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なんどのぼうけん 1

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第一獄。
巨大な石造りの建物が、アケローン河の岸からほどない場所にそびえ立っている。
天英星バルロンのルネが罪人を裁く裁きの館、通称ルネハウスである。
その通称の通り、第一獄にある亡者を裁くこの館はルネの住居であった。宿直担当の人間が、そのまま宿直室に住み着いてしまったような感じであろうか。
元々亡者を裁くのは上官のミーノスの仕事だったのだが、
「三巨頭の仕事で多忙なのですよねぇ」
「ルネの方がこの仕事は向いていますから」
と適当なことを言って部下に丸投げし、自分はジュデッカにある詰所でコーヒーと煙草を吸いながら、雑誌を読んだり、DVDで映画を見ていたりする。
そんな最悪な上司に仕事を押し付けられてしまったルネだが、時には休まないと潰れてしまうので、一週間に一度は休廷日を設けている。
その間亡者が河岸で列をなすことになるのだが、そんなことはルネの知ったことではない。
本日は休廷日なので、ルネは自室でノートパソコンでネットサーフィンを楽しんだり、書類をいくつか仕上げたりと、比較的のんびりと過ごしていた。
ルネの部屋はベッドとノートパソコン、それに質素なテーブルと椅子しか置かれていない、至極シンプルなものであった。(黒の法廷服はクローゼットの中に収められている)静寂を愛する彼の部屋には、オーディオやTVなどは存在しない。あんなもの、置いておくだけスペースと電気の無駄だ。
ルネが静けさの中で幸せな時間を満喫していると、トントンと控えめにドアを叩く音が聞こえる。
「どうしたのですか?」
マウスを操作しつつドアの向こうに問いかける。
すると、これまた控えめにドアが開いて、マルキーノがそっと顔を出した。
「ルネ様、少々よろしいでしょうか?」
「駄目と言いたいところですが、聞かないと先に進まないのでしょう。話しなさい」
視線はモニターから外さない。
マルキーノは気持ちを落ち着かせるように一つ呼吸をすると、
「裁きの館に、聖闘士とそうでないのが1名ずつ来てます」
「今日は休みですよ。看板がかかっていたでしょう」
その声に、微妙にイラッとしたニュアンスが含まれていたのを、ルネと付き合いの長いマルキーノは感じ取っていた。
背筋に、寒いものが走る。
今日は冥衣を着けていないので。バルロンの鞭でバラバラにされる事はないが、それでもやはり怖い。
マルキーノは唾を飲み込むと、
「生きている人間です」
「……またですか」
うんざりしたように、ルネはこめかみを押さえる。
過日の聖戦で、ペガサスとアンドロメダ、そしてカノンに酷い目に遭わされた事を、ルネは忘れてはいなかった。
三秒ほど考えた後、
「通用口から外に出しなさい。ファラオかオルフェに会えば、何とかなるでしょう」
こいつも考えていることはカロンと同じらしい。
「かしこまりました」
一礼して部屋を辞するマルキーノ。
ぱたんとドアが閉まった後、ルネはパソコンをシャットダウンする。そして内側から施錠すると、ベッドにもぐった。
昨日は徹夜をしたので、妙な時間に眠くなるのである。

さて、邪武と貴鬼。『休廷日』と書かれた看板が下げられていたが、ここを通らないと先に進めないので、大きな扉を勝手に開き、中に足を踏み入れた。
「随分と広ぇ建物だな」
まるで都会に初めてやってきた田舎者のように、物珍しそうに周りを見回す。
二人がお上りさんや観光客のようにキョロキョロしていると、ルネの部屋から戻ったマルキーノに声をかけられた。
「おい、ガキども。出口はこっちだ」
見た目がおっさんのマルキーノにガキ扱いされたため、邪武も貴鬼も言い返ししようがない。
二人はマルキーノの誘導に従い、裁きの館の出口を目指す。
このだだっ広い建物内はしぃんと静まり返っていて、邪武は先日皆で訪れた上野の国立博物館を思い出していた。
耳の痛くなるような、こめかみが圧迫されるような静けさといい、建物の荘厳な雰囲気といい、どこか似通っているところはある。
国立博物館は、空調の音がわりと耳につくが。
「ねぇ、素通りさせちゃっていいの?ここ何かあるんでしょ?」
大きな目をした貴鬼がマルキーノを見上げるが、見上げられた方は鬱陶しげに顔を歪めるだけだ。
「本日は裁きの館で亡者を裁くルネ様がお休みなんだよ。それに、お前らは亡者じゃないだろう」
マルキーノは顔を歪めたまま、小声で告げる。貴鬼はそれもそうかと納得すると、邪武を促した。
「ね、邪武。オルフェのとこに行こう」
「あ、ああ……」
どこか上の空で答える邪武。彼は亡者を裁くと聞いて、亡くなった母親のことを考えていたのだ。
『俺の母さんも、冥界のどこかに居るのだろうか』
父親については、知りたくもない。もし地獄で会ったら、容赦なく殴り飛ばしてしまいそうだ。
あの男が父親など、今でも信じたくない。

第二獄へ向かう途中、邪武は貴鬼にこんな事を訊ねてみる。
「なぁ、貴鬼」
「なぁに、邪武」
「お前はさ、親父とお袋のことって気になるか?」
すると即座にこんな返事が。
「全然!」
ごく当たり前のことを、ごく当たり前に答えている様子だ。
反応できないでいる邪武に貴鬼は笑って、
「だって、オイラにはムウ様もシオン様もいるもん!」
白羊宮の守護者と、聖域を統治する教皇。
この二人は、貴鬼の自慢の保護者たちだった。
邪武は口元にどこか柔らかい笑みを浮かべると、短く、
「そっか」
とだけ答えた。
貴鬼にとっては血の繋がった顔も知れぬ両親よりも、今自分を愛し、慈しんでくれるムウとシオンの方がよっぽど愛しいのだ。
それは、邪武も側で見ていてよくわかる。
「最高の保護者だもんな、あの人たち!」
「うん!!」
貴鬼は心底嬉しそうに笑った。満面の笑みだった。
作品名:なんどのぼうけん 1 作家名:あまみ