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あいつはそれを理解できず、そいつはそれを我慢できない

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お小言のようにブツクサ言いながらも、シオンは幸せそうに微笑んでいた。
自分の大事な弟子が、自分の大事な聖衣を完璧に修復してくれたこと。
そして自分の大事な弟子と孫弟子のために、部下が一肌脱いでくれたこと。
こんな嬉しい事、滅多にない。
「私は果報者よ」
眠る弟子にそう語りかけると、シオンは風呂場に向かった。
ムウがこんな様子では、風呂の準備はできていないだろう。
しかし、シャワーならばいつでも使える。
これから眠るにしても、昨夜の汗を流さなくては気分が悪い。

午後十二時半。
シオンが二階の寝室から降りてくると、いつも通りの日常が待っていた。
「シオン様、おはようございます」
台所で昼食の支度をしていたムウが、普段通りのもの柔らかい笑みを向ける。
ダイニングテーブルに腰掛け自分で茶を入れたシオンは、いつも室内ではしゃいでいる貴鬼の姿が見えないことに気付いた。
「ムウよ、貴鬼はどうした?」
「ああ、今天蠍宮に使いにやっています。トマトソースを少し多めに作ったので、お裾分けです」
「ほぉ……」
シオンは紙面を目で追いながら、ムウが『多めに作った』のではなく、『ミロのために作ったのだろう』と察していた。
恐らくは昨夜の礼であろう。
「昨晩はミロが貴鬼の面倒を見たらしいな」
「ええ。おかげで作業がはかどりました。難しい修復だったので、私一人の方がやりやすいのです」
「そうか」
なんて白々しいやり取りだろうと、シオンは苦笑したくなる。
自分は何が起こったか知っているし、ムウも師に隠し事ができるとは思ってはいないだろう。
「あの、シオン様」
「何だ?」
新聞を畳みテーブルの上に置くと、弟子に体を向ける。
その視線の先には、どこか辛そうな目をしたムウがいた。
今のムウの表情、シオンには覚えがある。
ムウが子供の頃、誤ってシオンの風呂敷残業の書面を汚してしまった時、こんな顔をしていた。
「あの、シオン様、実は……」
「話さずともよい。ミロから大方の話を聴いておる」
不安そうに瞳を揺らめかせる弟子の頭を、手を伸ばしてそっと撫でてやる。
「ミロから、お前たちを叱るなと頼まれた故、今回は彼奴の血に免じて、咎める事はせぬよ」
安心させるかのように、笑いかけてみせる。
「シオン様……」
子供に戻ってしまったかのように、泣きそうになるムウ。
いつも沈着冷静、どんな時でも優雅な笑みを崩さない、最強の黄金聖闘士の一人。
それなのに、シオンの前では一瞬で子供に戻ってしまう。
「ムウ、我が師の聖衣……嬉しかったぞ」
そのままポンポンと背中を叩いてやると、ムウの瞳から一筋、涙がこぼれた。
どうして涙が流れてしまったか、ムウ自身もわからなかったようで、慌てて右手で涙を拭っている。
「も、申し訳ありません、シオン様!年甲斐もなく……」
「構わぬよ。お前とて、色々思うところはあったのだろうしな。それより、ムウよ」
腕を離し、テーブルの上の新聞をテレキネシスで片付けると、少々からかうような口調でシオンは訊ねる。
「私の昼餉はどうなっておる?」
その言葉でムウは、弾かれたようにシオンの昼食の配膳を始めた。
今日のシオンの昼食は、野菜たっぷりの卵雑炊だ。

