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Rira bien qui rira le dernier

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「それだけ出来ても、まだ必要になるということですよ。シオン様も新聞を何紙もお読みになっていますが、教皇の職務上、色々と勉強することがあるからだそうです」
「そうだったんですか……」
しゅんと視線を下げる貴鬼。
シオンはいつも、居間で新聞や本を読んでいる。てっきり趣味で読んでいるのかと思っていたが、そのような理由もあったのか。
「お前も沢山勉強なさい、貴鬼。大人になった後、きっと役に立ちますから」
「師というよりは親のようだな」
横でそのやり取りを聞いていたカミュは、そう言って苦笑いする。
ムウは柔らかい笑顔を浮かべたまま、穏やかな口調でこう反論した。
「貴方に言われたくありませんね、カミュ」

巨蟹宮。
ここの主人は部屋で煙草を吸いながら、ソリテアーに興じていた。
意外なことにデスマスクは、カードゲームやボードゲーム、バックギャモンなどで遊ぶ。ミロのようにテレビゲームなどに夢中になることはない。
シシリーのマフィアと付き合いが深いためか、特にポーカーには異常な強さを見せた。
その様子が外から見えたのであろう。双魚宮に戻る途中だったアフロディーテが声をかける。
「一人遊びとは随分と寂しいね、デスマスク」
「端から聞くと誤解されるようなものの言い方は止めろ、アフロディーテ」
デスマスクは吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると、窓際に寄った。この綺麗過ぎて現実離れした顔を持つ同僚は、大の嫌煙家だ。
よって、彼と話す際は煙草を消さなくてはならない。
……そうしないと、白薔薇が飛んでくる。
「どうした、今帰りか」
「ああ。ちょっと白羊宮に長居してしまってね。夕食を勧められたけど、遠慮してきたよ。流石に二日連続でご馳走になるのは心苦しいからね」
軽く肩をすくめる魚座の黄金聖闘士。デスマスクはクククと喉を鳴らして笑うと、
「お前は気を遣い過ぎだぜ。どっかの誰かなんて、月末になると一週間くらいムウんとこに居座ってるだろ」
この時、天蠍宮の主が大きなくしゃみを2回し、『風邪かな?』と首をひねっていたのは、ここだけの話である。
「彼は修復の血液要員でもあるのだよ。何事も上手くバランスが採れているものさ」
美しい聖闘士は、そう言って肩にかかった蒼金の髪を払った。
「で、お前。白羊宮に長居って言ってたが、ムウと話し込んでいたのか?」
アフロディーテは自分と違ってムウとの仲は悪くない。なのでそう訊ねたのだが、アフロディーテは軽く首を横に振った。
「いや、カミュが貴鬼にチェスの手解きをしていてね。1ゲーム相手をしてもらったのだよ」
「結果は?」
「私のリザイン、だよ」
端正な口元に浮かぶ、苦笑い。
アフロディーテは決してチェスは弱くない。上流階級の人間と接する機会の多い彼は、必要に迫られた形ではあるがチェスも嗜んでおり、腕前もなかなかのものであった。
そのアフロディーテが、素直に負けを認めている。
デスマスクはそれを聞き、思案するように右手の指で顎をつまむ。
確実に、明らかに、何か悪巧みをしている顔であった。
「そっか。今カミュはムウのとこに居るのか」
「ああ、夕食をご馳走になっているんじゃないかな」
「そうか」
ニヤッと、デスマスクの口元と目元が歪む。
それは、サガがシオンを殺した謀反人と知りながらも、彼についていた頃の顔。
「明日、俺もカミュと指すかな?」
イヤな顔だと、アフロディーテは思った。
こいつがこんな表情を浮かべている時は、絶対にろくなことを考えていない。
けれども、デスマスクがボードゲームに関してはそれなりに腕が立つことを知っているアフロディーテは、
「そうか。なら、その時は私も呼んでもらえないかな?どんなゲームになるか見てみたい」
「Si」
短く答えたデスマスクはチャオ!と一言言い残すと、部屋の奥に戻った。
そろそろ紫煙が恋しくなったのだ。

