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あいつはそれを理解できず、そいつはそれを我慢できない

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さて、黄金聖闘士の半分が二十歳なのだが、聖域の人間はあまりそれを信用していない。
どう見てもアルデバランは四十代であるし、ムウはベテラン主夫の雰囲気だ。
カミュも氷河を育てていたせいか、普通の二十歳よりも老成している。
シャカに至っては、年齢などというものを既に超越している趣すらある。
そんな中、『あの二人は何とか二十歳かな?』と思われているのが2名ほど存在する。
アイオリアとミロである。
アイオリアは、他の二十歳のメンツに比べると、やはり若い。というか、雰囲気が青い。
ただその若さは、一昔前の青年の若さであった。
アテネ市内にいる80歳くらいの老人をアイオリアに会わせたら、
『わしも昔はこんな感じじゃった』
と、しみじみ呟くに違いない。
さて、もう一人のミロであるが。
彼は誰がどう見ても、二十歳の若者である。
アイオリアのように『一昔前』という形容詞はつかない。現代に生きる二十歳であった。
バイクもゲームも好きであるし、ファッションにも興味がある。
神話の時代から続く聖闘士の最高実力者の一人でありながら、ごく普通の現代の若者の感性も持ち合わせていた。
ただ、その『若さ』が、同僚には短気や浅慮と映るらしいが、年下の後輩達には、『気さくで身近な良い兄ちゃん』と認識される。
本日は、そんなミロのお話。

ある夜の事。
ミロがアテネ市内の飲み屋から聖域に戻ってくると、十二宮の入り口で貴鬼が膝を抱えて座っていた。
「?」
遠目からなので、表情は解らない。
ただ、今は午後10時だ。
こんな時間まで貴鬼が一人でいるなんて、ましてや白羊宮の外にいるだなんて、何事かあったに違いない。
「……おい、貴鬼」
近寄りながら声をかける。
反応はない。
抱えた膝の上に顔を伏せているので、どんな顔をしているかは判らない。
…………明らかに、ムウと何か揉めた様子だ。
ミロはそう察したが、下手に口出ししてムウに小言を言われるのもイヤだ。
それなので、そのままそこから立ち去ろうした、が。
「う……」
小刻みに貴鬼の肩が震えている。
泣いているのだと、ようやくわかった。
迷うミロ。
ここでこいつを置いていっていいのか。
けれども、下手に貴鬼を構ったらムウに……。
『この場はスルーといくか』
と、そのまま通過しようとするミロであったが。
「………………」
こんな遅い時間に泣いている子供を一人置いていくのは、どうにも気分が悪い。
「おい、貴鬼」
膝を抱えて座っている子供に声をかけるミロ。
貴鬼は弾かれたように顔を上げると、涙で潤んだ瞳でミロを見つめた。
「……ミロ?」
「お前、何してんだ。こんなところで。ムウに叱られるぞ」
と、ムウの名が出た途端、貴鬼の表情が変わった。
曇天の空から雨が降ってきたような、そんな変化。
大きな目から、ポロポロと涙がこぼれる。
思わずギョッとするミロ。
まずい、貴鬼を泣かせたら、後で教皇かムウにぶっ飛ばされる。
元々泣いていたなんて言い訳、聞いてもらえるわけがない!
背中に冷や汗をかき、心拍数が上がる。
何と言い訳しようかと、ミロが考えを巡らせていると。
「……今日は、家に帰れない」
「どういうことだ?白羊宮にはムウが居るんだろう?早く帰れ」
すると貴鬼は大きく頭を振ると、
「今日はムウ様と一緒に居られないよ!」
肩を震わせ、全身から絞り出すようにしてそう叫ぶ貴鬼。
ああ。
ミロが確信した。
貴鬼はムウと何かトラブルを起こしたな。
十中八九、貴鬼がろくでもないことをやらかしてムウに叱られたのであろう。
ムウはあんな優しそうな顔をしているが、怒らせるととんでもなく怖いし、結構根に持つタイプなので始末に負えない。
……本気で怒ったムウは、黄金聖闘士二人を瞬殺するのだ。

