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夏の銀河の片隅で

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「♪さーさーのーはーさーらさらー のーきーばーにーゆーれーるー」
今年も白羊宮の軒下に、竹が飾られている。
毎年日本から送られてくる、『七夕の風習』である。
貴鬼は星矢から習った歌を歌いながら、竹に飾り付けを施していた。
「ねー、ムウ様。輪っか飾っていいですかー?後、折り鶴ー」
「折り鶴は止めなさい。方向性が変わりそうです」
そう嗜める師に、はいと元気よく返事をする貴鬼。代わりに、別の物を折っているようだ。
「ふむ、七夕か」
二階から降りてきたシオンが、軒下ではしゃぐ貴鬼を見つけ、そう呟く。
毎年白羊宮では、時期になると竹に七夕の飾り付けをするので、さして珍しい光景でもないのだが。
シオンはじっと、竹飾りと孫弟子の様子を眺めていた。それに気付いたムウは、何事だろうと師に声をかける。
「どうかなさいましたか?シオン様」
「あ、ああ……」
はっと我に帰ったかのようなシオン。
「あ、ああ、そうだな。もう七夕時期かと思ったものでな」
「そうですか。何かいつもとご様子が違ってらっしゃったので」
「そうか?」
「そうです」
シオンと暮らしているムウには、取り繕っても無駄である。
教皇は小さく息を吐くと、居間のソファに腰掛け、肘掛けに肘をついて頬杖をつくと、
「初めてスターヒルに登った日の夢を、今し方まで見ておった」
シオンは昨夜夜勤だったので、今の今まで眠っていた。
そんな師の前にムウは、冷えた麦茶のグラスをそっと置く。それを半分ほど飲み込んだシオンは、ぼんやりとした夢の光景を辿る。
「星空が美しくてな。あの日スターヒルで目にした天の川は、今でも忘れられぬ。文字通り、牛乳を流したかのようであった」
230年前は、現在とは違い電気がない。よって、星空の見え方が今とは全く違う。
シオンの脳裏には、当時の星空が今でも焼きついている。
「下で貴鬼が、天の川天の川騒いでおるが故に、斯様な夢を見たのやも知れぬな」
空になったグラスを、テーブルの上へ置く。グラスの表面に浮かんだ水滴が、シオンの綺麗な指先を濡らす。
ムウはどこか困ったように笑うと、
「すみません。シオン様の眠りを妨げてしまいましたか?」
「いや、構わぬ。そろそろ起きる頃合いだった故」
シオンはソファから立ち上がると、軒下へ足を向ける。
底では孫弟子が、折り紙やら短冊やらを笹にかけている最中だった。
「ほぉ、精が出るな。貴鬼よ」
「あ、シオン様。おはようございまーす」
おはようございますは非常に便利な言葉だと、シオンは最近思う。
貴鬼は大好きなおじいちゃんに色紙で作った短冊を渡すと、
「ね、シオン様。シオン様も願い事を書いて吊るしましょうよ!」
満面の笑みで勧める。勧めるというよりも、強請るに近い。
孫弟子の笑顔に心底弱い教皇は、困ったように右手の人差し指で頬を掻いた後、よかろうとサインペンでサラサラ書いた。
……しかし。
「ねぇ、シオン様」
「何だ」
シオンは書き上がった短冊を、笹の上の方に吊るしている。これでは、貴鬼の身長では見ることができない。
「何でそんな高いところに吊るすんですか!」
「私の背丈では、この辺りに吊るすのが一番自然なのでな」
「ブーーー!!」
頬を膨らませる貴鬼。わざとだ。わざとシオン様はやった。
自分に見られたくないから、わざとシオン様はやった!
そう頬を膨らませる貴鬼を非常に面白そうに見やったシオンはポンポンと孫弟子の頭を叩くと、再び家の中へ戻っていってしまった。起きたばかりで、まだ食事をとっていなかったのである。
「んも~~!!」
貴鬼は諦めなかった。
テレキネシスを駆使して体を宙に浮かせると、シオンの短冊を覗き込む。
けれども。
「シオン様の意地悪ーー!!どうして筆記体で書いてあるのーーー!!」
空中で悔しそうに手足をばたつかせる貴鬼。
そうなのだ。シオンの短冊は貴鬼の読めない筆記体で書いてあったのだ。
それは……。

『家族3人、末永く健康で幸せに過ごせますように』
作品名:夏の銀河の片隅で 作家名:あまみ