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Racingholic

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初めて彼のレースを見たのは、85年のポルトガルGP。
(リアルタイムで観戦していたわけではない。TVをつけたらたまたま放送していたのである)
どういうきっかけかは忘れてしまった。
教皇の間の仮眠室のテレビで見ていた記憶があるので、サガに呼び出されたのはいいものの本人がなかなか来ないので、暇つぶしに見始めたのも知れない。
と、スターティンググリッドに並んだマシンの中に、一際シュラの目を引いたものがあった。
JPSカラーのロータス・ルノー。
黒字に金の文字がよく栄える。
そのカラーリングがたまらなくストイックな雰囲気で、一目惚れするくらいにかっこ良かった。
自分も黒髪に黄金聖衣をまとっているので、単に黒と金の組み合わせが好きだったというのもある。
ポール・ポジションを獲得したロータス・ルノーは、ブラックアウトと当時に好スタートを切る。
速かった。
雨模様のウェットコンディションにもかかわらず、どのマシンよりも速かった。
「すごい……」
ブラウン管を凝視しながら、思わずため息。
F1マシン程のスピードなど、聖闘士なら誰でも持っている。最下級の青銅ですら、だ。
ましてや、最強を誇る黄金聖闘士は皆光速の速さを持つ。
一秒間に一億発の光速拳を相手に叩き込むことすらできるのだ。
なので、たかだか音速にも届かない程度の速さ比べを何に真剣にやっているんだと、F1を存在しか知らない頃は思っていた。
しかし、だ。
そのロータス・ルノーの走りには、初めてレースを見るシュラを惹き付けるものがあった。
見ている者の体温を上げるような、脈拍を早めるような、言葉では説明できないような魅力に満ちあふれていた。
「……面白いな、カッコいいな」
まだ若かったシュラの心に鮮烈に焼きつくその走り。
心臓に焼き印を押されたようだったと、後ほどシュラはアフロディーテに語っている。

誰よりも速く走りたい。

セブンセンシズで受信した彼の想いに、シュラは心を揺り動かされる。
……今までシュラは、心を乱さぬように生きてきた。
聖剣のキレを鈍らせぬように、己の剣技を高めるために。
心の乱れや安定しない感情は、剣技に曇りをもたらす。
そんなシュラであったが、このレースを見て自分の中の何かが確実に変化した。
誰よりも速く走りたい、誰よりも前でフィニッシュラインを通過したい。
隠し事のない、むき出しの感情。
世の中にはこんな熱い激しい想いもあるのだ。
偽教皇の配下として他人に何かを隠して生きてきた自分には、彼のむき出しの熱い情熱がとてもまぶしかった。
自分はこんな生き方はできない。感情や想いを露にして戦うことは絶対にない。
だからこそ、自分とは全く違う彼に惹かれる。
「……F1って、面白いな」
レースの後のシャンパンファイトを眺めながら、解除困難な魔法にかかってしまったことをシュラは自覚した。
「この男のレースを、もっと見たい」
頭の中が彼の走りのことで一杯になる。彼の走りをもっともっと見たくなる。
放送後のテロップでこのレースが再放送だと知ったシュラは、いつか必ず……彼の走りを生で見ようと誓った。
近いうちに絶対にサーキットに行って、彼の走りを生で体験したい!全身で感じたい!
「……そのためには、もっとちゃんと勉強するか……」
この頃はまだギリシャ語とスペイン語しか話せなかったため、シュラは語学の勉強に励もうと心に決めた。
カミュにフランス語を、デスマスクにイタリア語を、アルデバランにポルトガル語を習い始めたのはこの頃である。

シュラに音速の魔法をかけた、この卓越したレーサーの名は。
アイルトン・セナといった。
作品名:Racingholic 作家名:あまみ