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『掌に絆つないで』第二章

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Act.15 [蔵馬] 2019.6.19更新


「なんかさ……ときどき……遠いんだよ、蔵馬が。桑原みたいには……いかねえな…」
壁越しに聞いた幽助の言葉に、蔵馬は思いも寄らぬ衝撃を受けた。
そして、誰にも気づかれぬよう踵を返し、静かにその場を立ち去った。

幽助が自分に求めるもの。それは失くした親友の影だったのだと思いあたり、存在自体を否定されたようで、暗い闇の淵を覗かされた気分になる。そしてその先に落ちる、かつての友の影。
桑原くんとオレは、確かに対照的だろうな。
直情で接してくる桑原の姿が、今も脳裏に焼きついて離れない。強烈な印象を残した、かけがえのない友の言葉、声。
知ってる。オレは彼のこと、これでもよくわかっていたつもりだ。
傍にいると、知らぬうちに安らぐ存在感。友情を照れることなく真正面から突きつける彼に、戸惑う間もなく惹かれていたのは、幽助だけではなかった。
知ってる。わかってるんだ。だからこそ、オレは彼の代わりにはなってやれない……。
桑原くん、君ならどうやっただろう。君なら彼に、どんな安らぎを与えられたんだろう。
オレには無理そうだ。オレは君のように、幽助を安心させてはやれない。

雷禅の塔から離れ、蔵馬は森の中で足を止めた。
黒鵺に冥界の封印を破ろうと誘われ、順調に計画が進む中で、蔵馬の迷いは晴れることはなかった。
言い知れぬ不安が彼を襲っていた。根拠もなく、安心できる何かが欲しかった。
真夜中に目覚めて、隣で眠る黒鵺の瞼を眺めながら、満たされはしない自分に気づかされた。
黒鵺は再会直後の態度からも、蔵馬以外の誰かを受け入れる姿勢を見せない。誰とも協調せず、自分だけに固執する傾向にある黒鵺と行動を共にすることは、幽助たちとの決別を意味しているのではないだろうか。
三竦みに巻き込まれ黄泉の元を訪れたときにさえ、決別など意識しなかったというのに、今は違う。
オレは選択を迫られているのかもしれない。
この先、南野秀一として生きるのか、妖狐蔵馬として生きるのか、を。
『どうしようもなくなるまで、ここで生きていこうぜ』
そう言って笑った幽助が、自分を人間界につなぎとめてくれる唯一の存在になっていた。
迷う自分の手を強く引いてくれた幽助と、もう二度と会えなくなる。そんな錯覚に怯えて、知らぬ間に足を向けていた雷禅の塔。
もう一度、手を引いて欲しかったのかもしれない。

蔵馬は、遠い。

幽助の発した拒絶の言葉が、蔵馬に諦念の風を運ぶ。
長く一緒にい過ぎたな。
空を仰いで見ても、薄気味悪く微笑む月さえなく、闇が広がるばかり。
もう止めよう、依存するのは。終わりにしよう。オレは南野秀一である前に、妖狐蔵馬だから。
一陣の風が蔵馬の長い髪を持ち上げたとき、それは銀色の光を発した。
戻ろう、帰るべき場所に。
大地に視線を落とし、もう一度前に向き直った蔵馬の瞳は、金色に輝く妖狐のものに変わっていた。
彼は二度と振り返ることなく、森の奥深くに姿を消し去った。



第三章へつづく
(第三章 2019年7月末までに更新予定)