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振り返れば奴がいる 後編

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「なかなか面白かったぞ」
帰り道、城戸邸までの道のりを歩きながら、アイオリアが楽しそうに告げる。
先程よりも顔つきが平常のものに近いのは、辰巳の姿がここにないからだろう。
『相当嫌われているな、辰巳』
人格者と呼ばれるアイオリアにここまで嫌われるなんて、本当に何をやらかしたのやら。
知りたいけれど、アイオリアにものすごい顔で睨まれる予感がして、星矢は訊けなかった。
「お前が日本でも立派にやっている様を見られて、本当によかった。魔鈴にも伝えなくてはな」
そう語るアイオリアの口調は、妙に活き活きしている。
星矢の授業参観に出席したことで、魔鈴と話せるチャンスという副産物を得たのだから。
お前が真面目に勉強していたことを魔鈴に話しておくぞと、実に嬉しそうに、心底楽しそうに語る。
『ま、アイオリアが楽しんでくれたなら、それでいいか』
とはいっても、星矢自身もアイオリアの来訪に胸を弾ませていたことも事実だ。
星矢には親がいない。
そのため、授業参観に誰かが来てくれるなど、夢のまた夢と思っていたが。
今日、アイオリアが来てくれたではないか。
わざわざギリシャから来てくれたではないか!
瞬が夢見るような表情でダイダロスを迎えていたが、自分だって誰かが見ていなかったら、そんな顔をしてしまったかも知れない。
……誰かが自分のために何かをしてくれることが、こんなに嬉しいことだったなんて。
慣れないスーツ姿に肩が凝ったのだろうか。
首をしきりに回しているアイオリアを眺めながら、星矢は今の自分の幸せを噛みしめる。
「……アイオリア」
「何だ、星矢」
緩やかにこちらに顔を向けるアイオリア。
星矢のよく知っている、精悍で男らしい顔立ちである。
「今日、ギリシャから来てくれて、ありがとうな。すげー……嬉しかった」
少々照れながらアイオリアに礼を述べると、アイオリアは驚いたように目を丸くした後、破顔した。
「礼を言うのは俺の方だ、星矢。お前のおかげで普通の聖闘士ではできない経験をさせてもらった。日本の学校に生徒の授業参観を観に行くなど、聖闘士の身では到底叶わぬだろうからな。ありがとう、星矢」
先程まで魔鈴がどうこう言っていった気がするのだが、それは自分の記憶違いだと星矢は考えることにした。
とにかく、今、自分は幸福なのだから。
「なぁ、アイオリア。俺、あんたに今日の授業を見てもらえて、本当よかったよ。振り向いた時、自分の知り合いがいるってなんかいいよな」
星矢も笑う。心の底から笑う。
アイオリアは力強く頷くと、ポンと星矢の肩を叩き、
「またこういう機会があったら、呼んでくれ」
「勿論だよ。また頼むかも知れねーけど、その時はよろしくな、アイオリア」
「ああ」
アイオリアは再び頷くと、城戸邸へ向かう足を速める。
この後ギリシャ・聖域に連絡し、ムウに迎えにきてもらわねばならぬのだ。
(実は城戸邸に一泊したらどうだとシオンは勧めたのだが、アイオリアは帰りますと断った。辰巳の顔を見るのが相当嫌らしい)
「瞬は、今日はダイダロスが泊まっていくから、ウキウキだろうなぁ……」
友人をちょっとばかり羨ましいと思いつつ、星矢はアイオリアについていくべく、アスファルトを蹴った。

ごく普通の、しかしどこか普通でない、星矢の中学生生活の一コマの話。