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楽しい羊一家 その1

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10:30 p.m.


シオンの部屋の寝台は、独り寝にしては大きいダブルサイズである。
教皇なのだからこれくらいの贅沢はしてもいいのでは?とムウが導入してくれたのだ。
シオンは就寝前にその大きな寝台に寝転んで、本を読むのを好んでいた。
本は何でもいい。書店で販売されているようなものから、教皇の間の書庫にあるものまで、活字なら何でもいい。
今でこそ活字中毒のシオンだが、若い頃はあまり読書をしなかったように思う。
十八で教皇職に就き、世の中の事を数多く学ばなくてはならなかったため、それで読書をするようになったのだが。
読み始めると、これが大変に面白い。
知識や教養を高める本だけではなく、文芸書・物語の本も実に面白かった。
一日部屋に居ても、本があれば退屈しない。
教皇の執務が山積みになっていて、気楽に出かけられない時、ちょっとした読書が気分転換にもなった。
その夜もベッドに寝転んで小説本をめくっていると。
部屋のドアをトントンと叩く音。
誰がやってきたか、解っている。
そのためシオンは、書面から目を逸らさぬまま通りの良い声で、
「入れ」
「失礼しまーす」
ゆっくりとドアが開き、枕を抱えた孫弟子が入室してくる。
「どうした?もう眠ったのではなかったか?」
本にスピンを挟み、ようやく肩越しに振り向く。
すると貴鬼は、教皇の視線の先で少々モジモジしながら、
「あの、シオン様……」
「何だ?」
「今晩、シオン様と一緒に寝ていいですか?」
その申し出に、一瞬目を丸くするシオン。だがすぐに困ったように笑うと、
「構わぬよ。こっちへ来ぬか」
と、ベッドの空いているスペースを右手でポンと叩く。
「やった!」
教皇の了解を得た貴鬼は、ツタタタターとベッドに駆け寄る。
そして飛び込むように、シオンの隣に寝転んだ。
「えっへっへー」
ふかふかのシオンの布団の上に仰向けになると、貴鬼は満面の笑みを浮かべる。
教皇の使用している布団は、さすがに質が違う。
自分のものとは違って、ふかふかだ。
「シオン様のお布団、いいなぁ」
「お前の布団も天日で干せば、斯様な状態になるわ。それよりも、あまり布団の上で暴れるでない」
布団の上で泳いでいる孫弟子に、そう注意する。
貴鬼はたしなめられた事に気付くと、失敗したと言わんばかりの表情で舌を出した。
「ごめんなさい、シオン様」
「はしゃぐ気持ちは解らぬでもないが、横で私が書を読んでおるのだぞ?少しは大人しくせぬか」
「はい」
素直に頷くと枕の上にうつ伏せになり、読書中のシオンを覗く。
毎度の事だが、シオンの読んでいる本は何語で書いているのか解らないものが多い。
「ねぇ、シオン様」
「どうした」
「何のご本を読まれているのですか?」
貴鬼に問われたシオンはふむと小さく頷くと、
「ああ、フランス革命について書かれた本よ」
「フランス革命……というと、オスカルですね!」
「少々違うがな。私が教皇に就任してしばらく経った頃か。フランス革命が起こったのは」
真顔でそんなことを言う、敬愛する師の師。
思わず貴鬼はぽかーんと口を開ける。
「え、だって、シオン様。フランス革命って、ずいぶん昔の話じゃないですかー!」
「私は248歳だぞ?忘れたのか?」
「あ」
今のシオンは見た目は18歳だから、すっかり忘れていた。
そうだ。
シオンは二世紀半の長きに渡って聖域を統治してきた男なのである。
文字通りの、歴史の生き証人なのだ。
「当時は情報が錯綜して判らぬ事も多々あったが、今は史料をまとめあげる事で全体が見えるようになっておる。面白いものだな」
白い指でページをめくるシオン。
貴鬼はその手付きを眺めながら、
「ねぇ、シオン様」
「何だ」
「……オイラ、シオン様のお話、聞きたいな」
可愛い孫弟子からの言葉に、長い睫毛に縁取られた目をぱちくりさせるシオン。
だがすぐに微笑むと、本を閉じて貴鬼に体を向けた。
「それでは、何か物語をするとしよう。今宵は……」
耳に心地よく届くシオンの声が、部屋に響く。
優しい口調で語られる歴史の逸話を聞きながら、貴鬼は幸せそうに目を閉じる。
「……という話なのだが」
と、シオンは言葉を止める。
先程まで相槌を打っていた貴鬼が、いつの間にやらスースーと寝息を立てていたのだ。
「……全く、仕方のない奴よ」
小さくため息をついた教皇は毛布を孫弟子にかけてやると、枕元の灯りを消して自分も寝具をかぶる。
今ムウは、アイオリアとともに任務で出張している。
そのため貴鬼は、今夜は広い寝室で独りで眠る事になったのだが……。
「この年になっても、部屋で一人で眠れぬとはな」
少々呆れないでもない。
貴鬼はムウの元へ引き取られた時から、師と同じ部屋で眠っていたそうなので、夜独りで部屋に居るのが寂しいのかも知れない。
「大目に見るのは、今宵だけだぞ」
子供の呼吸を間近で感じながら、聖域を統べる厳格な教皇はそっと目を閉じた。
作品名:楽しい羊一家 その1 作家名:あまみ