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体育会系の恋

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白羊宮は十二宮第一の宮である。そして聖衣の修復工房である故、多くの聖闘士が白羊宮を出入りすることになる。
他の聖闘士と顔を合わせる機会が多くなるので、ここは自ずとたまり場になってしまうのだ。

「ムウ、こんな話を知っているかね?」
その日白羊宮にやってきた処女宮の守護者は、お茶菓子に出された小豆入り水羊羹を口に運びつつそう切り出した。
ムウは居間の横にある工房で乙女座の聖衣の破損状況を調べていたが、シャカの唐突な話の切り出し方に丸い眉を顰める。
「どんな話ですか?申し訳ありませんが、大した話でなければ後に回して頂けますか?今あなたの聖衣の具合を見ているのですから」
「それは失礼した」
一言詫びて水羊羹を咀嚼する。
シャカには好き嫌いはない。野菜も肉も魚も何でも食べる。甘いものも大好きだ。
なので、この白羊宮の主とは結構馬が合う。
『この水羊羹はなかなかだな』
パッケージを見ると、どうやら日本の老舗和菓子店のものらしい。
所用で日本を訪れた際、買ってみるか。
口の中でつぶやいたシャカは、小豆とともに水羊羹への思いも飲み込む。
作業が一段落ついたムウは工房の水道で手を洗うと、居間にやって来る。
「どうだね?」
「随分と細かい傷がありますね。一体何をなさったのですか」
「少々躾のできていない餓鬼共が、私の居城へやってくるのでね」
どうやらインドにいる時に何かあったらしい。
聞くと確実に頭が痛くなりそうなので、ムウはその話を途切れさせるべく先程の話の続きを促した。
「シャカ、先程何か話したがっていましたが、どんなお話ですか?」
「ふむ」
シャカは口の中にあった水羊羹を飲み込むと、閉じられた視線をムウに向け、いつもの『少々高慢ちき』な口調で話し始めた。
「アイオリアが懸想をしている」
「……懸想、ですか」
耳慣れない単語に、ムウは目をぱちくりさせた。
シャカは何故か自信たっぷりな様子で、
「懸想だ」
「アイオリアが、ですか……」
思わず言葉に詰まるムウ。
どういう反応をしていいのかわからない。
笑うべきなのか、驚くべきなのか、喜ぶべきなのか。
ムウにはわからない。
リアクションを取れないでいる白羊宮の主に最も神に近い男は首を傾げつつ、
「どうしたのだね?」
「いえ、あまり聞かない言葉を聞いてしまったので、どうしたらいいかわからなかったのです」
「それは意外だったな。君のことだ。噴き出すだろうと思っていたのだが」
「貴方の中で私がどういう認識をされているか、少々気になるところですね」
ムウも自分の分の水羊羹を食べ始める。
シオンが日本に出向いた際に買ってきた、老舗和菓子店のもののようだ。
シオン自身は甘いものが嫌いなので試食はしなかったが、周りの評判で選んだと話していた。
『……流石シオン様ですねぇ』
美味いものを探してくる嗅覚は確かである。
こうして二人の黄金聖闘士は向き合ったまま水羊羹を食べていたが、空になった容器をテーブルの上に置いたシャカは、先程の話の続きを始めた。
「前々から魔鈴のことが気になっていたようだが、聖戦も終わり生活が一段落したところで……プロポーズというのかね?交際を申し込んだようなのだ」
「シャカ、交際を申し込んだだけではプロポーズと言いませんよ」
「揚げ足を取らないでくれたまえ。とにかく、魔鈴に交際したいと告げたようなのだが」
淡々とシャカの口から語られる事実。
他の者が話せばもう少し違った趣になるのだろうが、かこちなるものを地でいくシャカが語り手では、どうにも面白みが出ない。
いや、シャカの淡々とした語り口と内容のギャップを楽しめればよいのかも知れないが。
『まぁ、シャカですからねぇ……』
麦茶を一口飲んで喉を潤した後、
「魔鈴はどうしたのでしょうか?お付き合いを決めたのでしょうか?」
するとその問いに、シャカは頭を振る。
「見事に断られたようだ。それをアイオリアは、昨晩私の元へ愚痴を言いにきたのだよ」
「ああ、それで貴方はその話をご存知なのですね」
シャカはあまり人と交流を持つ方ではないので、何故彼がこんな話を知っているのか、ムウは少々疑問だったのである。
処女宮に愚痴を言いにやってきたアイオリアを想像し、ムウはクスッと笑った。
アイオリアがどんな表情で処女宮にやってきたのか、是非とも見てみたいものだ。
そして他人の色恋話をシャカがどう拝聴するのか。
それも楽しみでならない。
「どうしたのかね、ムウ」
「いえ、『あの』アイオリアがどんな顔でコイバナをするのか、少々興味があっただけですよ」
「ほぉ。ならば次にアイオリア側が処女宮を訪れた際、白羊宮に向かうよう伝えておこう」
「それは結構です」
水羊羹のカップを置くムウ。
お茶休みはこれで終了だ。
「シャカ、15分ほどお待ちくださいね。リペアをすませて参ります」
「ああ、頼む」
工房に出るムウの背中に、シャカはそう声をかけた。

