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Poisson d'or

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アフロディーテは白羊宮で食事をする機会がそれなりに多い。
別に、ミロのようにせびりに行っているわけではない。
貴鬼に英会話を教えているので、ついでに食べて行けと、ムウやシオンから勧められるのである。
白羊宮から双魚宮までかなり遠いため、帰宅後の食事の支度が面倒なアフロディーテは、その申し出に素直に甘えている。

その日の夕食は、タラのバターソテーであった。
ムウはアフロディーテが来る日は、いつもよりちょっと『ハイカラ』なメニューにする。
「ムウ、私は箸も使えるよ」
毎回毎回ナイフとフォークを使うメニューなので、いつもの白羊宮の食事内容を知っているアフロディーテは家主にそう言うのだが、ムウはいつもの柔らかい笑みを浮かべたまま、
「貴方に揚げ餃子や牛丼を出したら、世の女性の方からカミソリを送りつけられるかも知れませんからねぇ」
「なんだい、それは」
苦笑する絶世の美青年。
「私だって、たまには毛色の違うものを食べたいと思う時はあるさ」
「ああ、そうですか。では、今度はお箸を使ったメニューにしましょう」
配膳をこなしながら、そうはぐらかすムウ。
この言い方では、次回はイタリアンを箸で食べさせられるかもしれない。
テーブルの上に並べられた、できたての料理は三人前。本日シオンはスターヒルで夜勤なので不在だ。
「どうぞ召し上がってください」
「頂きます」
フォークを取るアフロディーテと貴鬼。
アフロディーテは任務上テーブルマナーも完璧なので、シオンは常々貴鬼に、魚座の聖闘士と食事をする際はその作法をよく見て真似をしろと言い聞かせていた。わざわざマナー教室に通わずとも、完璧なマナーを誇る見本とフランクに食事をする機会があるのだ。
これを利用しない手はない。
貴鬼はアフロディーテの手の動きをじっと見ている。
ナイフやフォークの捌き方、グラスの持ち方。
指先まで凝視するものだから、流石のアフロディーテも苦笑いする。
「貴鬼、そんなに見られると、私も食べ辛いよ」
「だって、アフロディーテ」
貴鬼の口調は真剣そのものである。
「シオン様が、アフロディーテの御飯の食べ方をよく見ておけって」
「?」
訝しそうに柳眉を顰める魚座の聖闘士。一体、どういう事だ。私は何か、教皇の不興を買うような事をしてしまっただろうか。
手を止めて少し考えていると、ムウが種明かしをしてくれた。
「アフロディーテはテーブルマナーが出来ていますので、シオン様が貴鬼に『お手本にしろ』とおっしゃったのですよ」
「ああ、そういうことか」
それならば、納得である。
本当はムウやシオンが教えるべきなのだろうが。
「私、テーブルマナーに詳しくないのですよ。ずっとジャミールにこもっていたものですから」
と、サガのトラウマをほじくり返す事を言い出しかねないので、アフロディーテは黙っていた。
「……それにしても」
綺麗なフォークさばきでタラを切り分けながら、アフロディーテは言う。
「私も結構君のところでご馳走になっているよね」
「ええ」
すぐに返る、ムウの肯定。
「アフロディーテには私もお世話になっていますから、別に構わないのですけどね」
「そう言ってもらうと、私も気が楽になるよ」
アフロディーテは笑う。
あまりにも綺麗な笑みだったので、もし金の匂いに敏感なデスマスクがそこにいたなら隠し撮りし、然るべきルートで売りさばくであろう。
「ああ」
デザートのゼリーを各人に配膳しながら、ムウは続ける。
「アフロディーテをできれば食事に呼ぶよう言っているのは、実はシオン様なのですよ」
「!」
大きく見開かれるアフロディーテの瞳。
貴鬼もその話は初めて聞いたようで、目をパチパチ瞬きさせている。
「それは初耳だな。教皇は一体何をお考えなのか」
息を吐きつつ、アフロディーテはそれだけ呟く。
何故シオン教皇は、自分に対しこんなに気を遣うのか。
するとムウは少々寂しそうな笑顔を作り、この綺麗な魚座の聖闘士を見やる。
「シオン様がおっしゃっていたのですけれど……」
「?」
シオンが話すには、アフロディーテの先代の魚座は魔宮薔薇の香気に耐えられるよう、自らの血液、体液を猛毒化させていた。
そのため己の血や体液(涙や汗でさえ、猛毒だ)で近付いた人間に害が出ることを恐れ、常に孤独に孤高に生きていた。
シオンの代に魚座の猛毒修業は廃止となった(せざるを得なかった)ため、アフロディーテは先代のように猛毒の血液を持たずに済んだが、(ただし、魔宮薔薇を扱うための耐毒体質は必須である)シオンはいつも孤独であった先代魚座を見て来ただけに、アフロディーテにはそんな思いをさせたくない…という感情が働くらしい。
「……そのようなシオン様のご意向もありまして、アフロディーテをよく食事に呼んでいるのですよ」
「ほぉ……」
皮肉っぽく唇を歪めるアフロディーテ。まったく、私は先代の身代わりか?
シオンの好意は嬉しく思うが、そんな気持ちが沸き上がらないでもない。
するとムウは、そんなアフロディーテの腹の内を読み取ったのか、穏やかに笑う。
「まぁ、シオン様が貴方に思い入れがあることは確かですよ。貴鬼の英会話の練習相手に貴方を選んだのは、他の誰でもありません。シオン様ですから」
「単に、私が一番こなれた英語を話すからだろう?」
アフロディーテはグラード財団の仕事を頻繁にこなす関係で、数カ国語に堪能だ。
なので、それで呼ばれたと思っていたが。
「サガもシャカも、英会話は達者でしたか」
「ああ、そういえばそうだったね」
アフロディーテの端正な容貌が、ほんの僅か歪む。ムウはその反応も大して気にせず、
「シオン様は貴方を身代わりにしているのではなく、貴方が人に囲まれているのを見るのが好きなのですよ」
アルバフィカは孤独だったから。アルバフィカは人を寄せ付けない男だったから。
せめて今の魚座には、そんな人生は歩ませたくない。人と交わる人生を送らせたい。
シオンは強くそれを願っていた。
「……結局、先代で上手くいかなかったことを、私では成功させたいってことだろう?」
食後のダージリンの芳香を楽しみながら、アフロディーテは皮肉っぽく呟く。
これにはさすがのムウも反論できなくなってしまい,苦笑するしかなくなる。
「まぁ、そうなのかも知れませんが」
でも、と長い睫毛を伏せる。
「貴方が白羊宮で食事をしている時、シオン様はとても幸せそうな、けれどもどこか切なそうな表情をするのですよ」
「教皇が?」
それは気付かなかった。
「貴方が人に囲まれているのは、シオン様に幸せな感情をもたらすのでしょうが、それと同時にずっと独りだった先代の魚座の姿を思い出して、切なくなるのかもしれませんねぇ」
ティーカップの表面に映る自分の顔を見つめながら、ムウはそう呟く。
ムウの顔が揺らめいているのは、水面に映っているから……なのだろうか。
アフロディーテは長い蒼金の髪を呆れたように揺らすと、肩で息を吐いた。
「意外だったな。教皇にもそんなセンチメンタルな一面があったとはね」
「フフフ。シオン様は皆さんが考えているよりも、神経細かいのですよ。A型ですし」
「それはO型の私に対する挑戦かい?」
「いいえ?でも、アフロディーテは見た目よりもずっとタフですよね」
作品名:Poisson d'or 作家名:あまみ