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Paper Cuts 3

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Paper Cuts 3



アムロのヒートが終わると、シャアはアムロを部屋から出して連れ歩くようになった。
初めこそ、「連邦の白い悪魔」の存在に周囲の動揺が広がり、非難する声も上がっていたが、シャアの番になった事から、アムロがシャアを裏切る事が出来ないと判断した軍の上層部からの通達で、表立ってアムロを非難する者はいなくなった。

「なあ、俺がこんな所を歩いていて良いのか?」
ネオ・ジオンの軍基地内でも上層部の人間しか入れないエリアをシャアに連れられて歩くアムロが、流石にマズイだろうと声を掛ける。
「何の問題がある?君は私の番いだ」
「いや、でも俺は一応連邦の軍人だ。流石にマズイだろう?」
シャアは足を止めると、アムロの方に振り返る。
「まだ連邦の軍人でいるつもりか?」
「退役した訳じゃない…」
反乱分子の調査中にネオ・ジオンに拉致されたのだから、当然退役などしていない。
シャアに肩を掴まれ、ドンっと壁に押し付けられる。
「な、何だよ…」
「君はあんな目に遭わされて、まだ連邦の軍人でいようとするのか?」
「そ、そりゃ…上層部の奴らは腐ってるけど…連邦にはブライトやアストナージ、多くの仲間がいる…連邦全てが腐ってる訳じゃ無い」
「では、君は連邦に帰りたいと?」
「……貴方は俺に…ネオ・ジオンの人間になれと言っているのか?大体、この制服だって…」
自分が身に纏うネオ・ジオンの黒い制服を見つめ、困惑の表情を浮かべる。
「何を言っている。私の番いとなった以上、君は既にネオ・ジオンの人間だ」
「そんな勝手な…!」
「勝手?君は番いである私と離れられると思っているのか?」
「けど!言っただろ?俺には貴方の番いでいる資格が無いって…!」
「私も言ったはずだ。君との番い契約を解消するつもりは無いと」
「シャア!」
背中を壁に押し付けられた状態で、シャアに顎を掴まれ上向かされる。
「アムロ、君は私のものだ。絶対に手離さない」
そのまま強引に口付けられ、激しく口腔内を貪られる。
呼吸をも奪うような長く激しいキスに、アムロの足がガクリと力を失う。
それでも、シャアは止めることなくアムロの腰を抱き寄せて貪り続けた。
漸く解放されて、足に力の入らないアムロはそのままペタリと床に座り込む。
「何…するんだ…よ…」
ゼイハァと荒い息を吐きながら、口元を拭って恨めしそうにシャアを見上げる。
「本当はこのままベッドに連れ込みたいくらいだ」
「なっ!」
「君には、私の番いだという事をもう一度理解させなければならんらしい」
そう言いながら、アムロへと手を差し出し立ち上がらせる。
そして、耳元に唇を寄せて囁く。
「今夜は眠れると思うな?」
その言葉と耳元にかかる吐息に、アムロがビクリと反応すると、それを楽しむように耳朶を軽く食んで離れる。
「行くぞ」
そう言って背を向けるシャアに、アムロは顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
「シャア!」


シャアと一緒に行動する事で、ネオ・ジオンが何をやろうとしているのかが少しづつ分かってきた。
部屋に一人になると、アムロはソファにドカリと座って天井を仰ぎ見る。
「やっぱり連邦に宣戦布告をするつもりか…」
そして、まず手始めに連邦軍基地のあるラサに5thルナを落とす作戦の準備を進めている。
「ラサに5thルナを落とすなんて…これじゃ、かつてのザビ家と一緒じゃないか!」
アムロは制服を脱ぎ捨てると、ランドリーボックスへと放り込む。
「クソっ!」

その夜、宣言通りにアムロの部屋を訪れたシャアは、白い開襟シャツと紺色のスラックスに着替えたアムロを抱き寄せる。
ふっと鼻を霞める石鹸の香りにクスリと笑う。
「シャワーを浴びて待っていてくれたのか?」
「バッ!違う!汗をかいたから…」
「そうか…」
クスクスと笑うシャアに、「違う」と何度言っても聞き入れず、そのまま抱き締められる。
その温もりに、安心感を覚える自分にアムロは胸がチクリと痛む。
『手離せないのは俺の方だ…』
シャアの背中に手を回し、その胸に頬を摺り寄せる。
「もうヒートは終わってるんだけど?」
「ヒートなど関係ない。君の温もりを感じたい」
「……」
アムロはシャアの誘いを受け入れる様に、その首に腕を回して自分から口付ける。
「俺も…貴方を感じたい…」

番いである二人の本能は互いを求め合う。
いや、番いでなくても、アムロはシャアを求めていた。
かつてライバルとして命を懸けて戦った男。
しかし戦いの最中、中立地帯で偶然出会ったシャアは優しく、赤い彗星だと分かっていながらも心惹かれた。
自分と同じニュータイプであるララァを愛したシャア。あの時、心の何処かでララァを羨ましく思っていた。
両親からの愛を受けられなかったアムロは、愛される事に飢えていたのかもしれない。
β性同士の両親から生まれたアムロがΩ性だった事は、両親に大きな衝撃を与えた。
アムロの将来を憂い、心を病んでしまった母。アムロの事を心配はしていたが、自身の研究を優先した父。
二人はアムロを挟んで口論を繰り返し、結局は母カマリアがアムロの育児を放棄した為、父親であるテムがアムロを連れて宇宙へと上がった。
しかし、それでも研究を優先したテムはアムロに構う事は無く、寂しい子供時代を送る事になってしまった。


情事の後、シャアの腕の中で余韻に浸る。
今まで、ベルトーチカやシャイアンで連邦から派遣された女性達と何度も肌を合わせた。
それでも、こんな風に満たされた事は無かった。
シャアとだから得られる満足感と安心感。
『この腕を手離す事など…』
アムロの頬を涙が伝う。
「何を泣く?」
「……さぁ…」
逞しい胸に顔を埋め、顔を隠す。
そんなアムロの頭をシャアは優しく撫で、それ以上問い詰める事なく目を閉じた。


◇◇◇


「大佐、ラサの軍上層部の人間が移動を始めている様です」
「どういう事だ?」
「作戦が連邦に漏れているのでは?」
ナナイの言葉に、シャアは口元に手を当て暫し沈黙する。
「ナナイ、少し調べたい事がある」
「大佐?」
シャアからの指示に、ナナイが少し驚いた顔をする。
「頼めるか?」
「はい…しかし…」
「分かっている。何も聞くな」
シャアの何とも言えない表情に、ナナイはそれ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
「…畏まりました」




軍事訓練があるという事で、この日アムロはシャアと共にレウルーラに乗り込んでいた。

『レウルーラ』真紅の塗装を施した、ネオ・ジオンの旗艦。
その装備は、連邦のペガサス級戦艦に勝るとも劣らないものだった。
そして、モビルスーツデッキへと降りたアムロが見たものは、初めて見る新型のMS達。
その中でも一際目を引いたのは、他のどのモビルスーツよりも重厚で、色鮮やかな真紅の機体。
ジオンの紋章を掲げたその姿に息を飲む。

「あの機体は…」
「サザビーだ」
「サザビー?」
「ああ、サイコフレームの技術を取り入れた私の専用機だ」
「サイコフレーム?」
「サイコミュの基礎機能を持つコンピューター・チップを、金属粒子レベルで鋳込んだモビルスーツ用の構造部材だ」
作品名:Paper Cuts 3 作家名:koyuho