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振り返れば奴がいる 後編

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それから一週間後。参観日当日。
瞬は妙に落ち着かない様子で、教室の窓から校庭を見下ろしていた。
ダイダロスが日本に到着するのは今日の午前九時頃。
参観は午後からなのでそれで十分間に合うのだが、八時前に家を出る瞬は、師が学校に姿を見せるまでは落ち着かなかった。
「随分そわそわしているな、瞬」
星矢にからかうように話しかけられ、瞬は彼にしては珍しく本気で機嫌を損ねたような目付きで、友人を睨みつける。
その視線に、思わずギョッとする星矢。
瞬は滅多に怒らないが、その分怒るととんでもなく怖い。
一言、小声で悪かったと謝ると、
「ダイダロスなら大丈夫だろう。あの人なら、飛行機に乗り遅れたとかやらないだろうし」
「そうなんだけど……世の中、何があるか分からないから」
と、瞬は星矢が自分とは違って落ち着き払っていることに気付いた。
星矢の授業に来てくれるアイオリアも、ギリシャから来るはずだ。
遅れたらどうしようとか、無事に到着するだろうかとか、心配しないのだろうか。
それを瞬から問われた星矢は、たった一言。
「ムウか貴鬼が、日本まで届けてくれるってよ」
「そうなんだ」
あの瞬間移動の達人たちが日本に連れてきてくれるというのなら、何も心配は要らないだろう。
ダイダロス先生はテレポーテーションできないからなぁ……と、校門に視線を投げた瞬の表情が、劇的に変わった。
「どうした、瞬」
と、訊くまでもなかった。
星矢もそちらを見やると、校門をくぐる一人の男の姿が。
グレーのスーツ、シュラによく似た悪人面であるが、人格者のオーラがこれでもかと漂っている。
星矢は彼を見る度に、シュラと並べてみたい!と望んでしまう。
「ダイダロス先生!」
窓から大きく手を振る瞬。その表情は喜びに満ちあふれている。
瞬の声に気付いたダイダロスはやや顔を上げると、瞬に負けず劣らずの輝いた顔で手を振り返す。
口の動きで、瞬の名を呼んでいるのが分かる。
「……ダイダロス先生が、来てくれた……」
夢見るような口調で呟く瞬。
来てくれるとは信じていた。
けれども『もしも』が頭の中にあって、その姿を実際に目にするまでは信じられなかった。
しかし今、自分の目に映っているのは幻覚でもなんでもない、正真正銘の、師だ。
「行ってこいよ、瞬」
星矢が幸せに浸りきっている瞬に告げる。
瞬は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「何が、星矢」
「何がって……ここで授業始まるまでニタニタしてるつもりかよ。少し時間あるだろ?下降りて、ダイダロスに挨拶してこいよ。案内兼ねて」
「あ」
声のあげ方から察するに、そのような考えは瞬の中には存在していなかったらしい。
ダイダロスが来てくれた!という喜びが、瞬の脳から『会って話す』という選択を吹き飛ばしてしまったようである。
「あ、うん!行ってくる!」
彼らしくない、どこかフワフワした様子で、階段に足を向ける。
そこか雲を踏んでいるような足取りだな、と星矢は思う。
星矢は魔鈴を尊敬しているが、瞬のような慕い方ではない。
瞬にとってダイダロスは、父であり兄のような師であったそうだが、星矢にとって魔鈴は、しっかり者の姉であった。
だから、もし魔鈴が参観に来てくれたとしても、あんなにそわそわしないだろうと思う。むしろ恥ずかしい。
嬉しいけれど、恥ずかしい。
姿が見えたら、窓の下に隠れてしまうくらいに恥ずかしい。
いや、恥ずかしいというか、照れくさい……というのが、一番ピッタリ来る表現かも知れない。
ならば、アイオリアに対してはどうだろう?と、星矢は考える。
アイオリアが見に来てくれるのは、嬉しい。
わざわざギリシャから来てくれるなんて、滅茶苦茶嬉しい。
しかし、だ。
聖闘士の最高位である黄金聖闘士の一人が来てくれるというのに。
聖域では兄貴分だったアイオリアが来てくれるというのに。
……不安なのである。
胸騒ぎがするのである。
大の大人に対してこの言い方はなかろうと思うが、不安なのだ。
アイオリアは聖域からあまり出たことがない。
元々聖域近くで生まれ、物心ついた時には聖域内で聖闘士としての修業を受けていたという。
他の同僚のように国外に出ることがほとんどなかったので、今でもギリシャ語以外の言葉を話せない。
英語すら話せないため、シオンはアイオリアを国外出張させられないとよくぼやいている。
また、聖域外で生活したことがないため、一般社会の常識に疎いところがあり、そこが星矢の不安をこれまた煽る。
「あー、大丈夫かな、マジで」
席に戻り、教科書を開いて今日の予習をしていると、窓際からざわめきが。
「あれ、あの人すごくカッコ良くない?」
「外国人だよね。なんでうちの学校に来てるんだろ?」
「隣にいる女の人、チョー美人だよねぇ」
クラスの連中がやけに騒いでいる。
何だか、胸騒ぎがした。
星矢も窓際に寄ったが、眼下には案の定の光景が。
グレーのスーツ姿のアイオリアと、薄いグリーンのスプリングコート姿のムウが、並んで歩いているではないか。
「あー、今日のタクシー当番はムウだったか」
アイオリアもテレポーテーションやテレキネシスが使えないわけではないのだが、ムウの方が圧倒的に得意なので、長距離の移動は彼に頼むことが多い。
ムウは星矢に気付いたのか、こちらを見ると軽く目礼する。
そしてアイオリアに何事かを話しかけ、そのまま踵を返した。
後は自分でどうにかして下さい、とでも言ったのだろう。
アイオリアは少々困ったように昇降口に向かう。
離れ離れになる二人の黄金聖闘士の姿を確認した星矢は、らしくもなく深い深いため息をつくと、早足で教室を出た。