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BYAKUYA-the Withered Lilac-3

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 ツクヨミは、逃走を試みたのであろうが、逃げた先に罠があり、その上他の逃げ道を探そうともビャクヤらが戦っていたせいで逃げられなかったのだ。
「図らずも僕の巣網が貴女を逃がさなかったってわけだ。探す手間がかからなくてよかったよ」
 ビャクヤは喜んだ。
「……私としては、あなたという蜘蛛から逃げられない獲物の気分なんだけれど。……どういうつもりかしら?」
「え? 何がだい?」
「一度、あれほど拒絶していたというのに、わざわざ私を探し、そしてまた姉と呼んでいる。あなたという人間を、分かりきったつもりではないけれど、それでもあなたの行動には疑問が尽きないわ……」
 ビャクヤは、質問の意図を理解したのか、傍目からでは分からないが、ケラケラと笑った。
「はははは。なぁんだ。そういうことか。答えは簡単だよ。貴女が僕の姉さんだから。……ていう理由じゃ。姉さん納得しないよね? 仕方がないから詳しく話してあげるよ」
 ツクヨミは、自分に限らず、ビャクヤ以外の人間であれば皆悉く理解できないであろう、という言葉が出そうになるが、ビャクヤが話してくれるようなので喉元で押し留めた。
「夢を見たんだよ。さっきもちょっと話したけどね」
「夢……?」
「そう。夢だ。それもとんでもなく現実的で。僕にとっては。それはそれは恐ろしい夢をね……」
 ツクヨミと喧嘩別れした後、ビャクヤは疲れきってって眠ってしまった。
 その時ビャクヤは、耐え難い悪夢を見た。
 髪が真っ白な女と、身長が高く、筋肉質な男によって、ツクヨミが殺される。そのような夢であった。
 状況こそ違ったが、現実と照らし合わせると、それはゾハル、そしてゴルドーとあまりにも似ていた。
「そんな夢を見てね。久々に跳ね起きちゃったよ。ただの悪い夢だって。何度も思ったけど。どうやったって振り払えなかった。後はさっき話した通りだ。急いで来てみれば。僕が見た夢の通りだった」
 ビャクヤは、自身に悪夢を見せたのは、間違いなく自身に宿る顕現の獣だと確信していた。
 何故ビャクヤに異能力を与える存在がそんなことをするのか、そこまでは分かりかねていたが、こう考える事にした。
 二度と姉を失わないために、そのような夢を見せるのだと。
「ははは。我ながら都合のいい解釈だよね? けど。あいつらは見たまんまの姿格好だった。もう。こうでも考えるしかないと思わないかい?」
「…………」
 ツクヨミには、ビャクヤの虚言であるとしか思えなかった。
 しかし、夢を見たらしい事は事実のように思えた。
 ビャクヤの人間性はまだまだ謎に包まれているが、あれほど拒絶された後で、しかも命の危機に瀕した瞬間にビャクヤは現れた。偶然にしてはできすぎた話である。
 予知夢のようなものを見たのだろうと、ツクヨミは考えたのだった。
「あなたの言いたいことは大体分かった。それで、あなたはどうしたいというのかしら?」
「そんなの。決まっているじゃないか。僕が貴女を。姉さんを守るんだ。姉さんの問いに対する答えとしてはこうだ。姉さんを守る。そのために姉さんと一緒にいたい。それが僕の願いだよ」
 死んだ魚のような目をしながらも、ビャクヤは真っ直ぐにツクヨミを見つめ、そして真っ直ぐな気持ちを伝えた。
 ツクヨミは、思わずドキリとしてしまった。
――私、何をこんなに……。この子にそんな感情は……――
 単なる利用価値のある護身用の武器だとしか考えていなかった。しかし、そんな武器同然のビャクヤが、人並みの心を以て一丁前な言葉をかけてきた。
 ツクヨミは、好意のようなものを感じ始めるが、胸に手を当てて落ち着き、自らに言い聞かせる。
――そう、彼は私の剣であり盾である存在。余計な事は口にしない。そんな存在にほだされる事などあり得ない。ただそれだけに、思いもよらない言葉に驚かされた。それだけのこと……――
 くしゅっ、とツクヨミはくしゃみをした。
 暑い夜が続く時期ではあるが、濡れたワンピースの裾が夜風を受け、ひんやりとしていた。その上、下着を着けておらず、下半身から冷えを感じた。
「ああ……」
 ビャクヤは、その手に持ち続けていたゴルドーのコートを広げた。
「ほら。着ときなって」
 ツクヨミの後ろに回り、コートを肩に羽織らせる。
「ビャクヤ……」
「なんだい? やっぱり露出狂のコートは嫌かい? けど。残念だけど今はそれで我慢してよ。家に着くまでの辛抱だ。ほらほらさっさと帰るよ!」
 ビャクヤは、ツクヨミが汚した下着を引っかけている以外の鉤爪を消し、きびすを返した。
「ああ。そうだ。一つ言い忘れてた。昼間は怒鳴ったりして悪かったよ。僕が大人げなかった。この通り。謝るよ姉さん……。さぁ帰ろうか。その服とこのパンツ。洗濯しなきゃならないからね」
 ビャクヤはそのまま振り返ることもせず、先導するように歩き出した。
 ツクヨミは、そのまま立ち去ろうと思えば立ち去れた。しかしどうしてか、そのような事をするのに気が咎めた。ビャクヤを裏切るような真似をする気に、どうしてもならなかった。
「姉さーん?」
 ビャクヤは気遣っているのか、ツクヨミの事をしっかりと見ないように、首だけを曲げていた。
「早くおいでよ。そんな格好でこんなところにいたら。姉さんまで露出狂扱いされちゃうよ?」
 この言葉には、さすがに寛容な受け止め方はできなかった。
「……誰が露出狂かしら? ビャクヤ、あなたの方こそ、女性用の下着をそんな風にぶら下げて、下着泥棒の帰りだと思われるのではなくて?」
 ツクヨミは思い付く限りの反撃を試みる。
「はいはい。言ってなよ。これは姉さんのものなんだ。姉さんのものを。弟の僕が管理するのは当然のことだし。変態扱いされるいわれはないよ。そして姉さん自身を管理するのも。いや。言い方が悪いかな。お世話するのも僕の役目さ」
 堪らず言い返してくるかと思いきや、ビャクヤにきれいに受け流されてしまった。余計に言葉につまったのはツクヨミの方であった。
「現にさ。こうやって下のお世話まできちんとやっているだろう?」
「誰が下のお世話……っくしゅん!」
「あらあら。早く帰らないと本当に風邪引くよ? 病気の看病に下のお世話。まったく。これじゃあ介護だね。まだそんなのは早いんじゃない? 姉さん」
「っ! …………」
 ツクヨミは反論したくなるが、これ以上騒ぐのは愚かだと、言葉を喉の奥で止めた。
「ほら。とっとと帰るよ」
 ビャクヤはやはり、振り返ることなく歩き出した。
 ツクヨミも仕方なく、その後を付いていくのだった。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-3 作家名:綾田宗