道理で強いわけだ!」
アフロディーテは右手人差し指で自分のキングの駒を倒した。
所謂『リザイン』、投了である。
「あまり長居してもムウに悪いからね。私はこの辺でお暇するよ。片付けは頼む」
ソファから立ち上がると、ひらひらと手を振って白羊宮を去るアフロディーテ。一応台所で食事の支度をしていたムウにも、声をかけていく。
「ムウ、長居して悪かったね。私は戻るよ」
「おや、夕食を召し上がっていかないのですか?」
料理台で野菜を刻みながら、意外そうにムウが言う。アフロディーテは軽く肩を竦めた後、
「昨日もご馳走になったからね。流石に二日続けては気が引ける」
「どこかの誰かさんに聞いて頂きたい言葉ですねぇ」
この時、天蠍宮の主が大きなくしゃみをしていたのは、内緒の話だ。
アフロディーテが双魚宮に戻った後、カミュは深く息を吐き、チェスボードと駒を片付け始めた。
カミュとアフロディーテがボードゲームをすると、カミュはいつも片付け役を押し付けられた。
それはお互いがティーンエイジャーの頃から変わっていない。
「すまんな、ムウ。思ったよりも長引いてしまった」
全ての駒を箱にしまったカミュは、家主にそう詫びた。
今日は貴鬼にチェスの手解きをするために白羊宮の居間でチェスボードを広げていたのだが、双魚宮に戻るためにこの白羊宮を通過しようとしたアフロディーテにそれを目敏く見付けられ、
「久しぶりに1ゲームどうだい?」
と、笑顔で誘われてしまった。
結果、どこか押しに弱い所のあるカミュは、なし崩し的に美貌の黄金聖闘士とチェス勝負をすることになってしまった。
ムウはいつもの柔らかい笑みで、
「いえいえ。全然構いませんよ。なかなか面白いものを見られましたし」
「面白いもの?」
「ええ。いつも堂々としているアフロディーテがあんなにイライラする様子は、なかなか見られませんから」
微笑ましいと言わんばかりの、ムウの口調である。カミュは淡々と、
「彼はチェスに興じている時だけは、表情がよく変わるからな。他のゲームでは、全くそのような事はないのだが」
「どうしてなのでしょうねぇ?」
テーブルの上のカップを、綺麗に片付けるムウ。
それを見届けた後、宝瓶宮に帰ろうとソファから立ち上がるカミュであったが。
「ああ、カミュ。貴方はお夕飯を召し上がっていきますよね?今日はボルシチにしてみたので」
そうムウに告げられたのでは、帰るに帰れない。
困ったような笑顔を浮かべた水瓶座の黄金聖闘士は観念したかのように、
「ご馳走になろう」
と、ダイニングへ向かった。

カミュは頭脳系ボードゲームは滅法強い。
本人も話しているが、普段シベリア在住の彼は、娯楽としてチェスやオセロのネットゲームに興じるようになった。
数多のプレイヤーとネット越しとはいえ対戦を続けるうちにメキメキと腕を上げ、今ではチェスの腕ならば黄金聖闘士随一である。サガも、ボードゲームではカミュに敵わない。
そのため、シオンから貴鬼のチェス指南役に指名されてしまい、聖域に赴いた際は白羊宮にて指導対局を行っている。
けれどもカミュが聖域に顔を出すのは珍しいので、こうして他の黄金聖闘士の横槍が入り、貴鬼はただ見ているだけ……ば状況になるのがほとんどだった。
「ねー、カミュ。どうすれば上達するかな?」
ボルシチを頬張りながら訊ねる貴鬼に、カミュは無表情で、
「勉強すること、練習することだな」
と、在り来たりな答えを返す。それに唇を尖らせる貴鬼。
「もー!アフロディーテもシオン様も、みーんな勉強勉強って!オイラ勉強することがいっぱいでやんなっちゃうよーーー!!」
「だがな、貴鬼よ」
カタとスプーンを置き、幼い聖闘士候補をカミュは見据える。その視線は彼の用いる技のように、冷たく、透き通っていた。
「私も、今ここに居るムウも、教皇も、アフロディーテも、聖闘士になった今でも学び、鍛え、自らを高めているのだぞ」
「え!?」
貴鬼の目が大きく見開かれる。
ゆっくりとした動きで怖ず怖ずと師を見上げると、ムウは平生の表情のまま、
「聖闘士、黄金聖闘士になっても、勉強することは沢山ありますからねぇ」
「アフロディーテは今ドイツ語を勉強していると話していたな。毎年ウィーンフィルのニューイヤーコンサートに出掛けるので、必要に迫られて……という感じらしいが」
淡々と語るカミュ。貴鬼は丸い眉を寄せると、
「アフロディーテって、何か国語も話せなかったっけ」
作品名:Rira bien qui rira le dernier 作家名:あまみ