彼方から 第二部 第七話
たとえ、生きていたとしても、通信に返事がないということは、意識がない状態――かもしれない。
ただ生きているだけでは……恐ろしい想像をしてしまいそうで、イザークは必死に呼び掛け続けた。
―― 頼む! 返事をしてくれ!! ――
―― イザークッ!? ――
―― ッ! ノリコ!? ――
―― イザークなの!? キャーキャー 良かった! あたしずっと呼んでたの 無事? 無事? 返事がないから あたしドキドキしてたの ――
「ば……かやろ……それは、こっちのセリフだ……」
一気に体から力が抜けて、安堵の溜め息と共に思わず口から零れ出ていた。
「なんだ? 見つかったのか?」
「ああ……」
イザークの様子に、確かめるようにアゴルが訊ねている。
返事を返すイザークに、
「ケガは?」
「今どこに?」
「化物は?」
緊張から解かれた面々が、彼女の様子を知りたくて一気に質問を投げかけてくる。
「…………」
一旦、その質問に無言で返答した後、
「今、この集落に向かっていると……」
イザークは、ノリコから伝わってくる内容を端的に皆にも伝え始めた。
「え? この霧の中をか?」
アゴルの疑問に、
「案内人がいると言っている」
そう返すイザーク。
「案内人って……?」
今度はガーヤがそう訊ねてきた。
「朝湯気の木の精霊」
「せ……精霊っ!?」
突拍子もない言葉に、ガーヤは驚き、訊ね返している。
「なんだか、よくわからんが……」
イザークはそう言いながら立ち上がると、
「集落の中央辺りに、祭壇があって……その下の土地に、穴を掘って欲しいと言っている」
そう言って、確信に満ちた瞳で、ある方向を見定めている。
「そこだけが唯一、その精霊が力を出せる場所なのだと」
彼が見詰めるその方向に、ノリコはいるのだろう。
精霊に導かれ、再び化物が作り出した結界の中へと、戻ってきたノリコ。
朝湯気の木の一枝を手に、皆を助けるために、イルクの願いを聞き届けるために。
今、自分が出来ることだけを……
ただ、それだけを見詰めて……
第二部 第八話に続く
作品名:彼方から 第二部 第七話 作家名:自分らしく