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寺子屋の手記

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現在東シベリア在住の水瓶座のカミュは、週に何回かコホーテク村にて読み書きやら簡単な算数を教えている。
この辺りには学校がなく、親たちも子供を学校に通わせるよりは家の手伝い(漁林業)をさせた方がよいと考えている節があるので、子供たちの将来を憂いた村長がなんとかして欲しいとカミュに頼んだのである。
「いっそ、村に学校を作ればいいのでは?」
カミュはそう問い質したのだが、村長の答えは「ニェット(いいえ)」だった。
「まず、こんな辺境の村には教師は来ない。教える人間が居なくては、学校は作れない」
「読み書きの出来る大人で、持ち回りで教えるのは?」
「昼間は仕事があるし、夜に子供を外に出すのはな」
チラと村長はカミュを見やる。そして。
「カミュさん、あんたの手が空いている時でいいから、手伝ってくれないか?謝礼は払えないが、村で採れた野菜や魚を……」
コホーテク村は、決して豊かな村ではない。カミュはそれを知っている。
クールを信条としている癖にどこか甘いところのあるカミュは、深い深いため息をつくと、
「週4回、午前の三時間、午後の二時間だけ手伝います。場所はそちらで用意して欲しい」
「村の集会場を使いましょう。ありがとう、カミュさん」
感激して両手でカミュの手を包む村長。その目には光るものが浮かんでいる。
学校でなく、どちらかというと塾の体裁だが、それでも構わない。
子供たちに学ぶ場所を提供することができるのなら。
こうしてカミュは、氷河やアイザック以外からも先生と呼ばれるようになった。

教材はサガや教皇に相談した結果、公文式といちぶんのいちシステムを採用。
午前中はそれらの教材を使用し学習指導を行い、午後は自習なり読書なり自分のペースで学ぶ。
村長の強引な拝み倒しで始めた寺子屋だが、元々人にものを教えるのが好きなカミュは結構楽しんでいた。
簡単な読み書き、計算。出来のいい子供には少しレベルの高い内容を教えた。
「カミュ先生って、どこの人なんですか?」
解答用紙の答え合わせをしている最中、生徒の一人に問われた。
カミュは赤いボールペンで添削しながら、
「シベリアでの生活が長いが、生まれはフランスだ」
「じゃ、フランス語話せるんですか?」
「Oui, Pour leurrer le monde, ressemble au monde ; ressemble a l'innocente fleur, mais sois le serpent qu'elle cache.
(世間を欺くために、世間と同じ姿でいなさい。イノセントな花に似ながら、それが隠している蛇でありなさい)」
「おお~」
『マクベス』の一節をフランス語で暗唱すると、教室内から上がる歓声。
子供たちはカミュがフランス人だとは知らなかったようである。
ヤコフは一生懸命に分数のかけ算割り算のプリントを解きながら、
「カミュ先生は何か国語も話せるって、氷河が言ってたぞ」
「先生頭いいーーー!!」
雪に覆われたシベリアの小さな村で生活する子供たちには、マルチリンガルのカミュがとても『インテリ』に見えた。
語学だけではない。カミュは算数を上手に教えてくれるし、色々なことを知っていた。
子供たちがカミュに尊敬の眼差しを向けるのも無理はなかった。
「すごい!カミュ先生、カッコいい!」
「私大きくなったら、先生のお嫁さんになる!」
「あー、抜け駆けズルい~」
がやがやと俄に騒がしくなる教室内。カミュはポンポンと両手を叩く。
「静かにしなさい。ここには皆、勉強で来ているのだろう?時間は限られているのだ。できるだけの時間で、できるだけの勉強をしていけ」
諭すようにそう告げ、カミュは再び子供たちのプリントの採点を始めた。

カミュの寺子屋の評判は口コミで近隣の村にも広がっていった。
東シベリアは小さな村が多く、学校のない村も相当数あった。
それ故、コホーテク村に誕生した小さな寺子屋と指南役の存在は、学校のない村の人間にはひどく眩しく映ったようである。
「氷河、知ってる?」
その日村に買い出しにやって来た氷河は、店の手伝いをしていたヤコフにそう声をかけられた。
勿論、彼もカミュの寺子屋の生徒であるが、他の生徒と違っているのは、カミュが超人的な力で戦う聖闘士である事を知っている点だ。
「知っているとは、何の事だ。ヤコフ」
「うん。カミュ先生のお勉強会を他の村でもやって欲しいって、地域の偉い人が村長さんとカミュ先生に頼みに来たんだって。でも、カミュ先生はそれを断ったんだってさ」
「我が師の教えを求める人間が、そんなに沢山いるのか!」
瞠目する思いの氷河。
カミュの教え方が素晴らしいのは、氷河も弟子であるだけによく理解しているつもりだったが、ここまで多くの人間に求められているとは、思いもよらなかった。
「カミュは家ではあまりそういう話はしないからな。この氷河も初めて知ったところだ」
やや戸惑った様子で氷河が答えると、ヤコフは小さく頷く。
「多分カミュ先生ならそうだろうなと思うけどさ……。オイラの聞いた話だと、カミュ先生はコホーテク村で教える分には構わないけど、他の村に行ってまでやるのは全然乗り気じゃないみたいなんだ。今でイッパイイッパイなんだって」
「だろうな」
カミュの日常を思い浮かべる氷河。
カミュはシベリアに居を置いてはいるが、忙しい。
というのも、聖域からメールやらなにやらで、ひっきりなしに仕事が送られてくるからなのだ。
夜遅くまでカミュの部屋から灯りが漏れていたので、何事かと思ってのぞくと、パソコンの前に座ったカミュが物凄い速さでキーボードを叩いている事がしょっちゅうあった。
「これ以上カミュの仕事を増やすのは、俺も賛成しないな」
渋い顔で氷河が呟くと、ヤコフもだよねーと同意を示す。
「カミュ先生、聖闘士の仕事も沢山あるっぽいのにさぁ、よくあの教室の仕事を受けてくれたなーって思うもん」
ヤコフは寺子屋ができる前から氷河たちと交流があったので、カミュがどんな暮らしをしているか、生活リズムはどうなのか、それなりに知っている。
「だから、カミュ先生が勉強教えてくれるってなった時、嬉しかったけど、心配になっちゃったんだ。先生、本当に忙しそうだからさ……」
一般人の子供に心配される黄金聖闘士はどうなんだと氷河は思わないでもなかったが、一晩中灯りの点いている部屋を見ていると、その心配が少々嬉しかったりもする。
「カミュを心配してくれてありがとう、ヤコフ。しかし、カミュはこの氷河の師だ。皆がカミュの指導を受けたいと思うのは、この氷河にとっても嬉しい事だ」
「でも、氷河。カミュ先生にあんまり無理しないように言ってね。みんな、カミュ先生の教室が大好きなんだよ」
心配そうに顔を顰めるヤコフに、氷河はポンと頭を叩いてやると、安心させるかのように笑いかけた。
「勿論だ、ヤコフ。皆カミュの指導が大好きなのだからな」
「うん!」
学ぶことは楽しい。
新しいことを身に付けるのは楽しい。
成長することは楽しい。
カミュの指導は、教えを受ける側にそう思わせる何かがあるのだ。
作品名:寺子屋の手記 作家名:あまみ