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羊蟹の仲

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ムウに食い道楽な部分があるのは、幼い頃ジャミールで粗食に耐えていた反動なのだ。
「そういうわけだから,あまりムウの楽しみを奪るなよ。あいつは今、失った子供時代をやり直しているのだから」
アルデバランの言葉に、何も言えなくなるデスマスク。
自分たちがサガの手先となって好き放題やっていた頃、ムウは何をしていたのだろうか。
そういえば。ムウのジャミールでの隠棲時代の詳細を知っている者は、あまり居ない。
聖衣の修復を細々と手掛けていた……程度の情報しか、デスマスクの耳には入っていない。
ムウとそれなりによく話すアフロディーテも、ムウがジャミールでどんな暮らしをしていたかはよく知らないらしい。
「私がそんなことを訊いたら、墓穴を掘るだけだろう?」
というのが理由だ。ごもっとも。
「……悪ィこと、しちまったか」
ソファに寝転がり天井を眺めながら、デスマスクは考える。
正直言って、ムウとはあまり仲がよくない。
穏やかで冷静なムウを怒らせたくて、時々バカにしたりちょっかいを出したりするが、今日は怒らせたくて怒らせたわけではなかった。
……全く面倒くさい奴だ。
「なぁ、アルデバラン」
「何だ」
「ムウは面倒くさい奴だよな」
「お前が面倒くさいだけだ。お前がムウに余計なちょっかいを出すから悪いんだぞ」
説教するような口調で、アルデバランはデスマスクに言う。
アルデバランの見るところ、デスマスクは出さなくてもいいちょっかいをムウに出して、痛い目に遭っている。
一体何がデスマスクをここまで駆り立てるのやら。
「……ムウにスターライトエクスティンクションを食らったことを、未だに根に持っているのか?
だが、あれはお前にも非があるだろう。ムウを必要以上に殴ったのは、お前なんだからな」
「うるせぇ」
ポケットから煙草を取り出し口にくわえようとするデスマスクだが、金牛宮は禁煙であることを思い出すと、そのままポケットにしまった。
どうにもアルデバランの前では、ルール違反ができない。
「あー、俺、やっぱあいつ苦手だわ」
ぼやくデスマスクにアルデバランは苦笑いを向けると、こう告げた。
「多分ムウも、同じことを考えていると思うぞ」

ロドリゴ村の慰問から戻ったシオンが目にしたのは、食事の支度もせずにソファの上に不貞腐れた表情で寝転がっているムウの姿だった。
今日は貴鬼は童虎の家で農業体験なので、白羊宮には居ない。
もし貴鬼が居たら、ムウはこんな顔でこんなことをしていないだろう。
シオンは困ったような、呆れたような、そして何よりムウへの情愛が強く感じられる表情を浮かべ、ムウの枕元へ腰掛けた。
「どうした、ムウよ。斯様にむくれるなど珍しいな」
身内にのみ向けられる、優しい声音である。
ムウはごろんとソファの背もたれ側に顔を向けると、シオンから顔が見えないようにした。
今の顔を他人に見られるのは、やはり嫌らしい。だが、いつもの顔を保てない。気持ちが表に出てしまう。
ムウはくぐもった低い声で、
「何でも、ありません」
「何でもないものが斯様に臍を曲げておるか。私の帰宅時間になっても夕餉の支度すらしておらぬし、何かあったと見るのは当たり前だろうて」
「シオン様は夕食を召し上がってくると思っていました」
「夕餉には戻ると申しておったろう」
ムウは何も言わない。代わりに、白いシャツに包まれた肩が、プルプルと震えている。
何かを言いたいのだけど、言ったら感情を爆発させてしまいそうだ。
そんな様子である。
