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彼方から 第二部 第八話

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 彼方から 第二部 第八話

 喉が痛い。
 肺も痛い。
 足が、鉛を付けたように重い。
 汗が止め処なく流れてくる。
 体力が、限界に近付いている。
 
    ノリコ 大丈夫?

集落へと先導してくれているイルクが、戻って来てそう声を掛けてくれる。
 朝湯気の木の一枝を大事に抱え、傍らに生えている木に手を掛け、苦しそうに呼吸を荒げているノリコに。

    ごめん
    ずいぶん走らせたね

 ノリコの体調を気遣い、済まなそうに、朝湯気の木の精霊であるイルクが、謝ってくれる。

    あいつも 必死になっているらしい
    行く手を塞ぐように 予想以上の速さで アレを近づけてきている
    それを避けながら走るから
    集落に なかなか着けないんだ
    どうしよう……
 
 化物が迫って来ているであろう後方を振り返りながら、イルクは申し訳なさそうにそう言ってくる。
 自分と違い、人であるノリコは、宙を浮いて移動することなどできない。
 走れば当然、その体力は奪われてゆく。
 かといって、歩いて向かうなど――化物に捕まえてくださいと言っているようなものだ。
 イルクはかなりきつそうにしているノリコを見やり、どうしたものかと、思案に暮れている。

「大……丈夫――来て……くれる」

    え?

 荒い息遣いの中、ノリコは途切れ途切れに言葉を並べ、困り顔のイルクにそう返していた。
 ノリコには分っていた。
 こうして休んでいる間にも、さっきまで走っていたその間も、彼が、こっちに向かって来てくれていることを。

 ―― イザーク あたし ここ…… ――

 走りながら、そう伝えていた……勿論、今も。
 白霧の森に入る前の時のように、イザークがいるのが分かる。
 近づいてきているのが……
 霧の深い森の中、走って向かって来てくれているのが、分かる。
 木々の枝葉の擦れる音が、すぐ近くで聴こえた。

 ――ザッ……

 本当に目の前、鬱蒼と茂る木々の葉を掻き分け、待ち人が不意に姿を現した。
「イザークッ!」
「ノリコかっ!!」
 嬉しかった。
 来てくれたこともそうだが、何より、あの化物の中から、無事、彼が脱出できたことが。
 その顔を見られたことが、また、声を聴けたことが嬉しい。
「イザ……」
 ――あ、いけない

 思わず手を伸ばし、駆け寄ろうとして、ノリコは留まった。

 ――危うく、抱きつきそうになってしまった
 ――そんなことしたらまた、嫌がられ……

 町外れで彼を待ち、その姿を見つけ、思わず抱きついたあの時のことを思い返す。
 イザークに、『しがみつくな』と嫌がられたことを……
 ノリコは身を引き、彼から離れようとした。
 なのに……

 ――あ……あれ?
 抱き寄せられていた、イザークに……

   *************

 ノリコの気配を頼りに、森の中を走った。
 ノリコから送られてくる通信、唯一それだけが、彼女が無事であるという証し。
 先の見通しの利かない深い霧に包まれた森の中、乱立する木々を避けながら、イザークは彼女の気配を辿り、只管に走り続けた。
 たとえ、通信が出来ていようとも、その姿をこの眼で見るまでは、本当に『無事な姿』を確認するまでは、いつまでも不安が付き纏って仕方がなかった。

 彼女の気配が近づいている。
 近くに居る。
 それが分かる。
 イザークは彼女の姿を求めて、視界と行く手を阻む木々の葉を掻き分けた。

「イザークッ!」
「ノリコかっ!!」

 彼女はちゃんと、自分の足で立っていた。
 朝湯気の木の、一枝を抱えて。
 どこにも、ケガをした様子はない。
 所々、汚れてはいるがそれだけだ。
 それだけ、だ。
 
 ――無事だった!
 ――本当に……

「無事でよかった……」
 思わず抱き寄せた。
 その存在を確認するように――無事なのを確かめるように。
 無意識に口から洩れた言葉は、心からのものだった。

「イザーク……」
 そう言って見上げてくる彼女の大きな瞳を、久しぶりに見た気がする。

 少し戸惑った様子を見せるノリコの瞳と表情を、イザークは暫し、見詰めていた。

   *************
 
    ノリコ!!
 
 イザークに見詰められ、その瞳から目が離せないでいるノリコに、イルクが強く呼び掛けてくる。
「イザーク!」
 その呼び掛けで、今、自分たちが置かれている状況を思い出したのか、ノリコはイザークの服の袖を強く掴んだ。
「あの化物が近づいてきているって……! ほらっ、イルクが言ってる!」
「イルク? おまえが言ってた精霊の名だな? そこにいるのか?」
「え? イザーク、見えないの?」
 ノリコはそう言いながら、イルクが浮いて留まっている宙を見上げ、反対にイザークに問い掛けていた。

    …………ノリコ
    ぼくのエネルギーはとても弱いからね
    普通 人には見えないんだよ

 少し寂し気に、そう伝えてくるイルク。
 ノリコはその言葉に、怪訝そうにイルクを見上げていた。
「…………」
 イザークは無言で、持って来ていた松明の火を消した。
「イザーク、その火……」
 それは恐らく、途中、化物と出くわした時のために持ってきたものだろう。
 それなのにどうして……という思いで、ノリコは松明に眼を向ける。
「おまえと、その枝に危険だから消した」
「……あ」
 この枝は、化物の結界を破る為に必要で、大事なものだから、枝に火が燃え移らないようにする為に、松明の火を消すのは……分かる。
 でもまさか、『危険』の中に、自分も入れてくれているなんて――やっぱり、イザークは優しい……そう思う。
 そのイザークが、何かを確かめるかのように、ノリコが見ていた辺りの空中を見上げた後、少し考えるように俯き、
「ノリコ、イルクに訊いてくれ」
 そう言ってきた。
 通信を介して、イルクがノリコにしてくれた話は、彼女から大体聞いている。
 それ故に、生じた疑問だった。
「あの化物には、森の住人の魂が棲んでいるというが、おれは、もう一方の化物を吹っ飛ばした。彼らはどうなってしまったんだ?」
 イルクの話によれば、今まで自分たちが戦っていたあの髪の毛の化物が、この森に結界を張り、精神攻撃を仕掛けてきた張本人ではない。
イザークは、逃れる為とはいえ、千切れるほどの勢いで吹き飛ばしてしまった化物を依り代としていた、魂たちのことを案じていた。

    彼らは散り散りに飛び散って
    宙に迷い出ただけのこと
    焼かれても、凍らされ、粉砕されても同じ
    苦しい思いに飛び出すだけで
    魂自体は無事なのです

    でも 再び手足になる依り代を作るには
    かなりの時間と エネルギーが必要です

「……エネルギー、必要って、イルクが言ってる」
 通訳のようにノリコが伝えてくれるイルクの言葉に、イザークは少しホッとし、同時に、思案の表情を見せる。
「では、今のところ……あの魂達は何もできないんだな?」
 イザークの問い掛けに、ノリコはイルクを見た。