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なんどのぼうけん 2

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黒き風の谷を越えると、第二獄である。
ここでは毎日雨が降り、地獄の番犬ケルベロスが亡者をむさぼり食っているという話だが。
「…………」
やってきた二人が目にしたものは。
「ほーら、ケルベロス。ゴシゴシするぞー」
「くぅ~ん」
グレートピレネーズくらいの大きさの三つ首の犬を、浅黒い肌の冥闘士が笑顔でブラッシングしている光景だった。
「ケルベロス」とポップな字体の名札がつけられた犬小屋の前で、犬と飼い主が仲良く戯れ合っている。地上ではよく見かける光景だ。
犬が三つ首でさえなければ。
「……何か、変わったものを見ちゃったね」
貴鬼が横にいる邪武に囁く。邪武はそれには頷いたものの、ここで突っ立っていても先に進まないので、この愛犬家と思しき冥闘士に訊ねた。
「なぁ、犬の手入れ中に悪いんだけど」
「ん?」
これまで満面の笑みを浮かべていた冥闘士、天獣星スフィンクスのファラオの表情が、見知らぬ聖闘士を見た途端に劇的に変わった。警戒、怪訝、不審。
そう表現できる感情をその顔にありありと浮かべると、響きのいい張りのある声で問う。
「誰だ、貴様ら」
いつの間にやらファラオの手には、魔琴が構えられていた。
ブラシは足下に放られており、ケルベロスがそれをくわえようと地面に首を寄せている。
『明らかに、敵扱いだな……』
予想していたとはいえ、こうはっきりと敵意を向けられると、ついつい小宇宙を高めたくなる。
現在冥界との間には不戦条約が結ばれているため、向こうもこっちも手出しはしない事になっているが、世の中何が起こるかわからない。
貴鬼が小宇宙を極限まで高めてしまった結果、冥界にテレポートしてしまったように。
『やるしかないのか?』
邪武が覚悟を決めたその時。
「ねー、オルフェんちここら辺なんでしょ?知らない?」
貴鬼がトコトコとケルベロスの側に寄り、ファラオに問う。
予測していなかった子供の行動に、虚をつかれるファラオ。黒い目が、驚きで丸く見開かれている。
「……お前、今何と……?」
貴鬼に問い返そうとするが、この子供はケルベロスを撫で始めてしまって、ファラオの話など聞いていない。
「わー、モフモフしてるー!」
背中や頭などを、気持ちよさそうに撫でまくる貴鬼。
ケルベロスは普段からあの花畑の住人にもナデナデされたり、ブラッシングされたりしているので、飼い主以外に触られても大人しくしていた。
「おい、小僧。撫でていないで、私の質問に答えろ」
少し語調を強めて問うと、ようやく貴鬼が顔を上げる。
「オルフェの家、この辺なんでしょ?」
「だから、どうしてそれを知りたい。それ以前に、お前らは誰だ」
「ああ、俺たち間違って冥界来ちまってさ」
邪武がファラオに説明を試みる。それを聞いた冥闘士は魔琴を下げると、困ったように息を吐いた。その際、無意識のうちに彼は、
「全く、聖闘士はどいつもこいつも……」
と小声で呟いていたが、邪武も貴鬼も聞こえていないフリをした。
「オルフェの家はこっちだ。ついてこい」
ケルベロスを一撫でした後、先導するように二人に背を向けるファラオ。
敵陣営にある戦士に背中を向けるなんて、馬鹿にしているのか?と邪武は思ったが、肩越しに振り向いたファラオは邪武の考えがわかったのか、嘲るような笑みを見せた。
「貴様らごとき青銅の小僧と聖闘士のなり損ないなど、背中を向けていても十分ということだ」
「…………」
思わず、邪武は腰が引ける。そうだ。目の前のこの冥闘士は、その気になれば自分たちを瞬殺できる実力があるのだ。
星矢達も、この男にはやられかけている。
『あん時オルフェいなかったら、どうなっていたかなー』
当時のことを思い出す度、星矢は背中が薄ら寒くなるらしい。
あの時オルフェがファラオの邪魔をしなければ、自分は確実にやられていた。
ファラオはそれ程の実力者なのだ。

第二獄・花畑。
そこには冥界在住のミュージシャンのフラットがあった。
「おい、オルフェ。いるか?」
邪武と貴鬼を連れたファラオが、オルフェの家の呼び鈴を押す。
だが、何の反応もない。首を傾げるファラオ。
「おかしいな……」
いつもだったら軽やかな足音とともに、あの神に愛されたミュージシャンが顔を出すはずだ。
「……本当に、オルフェはいるのか?」
「いるはずなのだが……」
ファラオがオルフェの家の前で首をひねっていると。
地を揺るがすような轟音。
何事かと思い音の方向に顔を向けると、花畑の入り口方面からオフロードバイクがやってくるではないか!