「ふむ」
目を丸くするシオン。気丈な自分の弟子がこんな姿をさらすとは。
よほどのことがあったと見るべきか。
「まぁよい。話したくなくば話さずとも。いつも立派にやっておるお前が何も手につかぬなど、かなりのことがあったのであろう?」
白い手でムウの頭を撫でてやる。
完全に子供扱いだが、248歳から見れば20歳などまだまだ子供である。
ムウはかすかに、ほんの微かに頷く。
「そうか」
静かに枕元から立ち上がると、シオンは法衣を脱ぎ、居間に置いてあるハンガーラックにかける。
今日は一日歩き通しだったので、明日は洗濯しなければならないだろう。
「今宵はこの師が晩餉を拵える故、お前はそこで休んでおれ」
シオンはエプロンをかけると髪を結び、冷蔵庫の中を漁り始めた。
野菜が中途半端に残っているので、これを使ってコンソメスープを作り、スープパスタにでも仕上げよう。
一応シオンも料理は出来るのだ。面倒なので、普段やらないだけで。
台所から規則正しい包丁の音が聞こえ始めた頃、ムウはソファの上に仰向けになり、らしくもない子供じみた口調で言い放った。
「私はデスマスクが苦手です」
包丁を持つシオンの手が、一瞬だけ止まる。
だがすぐにキャベツやら白菜やらを刻み出すと親のような物言いで、
「デスマスクと喧嘩でもしたのか?」
「いいえ。デスマスクが私に意地悪をしただけです」
「まぁ、同僚に『いじわる』をするのはあまり感心せぬな。私からもデスマスクに話しておく故、あまり臍を曲げたままでおるでない」
子供のもめ事と変わらぬことがこの白羊宮で行われたと知ったシオンは脱力しそうになったが、教皇の精神力でかろうじて耐えた。
ムウとデスマスクは、どうしてこんなに仲が悪いのやら。
もし二人で任務を遂行しろとの勅命を下したら、きっとムウもデスマスクも声を揃えて『イヤです』と言うだろう。
そして声が唱和してしまったことに自己嫌悪を覚えるに違いない。
『仕方の無い奴らよ』
口の中で教皇は独語する。
その端正な口元には、呆れと愛情が入り交じった笑みが浮かんでいる。
「さて、と」
スープパスタをテーブルの上に配膳し、ムウを呼ぶシオン。
「どれ、ムウよ。出来たぞ。冷めぬ内に食さぬか」
深めのパスタ皿からは良い香りが立ち上っている。けれどもムウは、すぐには反応しなかった。
シオンは先にテーブルにつくと、心持ちきつい口調で言う。
「食べぬのか?私が二人分食すぞ」
するとムウは、瞬間移動で一瞬のうちにテーブルにつくと、フォークを持って頂きますと頭を下げた。
「……シオン様、先代の蟹座もやはり他の聖闘士に意地悪をする方だったのでしょうか?」
食事中、急にそんなことを訊ねる牡羊座の聖闘士。シオンはすぐに否定すると、
「口も態度も模範的は言えぬようなところがあったが、面倒見のよい気持ちのよい男であったぞ」
「そうですか」
再びパスタをフォークに巻き付けるムウ。
先代蟹座はそんな男なのに、何故デスマスクは『あんなの』だろうか。
「何のちょっかいを出されたのかは知らぬが、聖闘士間では私闘は禁止だぞ」
「では、ちょっかいは私闘に入らないのでしょうか」
憮然とした様子でムウが言い返す。シオンは迷いの無い口調で応えた。
「情愛の一つの形としてのちょっかいであれば、私闘にはならぬよ。私はそう判断しておる」
「どういう事ですか?」
ムウの目が据わっている。
食べているパスタが美味しくとも、食事中の話題が最悪だと表情が澱んでしまう。
ムウはこの歳でようやくそれを知った。情愛の一つの形とは、どういう事だ。
シオンはスプーンで野菜スープを掬いながら、
「嫌いの反対は無関心だ。本当に嫌っておるならば、近寄りすらせんよ」
作品名:羊蟹の仲 作家名:あまみ