それはともかく。
白羊宮にはもう一人大人が居たはずだ。
いや、年齢だけを聞いたら、大人というレベルを遥かに超越している。
むしろ、妖怪。
いつもはムウに叱られると、その妖怪……いや、教皇の元へ逃げ込むらしいが、なぜ今日はこんなところで膝を抱えているのか。
それを訊ねると、貴鬼は小声で一言。
「夜勤」
「……そうか」
教皇の仕事の一つである、スターヒルでの星の観測。通称・夜勤。
今夜教皇はそれで留守のため、貴鬼も白羊宮を飛び出すしかなかったらしい。
「アルデバランや老師のところに行ってもよかったんじゃないか?」
保護者たちと仲のよい黄金聖闘士の名を出したところで、ミロは気付いた。
「……って、今二人とも、聖域には出向していないんだよな」
「うん」
喩えるなら、仲のよい近所のおじさんやおじいちゃんも、留守で居ない。
そんな中、8歳の子供に何ができるというのか。
ミロは0.5秒ほど考えた後、貴鬼に告げた。
「こんなところで夜を明かすのは、いくら聖域内とはいえ、どうかと思うぞ」
「でも、オイラ今夜行くとこないもん……」
再び泣きそうになっている貴鬼。
ああ、俺はこいつを泣かせたいわけではないのだがな……。
子供の扱いというヤツは、どうにも難しい。
ミロは苛立ったように貴鬼の右手首をつかむと、強引に引っ張って立ち上がらせる。
「ミロ?」
「今夜は俺の宮に泊めてやる。明日教皇が白羊宮に戻る際、一緒についていけよ」
ぐいぐいと貴鬼の手を引っ張るミロ。
貴鬼はまさかミロが天蠍宮に泊めてくれるとは思わなかったので、一瞬耄けたような顔をしていたが、すぐににっこりと笑う。
「うん、ありがとう!ミロ」
その笑顔。
ミロは不覚にも愛らしさを感じた。
いつもは白羊宮にいるませたガキだとしか思っていなかったが、こう素直になられると結構可愛い。
『あー、こりゃ教皇がメロメロになるわけだ』
部下には厳しいが、身内には蜜の如く甘い聖域の統治者の顔を脳裏に浮かべたミロは、天蠍宮へ向かう十二宮の石段を小走りに進んだ。
のんびり歩いていたら、時間がかかって仕方ない。

第八宮・天蠍宮の居住スペースは、広いワンルームの作りになっている。
元々二部屋だったのだが、掃除がめんどくさいという理由でワンルームに改装。
広いフロアには、ソファベッドやテレビ、雑誌やDVDが乱雑に置かれており、二十歳の男の一人暮らしの様子を来訪者に見せつけることになる。
初めてミロの部屋にやって来た貴鬼は、珍しいのかキョロキョロと室内を見回している。
壁に貼られたプレイガールやオートバイのポスター、男性向けDVD、缶ビールの残骸。
貴鬼が普段暮らしている白羊宮とは、全く雰囲気が違っていた。
ミロの部屋からは、自分の師や教皇からは感じられない『二十歳の男性の匂い』がするのである。
それも、『今の時代を生きている二十歳』。
ミロは貴鬼が自分の部屋を見回していることに気付くと、苦笑いする。
「どうした。俺の部屋がそんなに珍しいか」
「うん、うちと全然違うから」
この場合のうちとは、白羊宮である。
「当たり前だろ」
冷蔵庫を開け、コーラの瓶を取り出す。
これを一本貴鬼に渡したら教皇にぶっ殺されるなと考えたミロは、小さなグラスを用意すると、コーラを注いで貴鬼に渡した。
「ま、飲めよ」
「いいの?」
「勧めているのだから、飲め」
「……ありがと」