晴れた日の過ごし方 1
「な、大丈夫だっただろう?」
夕方。駅までセシルを迎えに来たカインは、親友を見るなり開口一番そう言った。
RV車の助手席に乗り込んだセシルは眉間に皺を寄せて思い切り頬を膨らませると、ひどく低い声で恨めしそうに、
「……わかってたんでしょ」
「何が」
静かにアクセルを踏み、車を発進させるカイン。
サングラスの向こうの蒼い瞳は、フロントガラスの向こうを見つめている。
やや長めの金色の髪からはサロンの整髪料のせいだろうか、ほのかにいい香りがした。
セシルは車の中に転がっていたボトル入りガムを口の中に放り込むと、再び、
「わかってたんでしょ」
「何が」
カインも再び同じ答えを返す。するとセシルは唇を尖らせ、
「パロムとポロムがトルネド乗れない事!」
「だから昨日、大丈夫って言っただろう?」
整った口元に薄い笑みが浮かぶ。
明らかにセシルの反応を楽しんでいた表情だ。
「俺は仕事の関係や趣味で何度も来ているからな。普通絶叫マシンはシートベルトの関係で、子供や小柄な人間は乗れんのだ」
「だったら、どうして昨日のうちにそれを教えてくれなかったのさ!」
不機嫌と悔しさを視線に宿してカインを睨みつける。
するとカインはセシルの不機嫌ビームなど意に介さぬ様子で、心底愉快そうに笑う。
「お前の様子が面白かったから」
女性でなくとも見惚れてしまうような笑みを浮かべ、ものすごく意地の悪い事を言うカイン。
セシルの綺麗なエメラルドの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「バカイン!!酷いよ!今日は絶対に赦さないからな!!」
「ハイハイ、悪かったよ」
子供をあやすかのような口調である。悪いとは全く思っていない。
だから。
「ねぇ、カイン。本当に悪いと思ってる?」
「思ってるよ」
ハンドルを握りつつ適当に返す。するとセシルはフロントガラスから差し込む西日に目を細めると、ウィンカーのレバーを突然右手で跳ね上げた。
「ちょ……、お前!」
交差点の手前、右折の合図を示すカインの車。家に帰るには『この交差点を左折』なのに、何を考えているんだ!
「チッ!」
後続車がいるため今更左折に変更もできない。渋々右に曲がる。
「おい、セシル!」
やや声を荒げるカインに、セシルはニコッと笑ってみせる。
「悪いと思ってるなら、今夜はJOJO苑で焼き肉ね。勿論、カインのおごり」
「おいおい……」
思わず絶句するカイン。口元が引き攣るのが自分でもわかる。けれどもセシルは気にしない。
「悪いと思ってるんでしょ?」
「……ったく。お前は本当にいい性格をしているよ」
「君ほどじゃないけどね」
「いや、お前ほどじゃないさ」
降参したカインは帰宅するのを諦め、店のある繁華街に車を向けた。
今夜は、焼き肉だ。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