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午後６時20分

「お待ちどうさま」
パスタベルデと呼ばれるホウレン草を練り込んだトマトソースのパスタが、ムウとシャカの前に置かれる。
二人はいただきますと皿に向かって手を合わせると、フォークとスプーンを持って食事を始めた。
「ここのパスタは本当に美味しいですねぇ。今度レシピを教えてもらいましょうか」
「君もおさんどんが板についてきたな」
「料理ならアルデバランも上手ですよ。シュラスコ（ブラジル風牛の串焼）のサンドウィッチ、とても美味しかったですし」
何故かファラオは、二人がパスタを咀嚼する音とその間に交わされる会話に聞き耳を立てていた。
別にムウもシャカも何かしているわけではない。ただ単に食事をとって談笑（？）しているだけなのだが、ファラオには悪魔の会談に聞こえた。
同僚達やオルフェから黄金聖闘士の恐ろしさを散々聞かされていたため、『黄金聖闘士＝怖くて危なくてヤバい』という先入観がファラオに刷り込まれてしまっていたのだ。
『ムウはクレバーな戦い方をする上、かなり残酷な事もやってのける』
『シャカは・・・冥闘士10人以上を一撃で葬り去った！！』
『黄金聖闘士はかなり変わっているからね。僕が地上に戻りたがらない理由を察してくれると助かるよ』
こんな話を聞かされた後では、感情をフラットに保てという方が難しい。
・・・無論、相手はファラオの事など知らないだろうし、もし冥闘士とばれたとしても不戦協定があるため、よほどの事がない限り戦闘にはならない。
それはわかっている、わかっているのだが・・・どうしても意識し過ぎてしまう。怖じ気付いてしまう。
『Mrs.Robinson』の演奏を終えた後、ファラオは適当にジプシー調のメロディを奏で始めた。
本当はパンク系の派手な音が好きなのだが、アコースティックギターではさすがにそんな音出ないし、店の雰囲気にそぐわない。
と、その時。カウンターでパスタをすすっていたムウが、いきなりファラオに視線を向けた。
思わず心臓が跳ね上がるファラオ。メロディを乱れさせなかったのは、音楽家の意地というべきか。
グリーンの瞳でじっとファラオを見つめるムウ。
その瞳に射抜かれ、ファラオの心臓は16ビートを刻んでいる。
『な、何故私をジッと見る！！』
やましい事をしていなくとも、敵陣営の…しかも最凶と呼ばれている人間に見つめられていい気はしない。
「ムウ、なにかあったのかね？」
口の周りにトマトソースをつけたシャカがフォークにパスタを巻き付けながら問うが、ムウはファラオの顔を凝視したまま、
「ええ、このギタリストの方ですが…どこかで見たような気がするのです…」
ムウの小宇宙がやや燃えていた。静かに、かすかに、星の瞬きのように小宇宙が燃えていた。
シャカは大して興味がないのか、パスタの最後の一口を飲み込むと、
「ふむ、流しのギタリストなど、どこかで別の場所で見ても不思議はあるまい」
彼はギタリストなどどうでもよかった。食事の邪魔をしない程度の音楽を奏でていれば、それで十分なのである。
今目の前にいるギタリストを見た事があろうがなかろうが、出された食事が美味しければ、そして店内のＢＧＭが食事を快適に演出すれば、シャカはそれでいいのだ。
「そうなのですけどねぇ・・・」
ムウは納得できない様子であったが、シャカと言い争いをしても体力の無駄とわかっているので、食事の続きを始めた。
が、急に気が向いたのか、ファラオにこんなリクエストをしてみる。