二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

体育会系の恋

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

甚だ手厳しいことを言って、ガステーブルの火を止める。
「今火を使っているのです。そうそう離れられるわけないでしょう」
「お前、主婦のようなことを言うな」
眉を顰めるアイオリアだったが、ムウはエプロンを外しつつ、
「主婦も何も。火を使っている最中にその場を離れないのは、人としての基本です」
いつもは優雅で穏やかな印象を与える目が、一瞬鋭く光る。
アイオリアはその眼光にややたじろいだものも、すぐに、
「だったら返事くらいしてもよかろう」
「手が離せなかったのですよ。味見していましたし」
あっさりこう返す辺り、ムウは手強い。
貴鬼に皿を出すように指示すると、ムウはアイオリアにソファに腰掛けるように促そうとした……が。
「ああ、その格好で座られるとソファが汚れてしまいます。バスタオルを敷いてから座って下さい」
と、テレキネシスでバスタオルを引き寄せ、アイオリアに渡した。
アイオリアの精悍な顔が引きつっている。
ムウは大して気にもせず、今お茶を用意しますね、と台所に戻った。

「血相変えて、何の御用なのですか」
麦茶のグラスに口を付けつつ、ムウが尋ねる。
ムウからその問いを受けている最中も……アイオリアの視線はある方向へ向けられていた。
居間の奥の台所で、貴鬼が焼きそばを食べている。
お昼時なのだからそれは仕方ない。
だが、腹が減っている時に他人が食事をしている様を見るのは、あまりいい気分ではない。
「なぁ、ムウ」
「何でしょう?」
「腹が空かないか?」
「ええ、空いていますよ」
口調が柔らかいが、目は全く笑っていない。
今目の前に座っている男のせいで、ランチのお預けを食らっているのである。
さすがに貴鬼を巻き添えにするのは可哀想なので先に食事をとらせたが、アイオリアの目はそちらを凝視している。
「……さもしいですねぇ」
皮肉っぽくつぶやいてみせるが、アイオリアには通じなかったらしい。
「さもしいとは、何がだ?」
「わからないなら結構ですよ」
呆れたような表情で、ムウは再度アイオリアに来訪の目的を尋ねた。
「もう一度伺いますが、アイオリア。一体何の御用ですか」
口調と顔つきは柔らかいが、剣呑な小宇宙が漂っている。
アイオリアはうむと頷くと、
「料理を教えてくれ」
と一言。
ムウは丸い眉を寄せると、アイオリアの言葉を復唱した。
「料理を教えてくれ、ですか」
「ああ」
そう答えるアイオリアの表情は、真剣そのものである。
「まさかアイオリア。魔鈴に料理の上手な人が好きとでも言われたのですか?」
「よくわかったな」
あっさり。
ムウのこめかみがじくじくと痛み出す。
これでいいのか?黄金聖闘士がこれで本当にいいのか?
いくらなんでも、少しひどすぎないか?
しかし、そんなムウの腹の内など知らないアイオリアは、
「だからムウ、俺に料理を教えてくれ」
ムウは0.1秒で答えを出した。
「お断りします」
あまりにも淡々とした口調だったので、アイオリアはその内容を理解するのに数秒かかった。
「……ムウよ、今何と」
「お断りしますと言ったのです。料理くらい、自分で勉強して下さい。料理本も沢山出ていますし。私もそうやって勉強しました」
麦茶のグラスを掴んで立ち上がるムウ。台所の暖簾をくぐりながら、とどめを刺すかのようにこう告げる。
「もしかしたら、魔鈴に体よく断られているのかもしれませんよ」
「な……」
ムウの言葉に、顔から血の気が無くなるアイオリア。
そんな同僚を放っておいて、ムウはすっかり冷めてしまった焼きそばに箸を付ける。
「あのムウ様……」
「何ですか、貴鬼」
「居間でアイオリアがエクトプラムズ吐いてますけど、どうしましょう」
「ああ、放っておきなさい。シオン様が帰られれば、イヤでも元に戻るでしょう」
ムウは今食べている塩焼きそばのように、ひどくあっさりと答えた。
十二宮には料理の上手い聖闘士などいくらでもいる。
カミュはフランス料理もロシア料理も得意としているし、アルデバランも牛肉料理を扱わせたらムウ以上だ。
シュラもスペイン料理、デスマスクもイタリアンをよく自炊している。
ここだけの話、料理が得意でないのはアイオリア、サガ、ミロくらいではなかろうか。
ああ見えてシャカもアフロディーテも、日々の食事は自分で作るのである。
恐らくアイオリアが白羊宮にやってきたのは、白羊宮が聖闘士のたまり場と化しているためではなかろうか。
「私よりも、アルデバランやカミュの方が優しく教えてくれそうなのですけどねぇ」
妙に頼られたり甘えられたりするのは、この柔和な外見のせいなのだろうか。
「まぁ、見た目はどうしようもありませんよねぇ」
そうぼやいて、ムウは箸を置いた。
自画自賛になってしまうが、自分の作った食事は今日も美味しかった。
作品名:体育会系の恋 作家名:あまみ