二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Racingholic

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

シュラがセナの走りを生で見ることはなかった。
生観戦の予定が立ったその年、サガの肝煎りでのモナコ初観戦が決まったその年。
セナはサン・マリノGP、イモラサーキットで大クラッシュを起こし、そして……。
……タンブレロの悲劇は、シュラを悲しみのどん底に叩き込んだ。
セナ死亡のニュースが放送された途端、シュラは咆哮と聞き間違うような絶叫を上げ、テーブルやテレビ台をひっくり返し、床に敷いてあったカーペットを引きはがした。
完全に気が動転してしまい、いつもの冷静さがウソのように室内で暴れまくっていた。
(磨羯宮からテーブルの破片やスポンジが飛んでくるので、宝瓶宮に駐留していたカミュが何事かと様子を見に来たらしい)

シュラはその日から丸々一週間、自宮から一歩も出なかった。
魂が抜けてしまったかのように、テレビのあるリビングから全く動かなかった。動けなかった。
「あれはひどいな」
シュラがどれくらいセナを応援していたか知ってるアフロディーテは励ます言葉が見つからず、磨羯宮の玄関にそっとシェリーを置いておくことしかできなかった。
デスマスクも何とか力付けてやりたいとは思っていたようだが、
「そっとしておくしかねぇな」
と静かに見守るのみだった。
シュラは生気や元気というものを、完全に失っていた。

あの日、セナの走りをテレビで見て以来、シュラは彼の走りを生で観戦することをずっと夢見てきた。
観戦費用を稼ぐためにあまり乗り気でない任務もこなしたし、語学学習も頑張った。
最近は英語で日常会話がこなせるようになったので、レース後のインタビューもちゃんと聞き取れる。
セナはブラジル人なので、フランクな会話をするとしたらポルトガル語だ。
ポルトガル語は今アルデバランに習っているが、スペイン語とポルトガル語はよく似ているので、いざとなったらスペイン語が出てきてしまうかも知れないが。
ああ、もし会うことができたら、何と言おうか。
サインをねだろうか、それとも頑張れ!と伝えようか。
少し前だったらプロストに負けるなよ!と言ったかも知れないが、教授と呼ばれたあのクレバーなレーサーは93年に引退発表をしてしまったので、今はいない。
そうだな、マクラーレンからウィリアムズに移籍してもチャンピオンを獲って欲しいと伝えたい。
もっともっと貴方のレースを見せて欲しいと伝えたい!
まだ若かったシュラは、頭の中で色々妄想しては悦に入っていた。
(アフロディーテからは、『むっつりスケベだな』とよく揶揄されたものだ)
ロータス・ルノーのJPSマークがかっこ良かったので、レースを見るようになってからJPSを吸い始めた。
近所の宮のカミュやアフロディーテはあまりいい顔をしなかったが、シュラはそれにはおかまい無しにニコチン中毒になっていった。
『……セナのマシンの煙草……』
マクラーレンホンダのスポンサーはマルボロだったのだが、シュラにはJPSのイメージが強く残っており、煙草の銘柄を変える事はしなかった。

これ程までに憧れ、恋焦がれたセナは、帰らぬ人となってしまった。
その前日はラッツェンバーガーがアケローン河を渡っていたし、呪われているとしか思えないイモラの週末。
憧れのアイルトン。
その姿を、その走りを、生で見る事をずっと思い描いてきたのに。
「……アイルトン、あんたがいなくなっても、F1は続いていくんだよな……」
その年初めてモナコに観戦に行き、多くのF1ファンとともにセナの早すぎる死を悼んだ。
シュラは憧れのヒーローがいなくなっても、F1を見る事をやめなかった。
セナが教えてくれたレースの面白さを、彼はそこで捨てられなかったのだ。
作品名:Racingholic 作家名:あまみ