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One Shot 2 Shot

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また負けた。
いや、戦いの話ではない。
自分はこれでも黄金聖闘士だ。そう簡単に負けるわけがない。
十二宮の戦いで。氷河に負けただと?
お前、スカーレットニードルをアンタレスまで叩き込んでやるから、覚悟しておけ。
それはともかく、また負けた。

「お前も本当に懲りない奴だな」
天蠍宮のリビングで、シュラが呆れたような顔で煙草を噴かしている。ここは別に禁煙ではない。
ミロ自身は別に煙草に嫌悪感はないし、実は昔それなりに吸っていたので喫煙には寛容なのだ。
……金が無くなったので、すぐに止めたが。
ひどく不機嫌な顔でミロはバドワイザーのプルタブを上げると、
「うるさいな。男なら一発当てたいだろう」
「それでカジノに行って、オケラになって帰ってくる奴がいるか?」
その三白眼には、呆れの色が濃く浮かんでいる。
シュラもかなりギャンブルはやる。
黄金聖闘士12人の中で最もギャンブルを嗜んでいるのは、何を隠そうこのシュラなのだ。
一番モナコのカジノが似合いそうなアフロディーテは、意外なことにカジノ遊びは一切やらない。
あの絶世の美青年曰く、「賭け事は色々と面倒くさいのでね」との事。
遊んでいそうなデスマスクは、カルチョの胴元は勤めるが本人は賭けには参加しない。
「大損する奴のツラを拝む方が、賭けの何倍も面白い」
と、本人は近しい人間に語っている。
また、腐れ縁のアフロディーテによると、デスマスクは妙なところで堅実で、見た目に反して無駄金は遣わないらしい。
「服とかは半分は貰い物じゃないかな?アパレル関係の知り合いが多いから、サンプルとかアウトレット品とか譲ってもらえているらしいよ。煙草も、マフィアのボスがプレゼントしてくれるらしいし。本人は人徳だって言っているけど、どうなんだろうね?」
他人はあまり知らない、デスマスクの意外な一面だ。
「……お前な、自分の生活費や後先の事を考えて、ギャンブルで遊べ。ギャンブルは遊び楽しむものであって、のめり込んだりするものではないぞ」
くわえ煙草でシュラがそう説教するが、一回のカジノ行きでロータス・エスプリを買えるほど稼いでくる人間にそう言われても、イヤミにしか聞こえない。
ミロはソファーにボスッと寄りかかると天井を眺めながら、
「やっぱり男なら、一度はドンってでかい事やってみたいじゃぁ、ないか。たった一発で形勢逆転!みたいな体験をしてみたいじゃぁ、ないかよ」
しみじみとそんな事を語られても、シュラも困る。
同意してやるべきなのか、そうじゃないと否定してやるべきなのか。
シュラにとってギャンブルとは、遊びながら金が稼げる一石二鳥の楽しい娯楽だった。
故に、一発当てようとか、でかい事をやってみようとか、あまり考えた事はない。
「とにかく、勝つ瞬間を楽しむこと」
それだけの、たったそれだけのシンプルな考えで、シュラはカジノに足を運ぶのだ。
「なぁ、ミロ」
とんとんと、長く伸びた灰を灰皿に落としながら、シュラが訊ねる。
先程からある事が気になって仕方なかったのだ。
「お前さっきから、『一発当てたい』とか、『でかい事やりたい』とか言っているが、何故そんなに『一発』や『でかい事』に拘る?」
その瞬間。
ミロの表情が凍り付いた。凍り付いたというか、固まった。
ああ、これはイヤなところを指摘された時の反応だな。
再び煙草を口元に運んだシュラは、冷静にミロの様子を観察する。
ソファに寄りかかった体は微動だにしていないし、顔は天井を見上げたままだ。
……まるでシュラと顔を合わせるのを嫌がっているかのように。
『何か妙な事を聞いたか?俺は』
灰皿に煙草を押し付け、自問自答する。
いや、自分は何もおかしな事は訊いていないはずだ。
ミロが何度もその言葉を口にするから、どうしても気になってしまっただけで。
「おい、ミロ。どうした。俺は何か都合の悪い事を訊いたか?」
こういう時、こんな質問をするのは結構な嫌がらせかもしれない。だが、シュラは知りたかった。
ミロが一発大きいのを当てるのに拘っている理由と、それを他人に訊かれて傷付いてしまう事情を。
するとミロはちらっとシュラを見やった後、すぐにまた天井を向いて、まるで独り言のようにこう呟いた。
「いいよなー、お前らは。一撃必殺の派手な技を持っててさ」
「はぁ?」
何を言われたのか、シュラは即座には理解できなかった。
技とギャンブルと、一体どんな関係があるというのだ。
三白眼の白目を更に広げるシュラを放っておいて、ミロは独白を続ける。
「俺の技は、確かに、痛い。一撃食らっただけでも、発狂死するような激痛が走る」
ミロのスカーレットニードルは、穴ほどの傷口からは信じられないほどの、とてつもない激痛を相手に与える。
けれども。
「……でも、一撃で相手がくたばるとか、一発で勝負が決まるとか、そういう技じゃないんだよなぁー」
その物言いは、どこか寂しげではある。
スカーレットニードルは、15発の間に相手に降伏か死かを選択させる慈悲深い技だ。
逆説的にいえば、その一撃には相手を死に至らしめるだけの威力がないともいえる。
敵に与える激痛故に、初撃で戦闘不能に陥らせる事は(相手によっては)可能であるが、戦いが膠着状態に陥った際、一発逆転は難しい。
シオンの話によると、先代の蠍座は一撃で逆転できるような隠し球を持っていたようなのだが、健康体のミロには習得する事は不可能な技であった。
なのでミロは、全てをひっくり返すような、そんなカタルシスをどこかで感じたいと常々思っていたりする。
「俺の技、15発入れないと完成しないんだぞ!お前らみたいに、一撃でどーんとか、そんなんじゃないんだぞ!」
「あー、そういえば、そうですねー」
答えるシュラの目は、どこか遠くを眺めていた。
いや、今更こんな話をされても困る。とっても困る。ものすごく困る。
そんな事、修行中に気付けよ。
ミロはごろんとソファに横になると、
「だったらさ、一発逆転ってのを体験してみたいじゃないかよ。戦いじゃ、そんなの難しいから」
「ギャンブルでそれを成し遂げようとしているのか、お前は」
煙草に火をつけつつ訊ねるシュラ。
紫煙と同時に噴き出した息の中には、妙な虚しさが含まれているような気がする。
ミロは大きく頷く。長い巻き毛がソファから床に流れていた。
天蠍宮の居住スペースは独身男性の部屋らしく正直あまり綺麗ではないので、少々潔癖なシュラは細い眉を顰めた。
「……で、成し遂げる前に毎回自爆しているわけか。目も当てられんな」
「随分と冷たい言い方だな、シュラよ」
「他の連中に言っても、多分俺と同じ反応をすると思うぞ」
口の中に広がる苦み。きっとそれは、煙草のせいではない。
「どうしても一発当てたいというのなら、修業して新しい技でも身につけるんだな。
アイオロスやアイオリア辺りなら、喜んで修業相手になってくれるだろう」
灰皿に煙草を押し付け、シュラはすっと立ち上がる。
ここに長居すると、頭痛がひどくなるだけだ。
「シュラよ。こういう場合は、『俺がモナコのカジノでギャンブル必勝法を教えてやる!』とか申し出るのが、セオリーというか,お約束ではないか?」
だがシュラは、刃物を思わせる視線でミロを一瞥しただけだった。
作品名:One Shot 2 Shot 作家名:あまみ