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晴れた日の過ごし方 1

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しきりに首を傾げながら電話に出ると、元気のいい声がセシルの鼓膜を刺激した。
『あんちゃん、久しぶり!』
「パロム!」
電話の相手はミシディアのパロムである。相変わらずやんちゃなのだろう。声の様子で察する事ができた。
セシルも思わず破顔すると、
「久しぶりだね、パロム。元気だった?」
『おう、すっげー元気だったぜ!』
「ポロムは?」
『今横に居る、変わろうか?』
セシルの返事を待たずに、パロムはポロムに電話を渡す。
『お久しぶりです、セシルさん。お元気でしたか?』
「元気だよ。ポロムも元気そうだね」
『おかげさまで。セシルさんもお元気そうで何よりですわ』
当たり障りのない社交辞令の応酬が続いていたが、しかし。
『あんちゃん、今さ……テレビで“何でもランキング”見てたんだけどさ』
……何となく、嫌な予感がした。
だがそれを表立たせずに、平静を保ったまま会話を続ける。
「ああ、今僕もカインと見てたよ。今日は人気のフードコートランキングだったよね」
この番組、前半はフードコートランキングで、後半が人気アトラクションランキングだったのである。
パロムは、そっちじゃなくてさ……とあっさり斬り捨てると、
『人気アトラクションランキングの方だよ。見てなかった?』
「ああ、そういえばそんなものもあったね」
横で聞いていたカインは、セシルの声が心なしかヤケッパチになっている事に気付いていた。
この変化は日頃セシルと暮らしているカインだからわかるもので、パロムたちにはいつも通りの“セシルあんちゃん”としか映っていないはずだ。
『でさー、1位の“トルネド”さぁ、すげー乗ってみたいんだよ!あんちゃん家(厳密に言うならカインの家)、そこの遊園地から近いだろう?明日連れてってよ!』
「え?」
思わず聞き咎めるセシル。パロム……今何か、変な事言わなかったか?
「あのパロム、今何て……」
『明日ポロムと二人でそっち行くからさ、あんちゃん家の近くの遊園地連れてってよ!一緒にトルネド乗ろうぜ!』
突然背中から斬り掛かられたら、きっとこんな気分なんだろうな……。
妙な事を、セシルは考えた。
よりによって、絶叫マシンに一緒に乗れだと?
「パロム、本気?冗談だよね?」
『何言ってるんだよ、あんちゃん!本気も本気、チョー本気!』
パロムの言葉が熱を帯びる。
『だからさ、一緒に乗ろうぜ!あんちゃん!』
「……長老はなんて言ってるの?流石に子供だけでこっちまで来るのは、ちょっと大変なんじゃないかな?」
この場を何とか切り抜けようと、パロムとポロムの保護者の名前を出してみるセシル。
だが、パロムの代わりに電話に出たポロムの答えは、セシルの期待からは遥かに遠いものであった。
『長老がセシルさんのところでしたら安心と申しておりましたわ。セシルさん、とっても誠実な方ですものね』
……既に子供のきく口ではない。
言葉が出なくなっているセシルに、パロムは更に追い討ちをかける。
『明日10時着の新幹線の切符とったから、駅まで迎え来てくれよな!』
『インターネットで座席の予約ができるなんて、便利な世の中になりましたわよね……フフフ』
そういう問題じゃないんだけどと、セシルは声を大にして言いたかった。
「あの、パロム、ポロム」
『なんだよ、あんちゃん』
「明日僕に用事が入ってたら、どうする気だったんだい?」
すると二人は、声を揃えてこう言った。
『その時はその時!』
ミシディアの長老は、一体どういう躾をしているんだ!あまりにもアバウト過ぎる!
セシルのこめかみが、ずきずきと痛み出す。もうどうしようもなく頭が痛い。
だが電話ではそんな様子はわからないので、子供たちは一方的に電話を切る。
『それじゃあんちゃん、まったなー!』
『明日よろしくお願いしますわね、セシルさん』
わがままを言う時の子供のエネルギーは、本当に凄まじい。
子機を持ったまま、呆然と虚空を眺めるセシル。
壁にかかったカレンダーの、日曜の赤い字が目に痛い。
隣でコーヒーを飲んでいたカインは、子機を掴んだままぴくりとも動かない親友の様子が気になったのか、カップを置くとセシルの肩を揺する。
「おい、セシル、どうした。魂吸い取られたような顔をして」
「ああ、カイン……」
ただでさえ白い顔から、血の気が完全に引いている。薄くルージュをを引いたような唇も、酷く色が悪い。
セシルは肺を空にするようなため息をつくと、この経緯をぽつりぽつりと話し始めた。
コーヒーに口を付けながら話を聞いていたカインだったが、あの双子の強引さに少々苦笑いしてしまう。
それが何処か、微笑ましかったりもするのだけど。
「ま、子供なんてそれくらい強引な方が可愛いと思うがな。それにそこまで我が儘言われるなんて、好かれている証拠だぞ」
「カインは他人事だからそういう事言えるんだよ……」
セシルのエメラルドの瞳から、生気が失われている。
明日子供たちと共に大嫌いな絶叫マシンに乗るのも嫌だし、子供たちの前で醜態を晒すのも嫌だ。
「ねぇ、カイン。君も一緒に行かないか?みんながトルネド乗っている間、僕は下で待っているから」
セシルのお願いに一瞬目を丸くするカイン。
だがすぐににやっと笑うと、自分の長い金髪に指をかける。
「悪いがセシル、明日俺はヘアサロンの予約を入れてある」
これは本当。セシルもカインが予約の電話をサロンに入れているところを見ている。
「でもカイン、美容院なんていつでも行けるだろう?」
どうにかしてカインを連れて行こうとするが、カインは緩やかにかぶりを振る。
「あのサロンは人気だから、なかなか予約が取れんのだ。今回キャンセルしたら、次はいつ予約が取れるかわからん」
「ううう……」
それはセシルも知っている。だから、そう言われてしまうと、反論できない。
「……どうしてあんな番組放送したんだよ、テレビ局……」
綺麗な色合いのセシルの瞳が、心なしか潤んでいる。
何もこの程度で泣くなよ…とカインは思うのだが、セシルにとっては死活問題なのだろう。
「大丈夫だから泣くな。いい大人がジェットコースター如きで泣く事なかろう」
セシルのプラチナの頭をポンポンと叩くカイン。完全に子供扱いである。
セシルは眉間に皺を寄せ、唇を尖らせると、
「……何が大丈夫なんだよ」
「い・ろ・い・ろ・と」
一音一音を区切るように答えると、コーヒーカップを洗うために居間を出た。
そしてテレビの前で膨れ面を浮かべているセシルに、
「明日は駅までは車で送っていってやるよ」
「はいはい、ありがとう!!」
自暴自棄な様子で、セシルはカインに礼を言った。
明らかに、ありがとうとは思っていない。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