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BYAKUYA-the Withered Lilac-3

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「……あの日、うちが戻っていった時、オーガはもう死んでいた。だから、オーガの身体を引き裂いて、うちだけのものにした! いつだって、オーガを感じられるように、ここにもオーガの一部があるんだよ……」
 ゾハルは下腹部をさする。そこは、女にしかない臓器のある辺りである。
「…………っ?」
 ツクヨミはまたしても言葉を失ってしまった。
「イカれてやがるぜ、アンタ……」
 ゴルドーは、ゾハルの狂気に胸を悪くしていた。
「ゾハルって言ったか? アンタ、オーガの旦那を本当に好いていたんだろうが、やっていることは正気とは思えないぜ」
 ゾハルは、これ以上ないほどに目を見開いた。
「お前は黙れ! 『強欲』!」
 ゾハルは激昂し、杭を放った。
「何度もくらわねぇぜ?」
 ゴルドーは身を翻して杭をかわした。そして反撃に出る。
「グリム・リーパー!」
 巨大な鎌を顕現させ、縦に回転させながら突進した。
「あぐっ……!」
 鎌の刃は、ゾハルの肩口を切り、血を噴き上がらせた。
「ゾハル!」
「動くな、お嬢!」
 ツクヨミは、ゾハルが切られたために、思わず駆け寄ろうとしていた。しかし、ゾハルの様子の変化に気付き、足を止める。
「ふっ……くくく……!」
 ゾハルは血の滲んだ肩を押さえながら、苦しんでいるのか、それとも笑っているのか分からない声をあげていた。
「ゾハ、ル……?」
――まずいっ!――
 ゴルドーは大声をあげた。
「そいつから離れろ!」
 ゴルドーの制止の声とゾハルの凄まじい殺気に、ツクヨミは動けなくなってしまった。
「……もういいや、おまえら、まとめてぶっコロしてやる!」
 ゾハルは、手指の爪全てに杭を顕現させ、一番近くにいたツクヨミに襲いかかった。
「シネェッ!」
「っ!?」
「お嬢っ!」
 空中に、一筋の光が煌めいた。
――殺られたか……?――
 ゴルドーは次の瞬間、ツクヨミの五体が引き裂かれ、血の海ができあがると思った。
 しかし、更なる血を流していたのは、ゾハルの方であった。
 ゾハルの爪は、ツクヨミに届く寸前のところで止まっていた。
「ぐ、グギィ! ギヤァァァ!」
 ゾハルは、耳をつんざく金切声をあげながら、身をよじっている。
 何かに拘束されたようであり、動くごとに傷が増えていく。
「あーあ。かかっちゃった……」
 変声期途中らしい少し細い声が、暗闇の中からした。
「誰だ! まさか新手か!?」
「なに? カラテカ?」
 声はゴルドーの叫びに、バカにしたように、そしてわざと聞き間違ったように答える。
「この声!?」
 ツクヨミは大きく反応する。
「僕には。そんな野蛮なことをする力はないよ。空手みたいな事ができるのは。そこにいる我が麗しの姉様だけさ……」
 コツコツ、とよく響く靴音と共に、闇の中からギラリと不気味に輝く刃のようなものを背に、声と靴音の主がだんだんと明らかになっていく。
 四対八本の鉤爪は、まさに蜘蛛を思わせる。血にまみれた顕現を喰らっていたために、その頭髪は赤紫になっている。
 その眼は、現(うつつ)と夢の境など関係ない、と言わんばかりの悪夢に苛まれているかのようにまるで生気がなく、ずっと遠くを見ているようだった。
「やっ。こんばんは」
 突如として現れた、新たなる闖入者は、片手をヒラヒラとさせ、小さく笑いながら一言挨拶をした。
「ビャクヤ!」
 ツクヨミは思わず叫んでいた。つい数時間前に喧嘩別れしたばかりだというのに、ビャクヤはツクヨミの危機に駆けつけるがごとく出現した。
 誰もが彼の出現に、驚かずになどいられなかった。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-3 作家名:綾田宗