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羊蟹の仲

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その師の言葉に、ムウの目が鈍く剣呑に光る。いつもより低い声でシオンに訊いた。
「つまりシオン様は、デスマスクが私を嫌いではないとおっしゃるのですか?」
「さて?」
嘯くシオン。こういう時のシオンは、老師以上にのらりくらりと言葉を躱す。
それを知っているムウは不服そうに黙り込むと、無言でパスタを口に運んだ。
シオンの作った夕食は、美味しい。悔しいが、自分の作った料理よりも美味しいのではないかとムウは思う。
でも、今美味しそうな顔ができない。
こんなに美味しいのに、眉間に皺が寄ってしまう。
だから。
「……シオン様」
「何だ」
先に食べ終えたシオンは、急須でお茶を淹れている最中だった。その手付きはひどく滑らかで、ムウは一瞬見惚れる。
「今日のシオン様の作られたお食事、とっても美味しいですから」
「わかっておるよ」
カップから漂う紅茶の芳香。シオンは甘いものが嫌いなので、紅茶もストレートで飲む。だからかも知れないが、上手に紅茶を淹れる。
「斯様な仏頂面をしておる間に、料理が冷めるぞ。疾く食せ」
紅茶の香りを楽しみつつ、シオンが告げる。
ムウは頷くと、パスタを口に運んだ。冷めかけてはいても、師の料理は美味しかった。本当に、美味しかった。

その翌日の朝。
白羊宮のテラスでムウが洗濯物を干していると、スーツケースを引いたアフロディーテが通過する。
「おや、アフロディーテ。どこかにお出かけですか?」
バスタオルを物干竿にかけつつ訊ねると、アフロディーテはその整い過ぎた容貌に親しい者にのみ向ける柔らかい笑みを浮かべ、
「スウェーデンに十日程ね。しばらく仕事漬けだったから、実家でのんびり羽を伸ばすよ」
と、首をコキコキッと鳴らしてみせる。
フフフとムウは笑うと、
「貴方は忙しい人ですからねぇ」
「本当、他の連中にも仕事を回して欲しいよ」
軽く肩を竦める麗人。本人は意識していないだろうが、仕草の一つ一つが華麗で美しい。
と、彼は思い出したかのようにスーツケースの取っ手に引っ掛けてあった紙袋を、ムウに渡す。
「あ、そうそう。これを預かっていたんだよ」
「?」
訝しそうに丸い眉を顰めるムウだったが、アフロディーテならば変なものを寄越すまいという信頼もあり、あまり気乗りしない様子ではあったが、受け取る事は受け取った。
「何ですか、これは」
「知らないよ。私も預かっただけだからね。中を開けてみたらどうだい?」
アフロディーテに促され、紙袋を開けるムウ。
無感動な手付きで封を開けると、中にはアニメのDVDが何枚も入っていた。
その中身は流石のアフロディーテも想定外だったようで、睫毛の長い目を丸くしている。
しかしムウは淡々と DVDを見つめると、
「何ですか、これは」
「DVDだろう」
「いえ、私が申し上げているのはそういう事ではなく……」
怪訝そうに顔を顰めるムウに、アフロディーテはその品物を自分に託した相手の名をようやく教える。
「それを君へ……と私に預けたのは、デスマスクだよ」
「デスマスクが?」
途端、ムウの瞳に暗く澱んだ光が宿った事にアフロディーテは気付いたが、それには構わず続けた。
「ああ。昨日は悪かったと伝えておいてくれ……だそうだ」
あくまでもさらっとした物言いを心掛けるアフロディーテ。
下手にデスマスクを庇うようなニュアンスを漂わせると、こちらにまでとばっちりが来るかも知れない。
しかしムウはアフロディーテのその言葉を聞くと、無機質な口調と表情で一言。
「そうですか」
このムウの態度から、これ以上の会話はない方がいいなと判断した魚座の聖闘士は、
「スウェーデン土産を買ってくるよ」
と言い残すと、白羊宮を後にする。
そしてムウだが、DVDをもう一度紙袋の中にしまうと、空になった洗濯籠の中に放り込み、屋内へ戻った。

居間のソファに腰掛け、DVDのパッケージを改めてムウは眺める。
パッケージには可愛らしい擬人化されたネズミが描かれていた。
イタリアが誇るキャラクター、トッポジージョである。
ジャケット表面には色々説明書きがしてあったが、イタリア語なのでムウには読めない。
DVDデッキを操作し、再生する。……流れて来たのは、何故か日本語。
このトッポジージョというアニメ、随分昔に日本で製作されたものだった。
主人公のトッポジージョ以外はほぼオリジナルではあったが、流石にアニメの国・日本で製作されただけあって、作品のクオリティは高かった。
ムウは年中日本に出向いているせいか、日本語のリスニングには不自由しない。
小さなネズミと人間の交流ドラマを楽しんでいると、用事で聖域にやって来た星矢が掃き出し窓から居間を覗いた。
「お、ムウ。珍しいもの見てるなー」
カラカラと硝子戸を開け、中に上がり込む星矢。
白羊宮の居間は半ばフリースペースなので、ムウも特に気にした様子はない。
ローテーブルの上にあったみかんをむきながら、星矢はアニメを楽しそうに視聴し始める。
「ああ、これ懐かしいよなぁ。星の子学園にいた頃、みんなでよく見たよ。確かこの話、このお姉さんが女の子の髪を染め直してあげるんだよな?」


次の瞬間、白羊宮にて牡羊座流星群が観測された。


数日後シオンは、一階の寝室でDVDや映画を見られるように設備を整えてやったのだが、その原因がネタバレされたムウの八つ当たりだなんて、聖域では公然の秘密である。
作品名:羊蟹の仲 作家名:あまみ