「本当、素直なように見えて、変なところで意地っ張りなんだよなぁー」
「何がだ」
キッチンでフライパンを握っているシュラが、リビングのソファーで雑誌を眺めているミロに尋ねる。
『眺めている』というのは、シュラの磨羯宮においてある雑誌は、どれもスペイン語か英語なのである。
それなので、ギリシャ語しかできないミロは、写真やグラビアの部分を『眺める』しかできないのだ。
「お前な、ギリシャ語の雑誌も何か買えよ。一応ここ、アテネ市内だぞ」
シュラの部屋の雑誌は、主にF1やサッカー関連だ。
ミロも興味がない訳ではないが、自分の読めない言語の文章が並んでいると、どうにも肩が凝る。
だがシュラは、その拳のようにミロの言葉を一刀両断する。
「家主の俺はスペイン人だ。スペイン語の雑誌が多くて、何が悪い」
「…………」
よい返しが浮かばないのか、雑誌を閉じてテーブルの上に放る。
ミロは基本、言葉で自分を表現するのが苦手だ。
グダグダ御託を並べるのは男らしくない、アテナの聖闘士らしくないと、師に教育されたためかもしれない。
男なら、戦士なら、行動で示せ。
それがミロの基本思考であった。
(故に、直情型のアイオリアとは時折大喧嘩する事もあるが仲が良いし、言葉少なめ、常にクールに行動で語るカミュとも上手くいっている)
さて、そのミロが何故現在シュラの磨羯宮のリビングで雑誌をめくっていたのか。
先程貴鬼からトマトソースを貰ったのだが、ミロはあまり料理に詳しくないので、これをどう使ったらいいのかわからなかったのだ。
いや、パスタを入れて食べるというのが一番スタンダードなのかも知れないが、生憎天蠍宮にはパスタのストックがなかった。
そこで、それなりに食材の揃っていそうなシュラのところに駈け込んだという訳だ。
平打ちパスタのトマトソースという、大してひねりのない昼食を用意したシュラは、皿に盛りつけるとリビングに運ぶ。
「ほれ。俺はこの程度しかできんぞ」
「おお、上等、上等!」
パチンと指を鳴らしてみせるミロ。
白羊宮の守護者ほどではないが、シュラもそれなりに料理は上手だった。
「それより、ミロ」
ソファに腰掛けたシュラはフォークにパスタを巻き付けると、美味そうにランチを味わっているミロに話しかける。
「先程の話の続きだが」
「ああ、ギリシャ語の雑誌を置けという話か?」
「いや、違う」
シュラの眉間に皺が寄る。
「素直なように見えて、変なところで意地っ張りとか、そのような事を言っていなかったか?」
「……俺、そんな事を言っていたか?」
どうやら雑誌を眺めていた時に、無意識のうちに呟いてしまったらしい。
さて、どうしたものか。
ミロは少々考えた後、
「まぁ、最近、そういう性格の奴が関わっているトラブルに巻き込まれたんだよ」
「ほぉ」
やや目を細めるシュラ。
その眼光は、ミロの本心を探り出そうとしているかのようだった。
だがミロは、シュラのその視線をいつも通りの表情で受けた後、グラスの中のコーラを胃に流し込む。
「お前最近、ずっと十二宮にいただろう。それなのに、どうやったらトラブルに巻き込まれるんだ?」
シュラに指摘され、ミロの眉がやや角度を付ける。
ミロが巻き込まれたのはムウ絡みの何かであると、シュラは薄々気付いていた。
ムウは基本アルデバラン以外には料理のお裾分けはしないのだが、そのムウからお手製トマトソースをもらうなど、よほどのことがあったに違いないのだ。
シュラはミロがそれを喋るかどうか引っ掛けてみたのだが、ミロはその思惑には乗らなかった。
「……お前はいい男だよな」
食後の煙草をくゆらすシュラに、ミロは不快感を丸出しにした表情を浮かべる。
「気色悪いことを言うな」
「そういう意味で言ったわけではないのだがな」
苦笑したシュラは細く煙を噴き出すと、ソファから立ち上がった。
ミロも時間を確認すると、シュラに食事の礼を言って席を立つ。
今日は午後から闘技場で白銀聖闘士や雑兵の訓練を行うのである。