「……というお話なのですよ」
「ふむ」
その日の白羊宮の夕食は、そうめんになすみそ炒めである。
シオンはそうめんをよく咀嚼しながら、愛弟子の話を聞いている。
今夜は貴鬼は、星矢のいる東京に遊びにいっている。やはり、年が近いもの同士で遊んだ方が楽しいらしい。
「アイオリアが魔鈴に懸想をしておるのは、私も聞いておる。年末であったか。『クリスマスを中止にしろ』と申してきてな」
「ああ、あの妙なポスターですか」
「その理由が魔鈴に誘いを断られた故というのが、何ともな」
「え!そうなのですか?」
それは初耳である。
アイオリアがクリスマスを一人で過ごすのが寂しいからだと思っていた。だがシオンは意外そうに目を丸くすると、
「おや、話しておらんかったか」
「ええ、初めて聞きました」
目をぱちくりさせるムウに、シオンは穏やかな声で、
「私もお前に話しておらぬことがあるのだが」
「シオン様、もうボケが始まりましたか?」
「何を申す」
言い合って二人で笑う。
親子のようなこの師弟は、このような何気ない時間がとても好きだった。
幼くして師と死に別れたムウには、師と過ごす日常の生活が何よりも幸せだった。

それから数日は何事もなく過ぎていった。
いくら聖域だからといって、年がら年中何か起きているわけではない。
皆それぞれに平和な生活を送っていたのだが、その穏やかな時間は獅子宮の守護者の手で破られそうだった。
昼食時間が近くなり、ムウが台所で食事の支度をしていると、突然白羊宮の玄関ドアが開いた。
「ムウ、ムウはいるか!?」
居間で算数ドリルをしていた貴鬼は、予告無しの来訪者にソファから飛び上がった。
「うひゃあぁぁ!!」
「貴鬼、お前の師はいるか?」
「あ、アイオリア……」
玄関からやってきたのは、雑兵ルックのアイオリア。
ひどく切羽詰まった表情で、貴鬼を見つめている。さながら、獲物を睨みつける空腹のライオンだ。
「あ、アイオリア」
あまりのことに口が利けなくなっている貴鬼。
アイオリアはそんな貴鬼には構わず、ムウの名を呼んだ。
「ムウ、ムウはいるか!」
「いますよ。騒がしいですねぇ」
台所で焼きそばを作っていたムウは、少々鬱陶しそうに応えた。
「小宇宙で察して下さい。貴方、それでも黄金聖闘士ですか」
作品名:体育会系の恋 作家名:あまみ