翌日。カミュは午前中から白羊宮にやってきて、貴鬼にチェスや簡単なフランス語を教えていた。
貴鬼には色々なことを学ばせてやりたいという、ムウとシオンの親心である。
「う~ん、難しいなぁ」
市松模様のチェスボードの前で、唸る貴鬼。カミュは微かに笑顔を見せると、
「大丈夫。ちゃんと練習し、勉強すれば強くなる。私もそうして強くなった」
カミュは駒を動かしながら、色々と説明している。貴鬼はそれを身を乗り出して熱心に聞いていた。
近々日本に行く予定があるので、チェスで辰巳を負かすのが現在の貴鬼の目標なのだ。
「じゃ、このナイトをこっちに動かしちゃった場合は?」
「どうなると思う?」
「ううう~ん」
盤面を見て必死に考えるが、なかなか浮かばない。
「こう動かされたら、私はルークを……」
「あー……」
「なので先程の場合、ナイトではなく、ポーンを使う」
「へぇ~……」
貴鬼の目がキラキラと輝いている。カミュの手元を見ていると、本当に魔法としか思えない。
水と氷の魔術師は、チェス盤の魔術師でもあった。
「……まったく、聖衣の修復の修業も、それ位熱心にやってくれたら助かるのですけどねぇ」
洗濯物を干し終えたムウが、熱心にカミュの講義を受ける弟子に苦笑する。
貴鬼は恥ずかしそうに顔を赤らめたが、カミュは淡々と、
「ゲームの一つだからな。楽しいのも当たり前だろう」
「フフフ、カミュは優しいですねぇ」
揶揄するように呟いたムウは、今度は台所に消える。お茶の支度をするようだ。
と、ムウが薬缶をガステーブルにかけた所で、玄関から人の声。
「おーい、ムウ。カミュはこっちに居るか?」
「あの声は……」
スリッパを鳴らして玄関に出向きガチャリとドアを開けると、そこにはデスマスクとアフロディーテの姿が。
アフロディーテは頻繁に白羊宮を訪れているのであまり気にならないのだが、犬猿の仲ならぬ羊蟹の仲のデスマスクがそこにいるのには、どうしても訝しさを押さえ切れなかった。
「……何の御用ですか、デスマスク」
「おい、お前。今あからさまにイヤな顔したろ」
「いえ、気のせいですよ」
ムウは口ではそう言うものも、その目付きや顔つきは、明らかにデスマスクの訪問を嫌がっていた。
見兼ねたアフロディーテが宥めるように二人の間に割って入る。
「カミュが来ているだろう?」
「ええ」
「デスマスクも結構チェスはやるのだよ。そこで、カミュと1ゲーム勝負したいと言い出してね。面白そうだから、私も見物に来たというわけさ」
「ああ、そうなのですか」
自分への用事でなかったことに、心持ちホッとした表情を見せるムウ。
デスマスクは小声のイタリア語で、嫌われたものだぜ……と拗ねたように呟いたが、嫌われても仕方ないことを過去にやらかしているので、文句も言えない。
「そういうわけなんでな、上がらせてもらうぜ、ムウ」
と、室内に足を踏み入れようとしたデスマスクだが、途端透明な壁にぶつかり顔面をしたたか打った。
「ギャン!」
情けない声を上げて鼻を押さえるデスマスク。
恨めしそうに前を注視すると、いつの間にやら玄関先にクリスタルウォールが張られていた。
「……随分と仕事が早いね、ムウ」
呆れとも感心とも取れる口調でアフロディーテが告げると、ムウは作り物のような笑みを浮かべ、縁台を出してそこでチェスをするように柔らかいが押しは強い語調で言った。
作品名:Rira bien qui rira le dernier 作家名:あまみ