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シニカル・ノクターン

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その日魚座のアフロディーテは、グラード財団総帥の護衛としてとあるパーティーに出席していた。
実はアフロディーテは休暇を取っており、今頃は南欧のホテルでのんびり過ごしているはずだった。
ここのところずっと仕事仕事だったのだ。アテナの護衛と通訳、書類の翻訳、薔薇園の手入れ……。
(こんなに書類翻訳が多いのは、グラード財団のHPに掲載するコンテンツの文章の翻訳を担当したり、グラード財団の子会社に渡す書類を作成しているからである)
ここら辺で一息入れないと、確実に潰れる。
黄金聖闘士としてはあまり強くない部類に入るアフロディーテだが、現代社会において仕事を行う際は、十二人の中でも1、2を争うほど有能であった。
絵画から抜け出したような美しい容姿、数カ国語を操る語学力とウィット、冷静に物事を判断できる回転のいい頭。
デキる男を具現化すると、きっとアフロディーテになるに違いない。
そんな彼なのでグラード財団絡みの仕事が多く、随分前に、
「私は黄金聖闘士なのか、グラード財団の社員なのか、自分で自分がわからなくなるよ」
と苦笑していた。
魚座の聖衣はアフロディーテを見捨てていないので、一応取り敢えずはまだ、黄金聖闘士かと思われるが。
そんなアフロディーテが休みを奪われ、何故パーティーに出席しているのか。

三日前の話。
明日から休みなので、双魚宮でいそいそと出掛ける準備をしていると、部屋の電話が鳴った。
十二宮の各宮には電話が設置されており、用事がある場合はそれで呼び出される。
いちいち教皇の間から小宇宙で訴えていたら、鬱陶しくて仕方ない。
「Hello?」
クセで、電話に出る際は英語が出てしまう。電話の相手もそれは心得ているらしく、揚げ足を取ったり、ちゃちを入れたりはしない。
『何をしていた、アフロディーテ』
耳に心地よい、低く艶のある声。アフロディーテはフッと笑うと、
「明日からフランスに出掛けるので、それの支度をしていましたよ、サガ」
『そうか』
そう一言呟いたきり、サガは黙り込む。
サガがこんな風に口ごもるなんて珍しいので、アフロディーテは内心訝しく思いながら、
「どうかしました、サガ」
『……なぁ、アフロディーテ』
1分ほど沈黙した後、サガがようやく返事をする。
その口調が妙に重いのが気にかかったが、サガは若干メンヘルの気があるのであまり深く気にしない事にした。
「何ですか?」
『休みを、別の日にしてくれ』
「休みを別の日ですか」
つい復唱したアフロディーテだが何を言われたか気付くと、え!?と顔色を変えた。
「サガ、今なんとおっしゃいました?」
『休みを別の日にして欲しいと言ったのだ』
言葉の端々から、苦々しさが滲み出ている。
その様子から何かあったなと察するアフロディーテだが、いきなりこんな申し出をされて、はいそうですかと納得できるほど、双魚宮の主は大人ではない。
「無理ですね。既に宿も押さえてありますし、私はこの休みを取るため、これまで仕事に打ち込んできたのですから」
あくまでも、さらっとした口調である。
決して語調を荒げたりはしないが、相手に迎合する事は絶対にしない。
それが、アフロディーテだ。
電話の向こうでサガが歯ぎしりするのがわかったが、アフロディーテは無視して電話を切ろうとした。
その時。
どんっと雷の落ちるような音がして、双魚宮のテラスに見事な大穴が空いた。
……サガがわざわざ教皇の間から攻撃的小宇宙を飛ばしてくれたらしい。
窓からそれをのぞいたアフロディーテの端正な顔から、血の気が引いた。
ウン万ユーロかけて整えたウッドデッキに大穴が空いたよりも、サガが自分に全く躊躇せずに攻撃を仕掛けてきた方がショックだった。
ゴクリと、白い喉が鳴る。
『私の話を聞いてくれないか、アフロディーテ』
アフロディーテは内心、私に一撃を入れたら聖闘士の私闘禁止の掟に引っかかり、後で教皇からお仕置されるのではないかと思ったが、それを話したら今度こそ双魚宮が吹っ飛ぶ。
サガはアフロディーテが電話を切らなかったので、話を続ける。
『三日後のヨーロッパ財界のパーティーだが』
「ああ、貴方がアテナと一緒に出席する予定のパーティーですね」
アテナの護衛任務が最も多いのはアフロディーテだが、彼の都合が付かない場合は語学力と容姿が揃ったサガやカミュが勤める。
デスマスクやシュラではその手の筋の人間にしか見えないし、シャカは冥界で共に行動した時の事がよほどトラウマになっているらしく、話を持っていっただけで殺されかける。
三日後のパーティーはアフロディーテが休みに入るため、サガが沙織の護衛につく事になっているのだが。
サガは『非常に申し訳ない』、『私も断腸の思いなのだ』と散々前置きした後、魚座の聖闘士に告げる。
『カノンがパーティーに出席するらしい』
「ああ、そうですか」
サガの言いたい事、アフロディーテに求めている事がわかった。イヤでも察することができた。
けれども、その結論を自分から口にするのはしたくはなかった。
言ったら、サガに負けたような気がしてしまう。
『なぁ、アフロディーテ。聡いお前ならわかるだろう』
「何ですか」
それでもアフロディーテは頑である。
意地でも、自分から言ってやるものか。
アフロディーテはその綺麗な顔からはあまり想像できないが、かなり頑固である。
サガも長年の付き合いからそれをわかっているので、小さくため息をつく。
アフロディーテに言わせたかったが、この様子では無理だろう。
『……降参だ。非常に申し訳ないが、私の代わりにアテナの護衛を頼む』
ピシッと、空気に亀裂が入る音がした。
アフロディーテは片頬が引き攣るのを実感したが、それでも表面上は、特に声音だけは穏やかに、
「サガ、無茶をおっしゃらないで下さい。私は明日からフランスでバカンスです。のんびりデボラ・クロンビーを読破する予定なのです」
ホテルをキャンセルするのは、もう不可能でしょう。
そう締めくくるとサガは即座に、
『大丈夫だ。ホテルは私が代わりに行く』
そういう問題ではないのだが……。
口からその言葉が出そうになるのを、何とか押さえる。
「サガ、何故貴方はこの任務を嫌がるのです。アテナの護衛はそんなにイヤなのですか?」
アテナに対し未だに罪悪感を持つサガの心の傷を、さり気なく抉る。
サガの小宇宙が静電気のようにパチパチと弾けるのが電話回線越しでもわかったが、後輩の休みを奪ってなおかつ仕事を押し付ける気満々なのだ。
この程度、やっても許されるだろう。
サガはアフロディーテの言葉でやや気分を害したようであるが、流石に仕事で休みを潰す最悪感があったのか、滑らかではないが話してくれた。
『先程言ったが、カノンが今回ジュリアン・ソロの護衛でパーティーに出席する』
「ええ」
『カノンと私がああいった場で顔を合わせると、カノンが色々と……ある事ない事を、他の出席者に喋るのだ』
「……ほぉ」
『“この兄貴は自分でやった悪事を俺に押し付けた”、“この兄貴は俺と顔が同じ事を幸いと、都合の悪い事は全部俺のせいにした”などと、アテナや要人の前で話すのだぞ!穴があったら入りたいとは、まさしくその際の私の心境だ!!』
貴方は、子供ですか。
作品名:シニカル・ノクターン 作家名:あまみ