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木吉ケリー
木吉ケリー
novelistID. 47276
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≪1話≫グリム・アベンジャーズ エイジ・オブ・イソップ

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「何だって?」
 思いもよらない言葉をかけられ、一万は思わず問い返していました。返事をしてもらえたのが嬉しかったのか、男は満面の笑みを浮かべました。
「今日はあんたの新しい誕生日だ。もう分かってると思うが、あんたは人間を辞めて素晴らしい力を手に入れたんだ。俺にもお祝いさせてくれよ」
「俺は人間だ。それに赤の他人に祝ってもらう筋合いはない」
「おっと失礼。俺の名は、ルンペルスティルツキン。見ての通りのちんけな妖精さ」
 ルンペルスティルツキンと名乗った男は、王様に対するように恭しく頭を垂れます。こんな汚いおっさんが妖精だとしたら世界中の夢見る女の子が泣いて嫌がるでしょうが、ただの人間でないことだけは一万も本能的に理解していました。
「ルンピ・・・、何だって?」
「ルンペルスティルツキン。舌を噛んだら俺の母ちゃんに文句を言ってくれよ。俺もスラスラ自己紹介できるようになるまで何十年も苦労した」
 スティルツキンはわざとらしく溜息を漏らします。本当に妖精も母親から生まれてくるのかは知りませんが、この男だけは生まれてこない方がよかったんではないかと得体の知れない薄気味悪さを感じました。どんな用件にしろ、真剣に相手をせず話半分に聞き流した方が賢明でしょう。
「俺にはあんたの気持ちがよく分かる。その力を使って、自分をゴミみたいに扱った連中に仕返しがしたいんだろ?」
「お前には関係ない」
「まあまあ、俺があんたとどうこうしようってんじゃない。あんたの力になりそうな連中を紹介したいだけだ。あんたと同じように、この世界から爪弾きにされた哀れな同胞さ」
 それは自分と同じように不思議な力に目覚めた者のことかと、一万は少しだけスティルツキンの話に興味を抱き始めました。
「あんたは今腹ペコだ。山盛りのキリギリスを平らげたが、ありゃ全部あんたの魔力になっただけで腹が膨れたわけじゃない。バイオリンの練習で魔力も無駄遣いしちまったしな。すぐにでも農場を襲って奴らに復讐して、ついでに食い物を奪ってこないと、このままじゃ3日もしないで行き倒れだ。だけど1人じゃ返り討ちに遭うかもしれないし、あんたに今必要なのは一緒に戦ってくれる心強い味方だ。そうだろ?」
 スティルツキンの言うことはもっともでした。幾らバイオリンの魔法があるからといって、100人近い農場の人々を相手に無傷で略奪できるとは思えません。それに命がけで襲っても、自分1人で持ち去れる金品の量には限りがあります。どうせなら人手を集めてごっそり奪ってやりたいところでした。
 一万はようやくバイオリンを下ろすと、スティルツキンから詳しい話を聞くつもりになりました。
「どんな奴らだ?」
「1人は皆から嘘つきだと決めつけられて家畜を全部失った哀れな羊飼いの少年。もう1人はこの寒空にマッチなんか売らされて凍え死ぬ寸前だった女の子だ。もう話はつけてあるから、この道を真っ直ぐ行けば朝には合流できるはずだ」
「もし俺がそいつらと手を組んだとして、あんたに何の得がある?」
「人に親切にするのに損得は関係ないだろ?あんたたちが3人で力を合わせて立ち上がってくれれば、俺も親切にした甲斐があるってもんだ」
 確かに損得を抜きにした思いやりが親切というものですが、スティルツキンほどその言葉が似合わない曲者はいないように思えます。それでも他に人手を集める当てが無いのも事実なので、一万はとりあえずスティルツキンの提案に乗ってみることにしました。罠があると覚悟さえしていれば、それはもう罠ではないのです。
 一万は教えられた通り道を真っ直ぐ歩いていきました。スティルツキンはついてこようとせず、手を振って見送ります。
「幸運を祈ってるぜ、バイオリン弾きさん」
 最後に一度だけ振り返ってみると、もうそこにスティルツキンの姿はありませんでした。現れた時と同じように、その姿は煙のように消えていました。それでも一万は、言われた通り進んでみるしかありませんでした。