「え!?」
あまりにも場にそぐわないものなので、目を点にする邪武と貴鬼。
一体この冥界ってとこは、どーなっているんだ……。
ファラオは見慣れた光景なのか、全く表情を変えずにバイクを目で追っている。
オフロードバイクは花々を踏み荒らし、3人の前でギュッと止まる。
ライダーはヘルメットというか、冥衣のマスクは着けておらず、その顔を見た地上からの迷い人は、点になっていた目が飛び出るかと思うくらいに衝撃を受けた。
ファラオは轍が残る花畑を眺めた後、少々声を顰め、
「随分と派手に跡を付けたな。ユリティースに文句を言われるんじゃないか?」
「後でスケルトンに直しておくよう命じる」
ライダースーツならぬ冥衣には、胸部に二つの丸い膨らみ。つまり、このライダーは女性なのだ、が。
「……この人、シュラにそっくりだよね」
「あ、ああ……」
呆然とその女性冥闘士を眺める貴鬼と邪武。女性と思しき体の上に、山羊座のシュラと瓜二つの顔が乗っていた。
どう見ても、シュラだ。
街で会ったら、シュラーと声をかけるレベルで、シュラだ。けれどもこの冥闘士の声は、何処からどう聞いても女性であった。
知り合いの男性の顔から女性の声が出るシュールさを、どう表現してよいのやら。
ファラオは二人の呆けた顔に気付き、どうした?と訊ねる。
クイーンを見た彼らの表情が、明らかにこれまでのものとは違っていたからだ。
何事かと思いきや。邪武は所々口ごもりながら、
「……黄金聖闘士に、そこの冥闘士にそっくりな人がいてさ……」
「ほぉ」
面白そうに、興味深そうに、口角を曲げるファラオ。なかなか面白い偶然があるものだ。
それを聞いていたクイーンは、何を今更と言わんばかりの様子で、鼻で笑う。
バイクに跨がったままの女性にそれをやられると、何となくイラッとするのは何故だろうか。
「山羊座のシュラだろう?」
「知っているのか?」
「あいつは一度我がハーデス軍の走狗となり、アテナに刃を向けたからな。裏切り者の黄金聖闘士たちの顔は、ラダマンティス様の旗下のものなら、皆知っている」
嘲笑するようなクイーンの口調。邪武も怒りが込み上げてきて、ぐっと拳を固める。
何故黄金聖闘士がアテナの首を狙ったのか。何故裏切り者の汚名を被ったのか。
それは、今ならば皆が知るところであるが。
「形だけでも、よく主に歯向かえたもの……ぐわ!」
クイーンはそれ以上言葉を続けることができなかった。なぜなら。
貴鬼がテレキネシスでクイーンのバイクをいきなり横転させたため、彼女は花畑の絨毯の上に叩き付けられることとなったからだ。
「お、おい!」
貴鬼の突然の行動に慌てる邪武。
作品名:なんどのぼうけん 2 作家名:あまみ