二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

晴れた日の過ごし方 1

INDEX|11ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

翌日。駅でパロムとポロムと合流したセシルは、まるで予防接種を受けにいく幼児のような気持ちで遊園地へ向かう。
一歩一歩が、鉛のように重い。
「あんちゃん、元気ないなー?」
パロムがセシルの様子を案じて声をかけるが、セシルは精一杯の作り笑いを浮かべると、
「ああ、ちょっとお腹壊したからね。今朝からゴロゴロいっているんだ」
まさか、『トルネド』に乗るのが嫌だから……なんて、口が裂けても言えない。
『カインが居てくれたら……』
カインにトルネド乗りを任せて、自分はのんびりとソフトクリームでも食べながら、人々が遊園地で楽しむ様を眺めるのに。
現在セシルは右手でポロム、左手でパロムの手を引いているのだが(パロムは左利きである)、子供たちのその手の温かさも、今のセシルには痛い。
『あの時テレビでアトラクション特集をやらなければな、運命はもう少し違っていただろうに……』
懸命に話しかける二人の言葉に、生返事しかできないセシル。
真っ当に二人の話を聞いていられる余裕は、今のセシルには、ない。
「セシルさん、本当に体調がよろしくないようですわね。唇の色が青ざめていますもの」
ポロムに指摘され、セシルは弱々しく笑ってみせる。
「ああ、やっぱり調子よくないからね……」
「パロム、セシルさんこんな感じだから、トルネド乗るのやめておく?セシルさん余計体調悪くなるわよ」
ポロムがセシルの体調を気遣ってか、こんな事を提案してみる。
「途中でダウンしてしまったら、セシルさんも私たちも困るし」
パロムはいい子だな、本当にいい子だな。セシルは心から彼女の気遣いに感謝した。
できる事ならセシルは彼女を抱きしめて、頭を撫でてやりたかった。
だが、世の中そんなに甘くできてはないない。
「でも、腹壊したくらいだったら、正露丸飲めば平気だよ。オイラだってアイス食べ過ぎて腹壊した時、じーちゃんに正露丸飲まされてさぁ、それでスイミングスクール行かされたんだぜ?」
「……そういえばそんな事もあったわねぇ」
思い出すかのように遠くを見つめるパロム。
「だから、腹壊したくらいなら、大丈夫だよ」
「それもそうね。それではセシルさん、参りましょう。ウフフフフ」
子供たちは同時に駆け出す。
無理矢理小走りにさせられたセシルは、ミシディアの長老のスパルタ教育を少々恨んでいた。
『長老……お腹壊した時くらいは、スイミングスクール休んでもいいと思うんです……』
そんな本日の引率者の気持ちをわからないパロムとポロムは、昨日テレビで見た超絶絶叫マシーンを間近で見て大興奮していた。
頭の上からお客の悲鳴と叫び声が降ってくる。それが二人の気分をますます高揚させた。
「思ったよりも迫力あるわねー。楽しそうだわ!」
「あんちゃん、あんちゃん、見えてきたぜ!早く乗ろうぜ!」
顔を嬉しさでくしゃくしゃに崩して、セシルの手を引っ張るパロム。
もう待ち切れない、早く乗りたいという気持ちが伝わってきて非常に微笑ましいのだが、セシルには死神の導き以外の何者でもなかった。
『さよなら、ローザ。君を残して逝く僕を、君は許してくれるだろうか……』
縁起でもないモノローグが、セシルの脳裏に浮かび出す。
だがそんな事わかりもしない子供たちは、無邪気にセシルの手を引く。
「行こうぜ、あんちゃん!」
「行きましょう、セシルさん」
列に並ぶよう促すパロムとポロム。
昨日の番組の影響だろうか。アトラクションの前にはずらりと行列。
プラカードを持った係員がお客を誘導しているのだが、そこには、
『最後尾はこちら。現在1時間待ち』と記載されている。
「ねぇ、パロム、ポロム。トルネド乗るの、一時間待ちだって」
最後の望みを込めて二人にそう告げるが、子供たちの返事は至極あっさりしたものだった。
「別にいいよな、ポロム」
「うん、折角来たんだし」
「待つのも楽しいぜ。あんちゃんとお喋りできるしな!」
セシルの手を強く引くパロム。
好かれるのは嬉しいのだが、パロムやポロムに好かれるのは本当に嬉しいのだが……。
この時ばかりは、好かれるのも少々問題だと思った。
「じゃ、行こーぜー!」
半ばゾンビと化しているセシルと共に、列に並ぼうとした双子の姉弟。
二人が最後列のプラカードを持った係員の元へ並ぼうとした、その時。
係員は二人に気付くと、膝を曲げ視線を下げ、子供たちに尋ねる。
「君たち、トルネド乗りに来たの?」
「そうだよ!悪ィか?」
パロムが言ったか言わないか、ポロムの拳が飛んだ。
「痛ェ!!」
「すみません、口の利き方知らなくて。私たち、昨日のテレビを見て、どうしてもトルネドに乗りたくなって。今朝新幹線でここまでやってきましたの」
年齢不詳の喋り方で、ポロムが係員に説明する。
すると係員は少々困ったような表情を浮かべて、期待とワクワク感に胸を膨らませている子供たちに告げた。
「折角新幹線でここまで来てくれたのは嬉しいけれど、僕も私もトルネドには乗れないんだ」
「え!?」
その言葉に一番ビビッドに反応したのは、今の今まで口から魂を吐き出していたセシルである。
「あの、すみません、それどういう意味ですか?」
「保護者の方ですか?」
「引率者です」
子持ちと思われたくないから、さり気なく訂正する。係員は持っていたプラカードを指差すと、
「トルネドのシートベルトは、このプラカードよりも高い身長でないと、きちんと機能しないのですよ。なので身長130cm未満の方のトルネドのご利用は、ご遠慮頂いております。シートベルトから抜け出てしまう事故が起きたら大変ですから」
「えー……」
残念そうに声を上げるパロムとポロム。わざわざ新幹線の切符を買ってここまできたのに、身長制限に引っかかるとは!
「楽しみにしてたんだけどなぁー……」
表情を陰らせるパロムに係員は諭すような口調で、
「楽しみにしていてくれたのに、本当にごめんね。大きくなったらまた来てね。園には他にも沢山楽しい乗り物があるから、そっちで楽しんでいってね」
「ちぇッ……」
「パロム!!そういう態度は失礼でしょ!!係員さん、お手数をおかけしました」
小さく一礼するポロム。彼女も楽しみにしていただろうに。
セシルは大きく安堵のため息をつくと、落ち込む子供たちの頭をポンポンと叩き、二人の手を取って移動を促した。
「残念だったね、2人とも。でも身長足りないんじゃ、どうしようもないか……」
「ちぇーっ!折角来たのになぁ!」
唇を尖らせ、不満を露にするパロム。相当乗りたかったらしい。
セシルは入園ゲートで渡された園内案内図を広げると、不機嫌と残念を顔中に殴り書きしている双子に告げる。
「でもここまで来たのだから、楽しんでいこうよ。そうだね、今から『空飛ぶチョコボ』でも乗りにいく?」
「ならあんちゃん、ヴィンセントの館(お化け屋敷)行ってみようぜ!」
「え……」
「どうしたの、パロム」
「セシルさん、私お化け屋敷は……」
「なんだよ、パロム。ビビってるのかよ」
「そ、そんな事ないわよッ!!さ、行きましょ、セシルさん!」
「はいはい」
子供たちにお化け屋敷へ引っ張られるセシル。
今日は時間ギリギリまで二人に振り回される事になりそうだ。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